うそつきな私
「すみません、嬉しいのですが。約束なので」
レティセラは頭を下げていた。
「そうですか……できたら、と思ったのですが。残念です」
アルバートの言葉を聞いて、素直に嬉しいと思う。べつに、何もなければ、のこったっていいのだけれど……
「レンヴラント様には、この話は伏せたままでいいのですか?」
「はい、できれば、それでお願いします」
「そうですか」
「ありがとうございます」
なぜか、と聞こうとして、彼女の顔をみたアルバートは黙った。
レティセラは笑っていたが、アルバートには泣いているように見えた。
「レティセラ?」
庭をほうきで掃いていると、レティセラは名前を呼ばれ、ふり返り、大きく目をあけた。
「え?」
(今、名前呼んだの?)
「え? じゃない。いつもと違うから……自信がなかっただけだ」
「あら」
レティセラは、自分の髪を触っていた。
そういえばさっき、つよい風が吹いて、髪を結んでいた紐が取れてしまったんだった。
今集めている葉と同じ色の、すこしふわっとした髪。
「さっき、ほどけてしまったんです」
後ろを向いたレティセラは、また、箒を動かし始めた。
「また、何かご用事なんですか?」
「………いや、夜会シーズンになる前に、お前も一度、実家に帰るのかと思って」
レンヴラントはレティセラの髪に、無意識にのばしかけていた手を、我に返ってひっこめた。
「帰るのは、春ごろにしようかと思ってます」
「そうか。来年は忙しいだろうから、帰る暇ないぞ? 春でもなんでも一度くらい帰っておけよ、親も心配してるだろうしな」
確かに今、帰省しているメイドが何人かいる。毎年、時期を少しずらして休みをとっているらしかった。
「忙しいんですか? 来年」
「タラッサの祭りある年だからな。使用人まとめて連れてく事になると思うぞ」
この国では、雪が降るところは限られており、タラッサはそのひとつ。
「それは楽しみです。わたし、雪見た事ないですから」
そう、言いながら、振り返って笑うレティセラを見て、レンヴラントは聞いた。
「なんで、いつも、そんなに笑ってるんだ?」
みるみる、彼女の顔からは、笑顔がきえ、それを隠すようにレティセラは、うつむいてしまった。
「…………思ってあげたいから」
「え? なんだって?」
「わたしだけは、かわいそうじゃない、と思ってあげたいから、ですかね」
「…………」
シャッシャッ、と箒を掃く音。落ちてきた葉っぱが、レティセラの髪にのると、レンヴラントは手を伸ばしてそれを取った。
「誇らしいな」
我ながらいい事を言った、と思っていたレンヴラントが得意げに笑って見下ろすと、レティセラはきょとんとして、首を傾げた。
「もしかして、熱でもあるんですか?」
(イタっ)
レンヴラントに、何度かあたまを叩かれ、レティセラが、手でかばっていると、しまいにはぐりぐりとされて、大きな声を出した。
「もうっ! やめてくださいよ! 何なんです?」
「お前、今のは、いい事言いましたね、とか、嬉しいです、とか。言うところだろ?」
コツン、と最後に軽くたたかれ、行ってしまうレンヴラントの背中に、レティセラは、ほんの小さな声で「ありがとございます」とつぶやき、くちびるの端を持ち上げた。
レンヴラントは、さっきの言葉を聞いて、とても不安を感じていた。
『どうも様子がおかしい』
自分が言った事が、確信にかわったのだった。
「アルバート!」
「何でしょうか?」
部屋を片付けていたアルバートは、険しい顔をしたレンヴラントを見て、すぐに近くに寄ってきた。
「あいつ……レティセラ。分かった事はないのか?」
「分かった事、と言いましても……」
「おれは、いやな予感がする」
「レティセラは……おそらく、家に居場所がないのかもしれませんね」
それは、レンヴラントも、思った事だった。
※
そして、12月。
夜会シーズンとなり、少し経った頃。
いつもよりも、ずいぶんと酔っ払ったレンヴラントが、よろよろして歩いて帰ってくると、部屋の準備を、していたレティセラが驚いて、走り寄り、レンヴラントを支えた。
「レティセラか……」
「大丈夫ですか? 飲みすぎですよ。きゃっ! レンヴラント様!」
レンヴラントに抱きつかれ、レティセラは声をあげた。まばたきを忘れ、そのまま、彼の体が倒れてしまわない様に、支えていた。




