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7/10

レースのリボン

 手紙がきて、レティセラは、アルバートに期限よりも早く、帰らなくてはいけなくなった事を伝えると、彼もこの急な話にとても驚いていた。


 その時に、2月になったら、海をわたり嫁ぐことになっている事も、アルバートにだけは明かす事にした。


「残念ですね。オズヴァルド様に話してみたら、お力になって頂けるかもしれませんよ?」


 レティセラは、首をふっていた。


「いいえ、そんな事、頼めません。ただでさえ父が無理言って、ここにいさせてもらっているのですから」


「ですが、レティセラ……、レンヴラント様には、お伝えしておくべき、なのではないですか?」


「はい……。そうするべき、だと思います」


 最初は最悪で、意地悪だったけど、この一年、彼には良くしてもらった。わたしの言った事に「誇らしい」と言ってくれた事が嬉しかった。


 そう思って伝えることを決心してから、ようやくレンヴラントに呼び出されたのは、その、5日あとの事だった。



 部屋に入るとレンヴラントは机に座っており、彼の目の前にレースのリボンで結ばれた小さな箱があった。


「2月って言ったよな?」

「そう、ですね」

「ずっと、いる事は出来ないのか?」


 そう言われて、『ずっと、いたい』と言ってしまいそうになった。なのに、レティセラはにっこりと笑って首をふった。


「親から言われているんです。一年間だけだって」


 自分よりも優先する、とレンヴラントは腹がたった。小さな箱をゴミ箱に投げすて、背中を向けた。


「レンヴラント様、箱の中身が可愛そうです」

「受け取ってもらえないなら、意味なんてない!」


 ゴミ箱に捨てられた箱からレースのリボンだけをとる。


「これだけ。頂いてもいいですか?」

「………好きにしろ」


 レティセラはリボンをネックレスに結い、後ろを向いたまま黙るレンヴラントに声をかけた。


「あの。お世話になりました」

「…………」


 レンヴラントの背中にお辞儀をすると、レティセラは部屋を出て行った。




 その2日後。


 誰も見送りにこない屋敷の前で、レティセラは馬車に乗り込んだ。

 見送りにはアルバート、ただ一人。

 それは、私が望んだことだった。


「レンヴラント様には、伝えたのですよね?」

「……はい」


 彼にもらったリボンで髪を束ねて、馬車の中から、レティセラは相変わらず笑顔をはりつけていた。


「わたしだけが見送りなんて、寂しいですね。言えばみんなきっときていますよ」


「いいんです。この方が去りやすいので」


 レンヴラントは怒っていた、その証拠に呼び出された日から見かけることもなかった。


「ただ、一年いただけのしがない使用人、がいなくなるだけなんですから」


 実際、こんな馬車を用意してくれるだけでもありがたい。本当に、感謝をしていた。


「アルバートさんも、体に気をつけて。それと、レンヴラント様を、お願いします」


 惜しい。


 彼女が乗った馬車が、小さくなって行くのを見て、アルバートは思っていた。




 一週間。


 一週間だ。レティセラと話していない。姿も見ていない。

 レンヴラントは屋敷を歩き回ったり、外に出てレティセラの姿を探していた。


 彼女の声が聞きたい。


 でも、そんな事言えなかった。偶然をよそおえば、いつでも誤魔化せるから。

 どんだけ探しても、レティセラはおらず、レンヴラントは我慢ができなくなって、アルバートに聞くことにした。

 すると、アルバートはとても驚いて目を丸くしていた。


「聞いたのではないのですか?」

「聞いたって、何を、だ?」


 アルバートが言った事に、レンヴラントが勢いよく立ち上がり、椅子が音を立てて倒れる。


「なんだって!! そんな……5日も前に辞めただなんて! 期限は2月だったはずだろう?!」


「家から、連絡が来たのです。時期を早めるようにと」


「そんな、あいつは家に帰っても、べつに用事なんてないだろう?」


「……いいえ。いいえ。違うんです。彼女は確かに、あなたをロウラクして来るように、言われていたのだそうです」


 そんなことは知ってる。でも、そんな素振りは全くなかったんだ。


「でも、出来なかった場合………」

「どうした、早く言え!」


 レンヴラントは嫌な予感しかしなかった。


「彼女は、他のところに嫁ぐことが決まっていたんだそうです……」


 目を見開く。


 彼女が、他の誰かのものになる。全身に震えが走った。


「船に乗るのは、ちょうど今日」


 出港は2時。


 レンヴラントは時計も見ず、走り出していた。

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