レティセラの気持ち
自宅にもどり、わたしは5日後に海を渡るように、とだけ父親から伝えられ放置された。
こんどは弟も一緒に行くことになっており、それだけは安心してしいたことだった。
出発の日。
わたし達になんて、見送りはいない。
「レティセラお姉ちゃん、ボク、なんだか怖い」
「大丈夫だよ」
不安そうに見上げる弟のデルマに笑いかけ、背中に手を添えた。
「行こうか」
ちゃぷん、ちゃぷん、と水の音がするさん橋をわたり、船に乗り込むために2人で階段を上がった。
汽笛がなり、海を波立てて船が動き出す。
少しずつ遠くなっていく港を眺めて、笑顔をはりつけたレティセラは、ぼんやりとレンヴラントの事を、思いだしていた。
最初にあったときに、邪魔だと言われて、腹を立てた事。
なまえを聞かれて、目感触りだと言われたこと。
(最初は散々だったな)
彼を最高にいじわるだと思ったのは、イタズラにネックレスを振り回された時だった。
あの後も意地悪だったけど、でも。
…………彼は優しかった。
眺めていた港が、ぼやけて見える。
いじわるで、でも、甘えん坊で、わたしを引き止めようとしてくれた。
「うぅ……うぅ……」
ネックレスに結んだ、レースのリボンをつかみ、レティセラは泣いていた。
もう、会えない。
会えないんだ……
そう、思うと、涙が止まらなかった。
「……うぅ…………ぐすっ」
(レンヴラント様……わたしも)
「ずっと、いたかったよ」
誰にともなく零した、言っておけばよかったと思う、ことば。
「あなたが、好き……」
かなしくて、かなしくて。
もう、見ていられなくて。
レティセラはうつむき、両手で顔を覆っていた。
あたまを撫でられる感覚にびっくりして振り向くと、レティセラは言葉をなくしてしまった。
綺麗な紺色の髪に、いつもの意地悪そうな顔は、今は、怒っていた。
「なんで、言ってくれなかった?」
レンヴラントはレティセラがつかんでいるレースのリボンを見て目を細めていた。
「言えません、でした」
「もう、そんなふうに笑わなくていい!」
レティセラが、息を整えて、笑顔をつくっていると、レンヴラントはぐいぐいと頭をこねくり、叱りつけた。
ぽろぽろと、涙をながすレティセラの手をつかみ、レンヴラントが意地悪そうに笑う。
「言ってただろ、来年、雪が見たいって」
「言いました……でも」
「いいから!」
レンヴラントが鳥のような乗りものを召喚すると、レティセラをそれに乗せようとした。
「あの、レンヴラント様。わたしは行くわけには」
私だけならいいのかもしれない。でも、今は弟もいっしょに乗っている。ひとり、いなくなるわけにはいかなかった。
「心配いらない。弟はアルバートが連れてくる」
そう言って、彼は、わたしを召喚獣にのせた。
「ピーーーィ」
暖かさを感じる空に飛び上がり、乗っている鳥が澄みわたる鳴き声をあげる。
水面が、きらきらして、なんだか信じられなかった。
「あの、なんで船に乗っていたんですか?」
「国の宰相の息子なんてやってるとな、ツテなんていくらでもあるんだぞ」
レンヴラントは得意げに笑って、バラの刺繍のはいるハンカチで、レティセラの涙を拭いて、じっと彼女の顔をながめる。
「あのっ」
恥ずかしくて、目を泳がせてしまう。レンヴラントに、頬に手を添えられて、レティセラの顔は、真っ赤に染まっていた。
「……間に合ってよかった」
うれしい。
レティセラは、また、涙があふれていた。
「……ぐすっ、ぐずっ。うれしい」
「ははは、そうか」
レンヴラントは、もう、いなくなってしまわないように、レティセラを腕に閉じ込めると、嬉しくて、顔がくしゃくしゃになって痛くなるほど、笑っていた。




