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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第6章 Riss─綻ぶ─

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41話 歓迎審査



 ペトロが無言で立ち尽くし、来訪者を迎え入れる気配がないので、ヨハネはどうしたのかと声を掛ける。


「ペトロ。誰が来たんだ? 配達?」


 ヨハネの声がすると、ハーロルトは開いた扉から顔を覗かせた。


「久し振り、ヨハネくん」

「ハ……ハーロルト!?」


 思いも寄らない来客に、驚いたヨハネは目を丸くして席を立つ。同時に、ビックリマークとクエスチョンマークを頭上に飛び出させた。


「この前はごめんね、ヨハネくん。父さんのせいで……」

「それはもういいんだけど。どうしたんだよ」

「戻って来ちゃった」


 一方的に唐突に帰郷し、そしてまた突然戻って来たことを軽薄だと自覚しているのか、ハーロルトは少し申し訳なさそうに微笑した。


「戻って来ちゃったって……。オイゲンさんや、ご家族は?」

「ちゃんと理解してもらったよ。父さんは、渋々って感じだけど」

「あのオイゲンさんを、どうやって……」


 二度と会うことはないと思っていたのに、ハーロルトの方から───しかも自らの意思で戻って来るとは、不意打ちにもほどがある。あの岩頭の父親が送り出すなんて、どんな話術を使ったんだ。あの剣幕から全く想像できないが、実は、息子に甘えられるとデレデレするほど弱いのか?

 と、ヨハネがオイゲン説得の裏技を推考していると、ペトロは突然、事務所を飛び出して行ってしまう。


「ペトロ!?」


 すぐに、隣の住民用出入り口の扉の音がした。階段を駆け上がったペトロは自室に行ってしまい、その後、事務所には戻って来なかった。




 その後。まず、学校から帰宅したシモンが驚いた。日暮れ頃になると、帰り道で偶然一緒になったヤコブとアンデレも帰って来て、リビングルームにさもここの住人のようにいるハーロルトに「なんでここにいるんだよ(いるんですか)!」と、声を揃えて喫驚した。


「どういうことだよ、ヨハネ」

「とりあえず、座ってくれ。二人が帰って来るのを待って、話を聞こうとしてたんだ」

「ペトロは? この時間からバイトか?」

「いや。今は部屋にいる。ハーロルトの話聞かないのかってメッセージ送ったら、『ムリ』だって」

「ま。そうだよな」


 ヤコブは、微妙に腹立たしそうに腕を組んだ。アンデレも、あまり歓迎していない雰囲気を醸し出している。

 五人は、ハーロルトの横にシモンとヨハネ、三人の正面にヤコブとアンデレが座り、ヤコブからの質問で話が始まった。


「で。何でお前は、またここにいるんだ? 大学に復学するのか?」

「それはまた、おいおい考えようと思ってて」

「えっ。大学に行くために、戻って来たんじゃないのか?」

「ボクも、そう思ってた」

「じゃあ、何で……」


 それ以外の目的とは、あの件以外だとすると何なんだろうと、他の三人も同様に抱く疑問をヨハネは尋ねる。


「僕は、またみんなと過ごしたくて戻って来たんだ」


 思わず聞き返したくなる軽い動機を訊いたヤコブは、右手で頬を突き、片眉を上げてハーロルトを見遣る。


「おいおい。ここは、合宿所じゃねぇんだぞ。俺らは、お前の大学の同期でも何でもない。一般人に、シェアハウスと同じ感覚で戻って来られても、迷惑なだけなんだけどな」

「勝手に出て行った人が、何言ってるんすか」


 アンデレもまた、動機とも言えない動機に腹立たしそうに物申した。


「ヤコブ。ちょっと言い方がキツいよ」

「アンデレも。まだ何も聞いてないのに、そう言うのはやめろ」


 歓迎ムードのない二人を、シモンとヨハネは宥めようとするが、ハーロルトはそれは想定済だった。


「大丈夫だよ、二人とも。あんまり歓迎されないことは、なんとなく想定してたから」

「それじゃあ。何で戻って来たのか、ちゃんと説明してくれよ」


 ヤコブは背を凭れ腕を組み、尊大な態度で尋ねる。

 夜の帳とともに、住宅街に静けさが戻って来ていた。窓外には、向かい合って建ち並ぶ旧集合住宅(アルトバウ)の部屋の明かりが、ぽつりぽつりと灯っている。

 ペンダントライトとフロアライトで、リビングルームは光に包まれているが、オイルヒーターの暖かさがあっても、すき間風が忍び込んでくるようにどこか空気が冷えている。


「僕が、みんなを少しでも期待させて裏切ったのは、認めるよ。相談もしないで帰ることを決めたのも、悪かったと思ってる。振り回してごめんなさい」


 ハーロルトを頭を下げ、厚顔無恥なことを一同に謝罪した。ヤコブとアンデレは、無言で謝罪をひとまず受け止める。


「ヨハネの説得を断ったのに、何で戻って来たの?」


 シモンが尋ねた。頭を上げたハーロルトは、目だけ伏せたまま、戻って来た理由と胸懐を話した。


「僕は本当に、何も知らないふりをしていていいのか、疑問に思ったんだ。ヨセフくんは責務を果たせって言うし、父さんは戦う必要はないって言って、僕はどっちの言葉を信じればいいのかわからなかった。でも。クアラデム家が倒すべき敵がいて、それを認めながら無視するのは、違うと思うんだ。使徒(きみたち)が戦ってくれてるから任せようなんて、僕には考えられなかった。ヨハネくんが一人で悪魔を倒したのを間近で見て、僕はこのまま傍観者になりすませないような気がした。だけど。戦うのが怖くなったのは本当だし、自分にできるなんて未だに思ってない。みんなのような覚悟を、抱けるかもわからない。それでも、無責任な人間にはなりたくなかった」

「つまりお前は、何しに戻って来たんだ」


 厳しい眼差しのヤコブの問いに、ハーロルトは視線を上げて答える。


「きみたちのように、強い意志と覚悟を持てる人間になるために……。自分の宿命を果たせる人間になるために、戻って来たんだ」


 ハーロルトはヨハネたちを振り回したと言ったが、宿命を隠され、強引に真実を突き付けられた彼も、振り回された側だ。そのおかげで決意は揺らぎ、ヨハネたちの期待を裏切ることとなった。

 しかし。真実から目を背けて逃げ帰ったハーロルトは、再び現実を目にしたことで、今回こそはちゃんと宿命と向き合おうとしていた。四人に語った言葉にも、嘘は一つもない。

 だが。腕組みをして訊いたヤコブは足も組み、ハーロルトの決意を聞いても態度は変わらない。


「結局。戦闘ド素人の一般人が、戻って来ただけじゃねぇか」

「ずっと傍観者を決め込んでたんだから、そう簡単には信用してくれないよね。でも、以前の僕とは心構えが変わっていることを、これからの行動を見て信じてほしい」


 ヤコブの意思は、オイゲンに負けず劣らず解すのが難しそうだ。しかしアンデレの方は、ハーロルトの胸懐を聞いて素直な性格が働き、理解を示し始めた。


「おれは、話す姿勢を見てて、前のハーロルトさんとは違うと思います。真剣に、ちゃんと宿命のことを考えようとしてるんだって。だけど……」


 けれどやはり、ペトロのことが気掛かりで歓迎することをためらう。ハーロルトの話を聞かずに部屋に籠もっているのも、気持ちの整理ができてきたところに突然戻って来て、受け入れ難く思っているんだと察していた。


「アンデレの心配事はわかる。でもペトロも、戦力として必要だと一度は認めてる。ただ今は、急に戻って来て戸惑ってるだけだ」

「ヨハネさんは、ペトロの本心は無視しても平気なんすか」


 仲間の気持ちよりも戦力増強の方が大事なのかと、アンデレは不満げに問う。


「そんなことない。確かに時間はほしいだろうけど、あいつは使徒の使命を何より優先してる。ハーロルトがいずれ戦力となるなら、使徒としての判断を下せるはずだ」

「そうかもしれないですけど……」

「ちなみにアンデレは、ハーロルトが戦力になるなら、ここにいても構わないか?」

「それに関しては、まぁ……。賛成します」


 ペトロの気持ちを蔑ろにされるのは不服だが、アンデレも使徒としての判断はできる。賛成は、シモンも同様だ。


「ボクも。前向きに考えてくれてるのは、嬉しいよ。でも、無理はしてほしくないから、ハーロルトのペースでいいからね」

「右に同じだ。無理して大怪我でもしたら、オイゲンさんに訴えられそうだからな」


 バレたら悪魔の大王ような剣幕で乗り込んで来て、怒罵(どば)を撒き散らしそうだ。そうならない配慮も考えつつ、説得を提案したヨハネも拒否はしなかった。だが。


「俺は保留で」


 ヤコブだけは、ハーロルトを戦力として迎えるか否かの判断を見送る方針を示した。


「戦うのは怖い。自分に戦えるなんて、未だに思ってない。俺らのような覚悟を、抱けるかもわからない。だけど、無責任な人間にはなりたくない。そんな中途半端なやつを、その心意気だけで認めるつもりはない」

「うん。わかってる」

「温室育ちのお前の意識が、少し変わったのは理解した。けど。また逃げ出す気が少しでもあるなら、大人しく帰った方がいい」

「ヤコブ。ハーロルトは、オイゲンさんの反対を押し切って来たんだよ。宿命と向き合うことだって簡単じゃなかったはずだし、その気持ちを汲んであげてよ」


 シモンはハーロルトへの歩み寄りを求めるが、ヤコブは真価を問うように厳しい姿勢を取り続ける。


「甘やかすつもりはない。お前の先祖が、やつらとどんな戦いをしてきたかは知らないけど、ヨセフに見せられたんだろ。お前自身は、先祖と同じ覚悟で同じ戦いができる未来は見えてるのか」

「正直言うと、まだ見えてない。だけど、クアラデム家の責務を使徒に押し付けるつもりは、今の僕にはないよ」

「自分の宿命を受け止めても、最後まで逃げるつもりはないってことか?」

「そうできるように、努力する」


 ヤコブに納得してもらうには「絶対」と言うべきだが、ハーロルトはその場凌ぎには使わなかった。

 ハーロルトの嘘偽りのない思いを聞いたヤコブは、思量する。厳しい態度を変えないヤコブに、ヨハネは説得を試みる。


「ヤコブ。最初は他人事に捉えていたあのハーロルトが、ここまで意思を変えて戻って来たんだ。すぐに仲間として受け入れろとは言わないけど、後輩として受け入れてやる余地くらいはないか?」

「ここは研修施設でもないし、俺らは教官でもないけど」

「そう言わずにさ。戦闘のいろはくらい教えてやらないと、いざやる気になっても足手まといになるだけだし。それは、ヤコブもイライラするだろ?」

「それは絶対イライラする。戦闘中に邪魔になったら、蹴り入れるかも」

「ヤコブくんの蹴りは、強そうだね」


 ハーロルトは微苦笑して、自ら歩み寄りのゆとりを作ろうとする。


「ハーロルト自身は、戦力になるつもりでいる。勝手に出て行ったことをムカついてるのはわかってるけど、今後の行動次第でチャラにしてやらないか?」


 オイゲンのように頑固な意思を通し続けるヤコブは、目を瞑り黙考する。けれど、会話に僅かに冗談を交えられる余裕が見られ、ヨハネたちはすぐに答えが出ると確信していた。

 黙考したヤコブは、目蓋を開きハーロルトに視線をやる。


「……わかった。戦力になるつもりなら、その覚悟を忘れるなよ。ハーロルト」

「わかったよ」

「ということで。四人は戦力としてハーロルトを歓迎するってことで、異論はないか?」

「うん」


 その方針に依存はないシモンは、頷く。ヤコブも無言で頷き、アンデレは了承と不満が半分半分の気持ちで首肯した。


「……さて。あとはペトロか」




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