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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第6章 Riss─綻ぶ─

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39話 こんな一日の始まりは嫌だ



 同日の朝。今日は、無事に二度寝を回避したアンデレを含めた五人で、朝を迎えてテーブルを囲んでいた。

 ところが、ペトロは空気が悪いと感じていた。会話はあるのだが、いつもの和気藹々とした緩いキャッチボールではなく、隣では強めの玉が行き交っていた。


「お前はいい加減に、今日みたいに自分で起きろ。アラームが鳴る時間を一時間早くした方がいいって言ってるのに、その通りにしないし」


 ヨハネは、いつもの不満にかなり苛立ちを上乗せしていた。しかし、ストレスを溜めさせたくないと思っていたはずのアンデレは、不貞腐れた顔で文句を垂れる。


「一時間も早く起きて、何するんすか。何もすることないのに、早起きしたくないです」

「僕が口を酸っぱくして言ってるのは、お前のためだってわかってるだろ。毎度毎度、同じことを繰り返して。成人として恥ずかしく思わないのか」

「ヨハネさんが口を酸っぱくしてるなら、おれは耳に胼胝(たこ)ができまくりです。別に、反省してないわけじゃないのに、いつもいつもそうやって……。ていうか。おれのためとか言いますけど、自分がイライラしたくないから言ってるだけですよね」

「イライラするのは当たり前だろ! 二度寝して遅刻しそうなお前を起こすのは、必然的に同室の僕なんだ。反省してるなんて口だけのやつを、ストレス溜めながら仕方なく起こしてやってる僕の身にもなってみろ! ストレスとは無縁のお前にわかるか!?」

「ほらやっぱり! おれへの優しさなんて、全然ないじゃないですか!」

「人の優しさが永遠に続くほど、世の中甘くない!」

「ていうか、おれのこと何だと思ってるんすか! おれだってストレスくらい感じますよ!」


 苛立つ様子は見掛けたことはあるけど、一秒後には忘れて全く別の話をしてる気がする……。ということはペトロは突っ込まず、ブロートを食べながらケンカをする二人を見兼ねて止めようとする。


「二人とも。朝からケンカはやめろって」


 宥めようとするペトロを、アンデレがムスッとした表情で振り向いて、隣のペトロに尋ねる。


「ペトロは、どっちが悪いと思う? ヨハネさん? それともおれ!?」

「いや、それは……」


 お子様みたいにマーマレードを口に付けてる、アンデレの方だろ。その見た目からして、多数決を取っても大敗するのは明らかだ。

 そう言って、ヨハネの味方をしようとしたが。今度は、正面のヤコブとシモンのケンカの声が聞こえてきた。


「ヤコブはボクよりも、お店の店長さんの方が大事ってこと?」

「そうは言ってねぇだろ。上司だから、あんまり邪険にできないだけだ」


 こっちもこっちで、シモンは不満げな表情でヤコブを問い質し、ヤコブは面倒臭そうに顔も合わせず揉めている。


「でも最近、しょっちゅう夕飯一緒に食べて来たり、休みの日でも連絡来ると誘われてすぐ行くじゃん」

「だから、断るの申し訳ないからだって。あの人もいろいろ大変で、俺を頼ってくれるから相談に乗ったりしてんだよ。ていうか。しょっちゅうって言うほど行ってないだろ」

「ボクよりもその人の方が、ヤコブは優先したいってこと? 店長さんのこと、そんなに好きなんだ?」

「好きとかそういう話じゃねぇよ。お前はまだ学生だからわかんねぇだろうけど、社会に出れば人付き合いは大事なんだよ。時と場合によっては、友達とか家族とか、恋人よりも優先しなきゃならないことがあるんだ」


 シモンは、持っていたコーヒーカップを置いた。天板に強めに陶器が当たる音がして、ベージュ色のコーヒーが波打った。


「また、ボクのこと子供扱いした! ボク十六歳になって、お酒飲めるようになって、大人に一歩近付いたんだよ? なのに、ヤコブはまだボクを子供だと思ってるの!?」

「お前が子供だなんて、言ってねぇだろ」

「ボクは、社会を知らない子供だから後回しなの? だからヤコブは、ボクよりも大人の店長さんを優先したいんだ!?」

「そんな話してねぇだろ! 俺の話、ちゃんと聞いてんのか!?」


 二人は眉間に皺を寄せた顔を合わせ、睨み合い始める。この前まで醸していた微笑ましいイチャイチャは、秋の強風に大西洋方面に吹き飛ばされてしまったのだろうか。

 発生した二件目のケンカも見過ごすわけにはず、ペトロは止めようと口を挟もうとした。


「ヤコブとシモンも、朝からケンカは……」

「ペトロは、ボクとヤコブのどっちが悪いと思う!?」

「俺は何も悪くないよな? お前は俺とタメなんだから、わかるよな!?」


 二人から同時に、無罪と擁護を主張された。弁護士でもないペトロは、六法全書を見ればケンカが収拾する答えが書いてあるんだろうかと、分厚い鈍器本を求めたくなった。


「……頼むから、〈バンデ〉のケンカに巻き込まないでくれ」


 毎日というわけではないが、お互いのあいだで不満が溜まると、こうして食卓でも朝晩構わずケンカが始まる。今まではかわいい揉め事で済んでいたが、最近は本気のケンカに発展してきている。

 今まで食卓でもイチャイチャを見せていたヤコブとシモンだけでなく、軽く揉めては仲直りを繰り返していたヨハネとアンデレの仲まで、雲行きが怪しくなってきている。〈バンデ〉として順調な成長を見せていたヤコブとシモンが、本気のケンカをするのは初めてだ。

 それよりも。まだ〈バンデ〉として未熟なヨハネとアンデレまで仲違いをしてしまっては、これでは、何だかんだで上手くいきそうだった関係に亀裂が入ってしまう。

 重症化する前にどうにかしなければと考えるペトロだが、自身もこの空気にいつまで堪えられるかわからない。これが日常風景にならなければいいが、どうしたものかと日々悩まされている。


(相談できて、頼りになる人がいればなぁー……)

「はあっ……」


 仲間のこの風景を目にする度に、ペトロは深い溜め息をつく。これも、近頃の日常風景になりつつあった。




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