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24 限界速度①

 ――月面第七都市『バクムーン』近郊




 一筋の光が月面すれすれを塵を舞い上げながら突き進んでいく。

 スラスターを全開に吹かしているのは【TMA】。抵抗を極力減らすために各所が先鋭化された見慣れぬ白亜の機体。

 既存機のどれよりも大きなバックパックを有する機体は、その推力を駆使して目標物へと接近していた。



「――目標、確認」



 最大望遠にて破壊対象となる戦艦ダミーバルーンを視界に捉え、ターニャは報告するようにつぶやいた。

 直後、ダミーバルーン付近の模擬砲台よりペイント弾が放たれる。それを目視にて確認したターニャは、左腕の『専用シールド』を構えつつ各部のスラスターを駆使して速度を落とすことなく回避して見せた。 

 常に座席に押し付けられるような圧迫感に、急速機動による負荷が重なる。飛びそうになる意識を何とか留めつつ、有効射程に到達した右手に握る『150mmライフル』の銃口をダミーバルーンへと向けた。



「有効射程到達、攻撃開始」



 舌を噛まぬように短く告げ、ターニャはトリガーを引く。応じて放たれた弾丸は、ダミーバルーンを撃ちぬいた。

 続けて模擬砲台も弾丸が叩き込まれ、ペイント弾による迎撃が止む。対象物の沈黙を確認したターニャは次なる行動に移った。



「対象を撃破。後続機に前方を一任。背後の警戒に当たるっ――」



 背後より時間差で付いてきている味方機の後方警戒のために脚部のスラスターを全開で吹かし、上昇しつつ機体を180度反転させていった。



「っぅ――!」



 本機において理論上は可能とされた立体的な機動。見事に実践したターニャだったが、喉元まで今朝の朝食が到達するほどの負荷が彼女を襲っていた。

 盛大に吐き出して吐瀉物でヘルメット内を汚すのを何とか堪え、最悪な気分のままで機体を加速させていく。

 


『ターニャ伍長、大丈夫か』


「――大丈夫、です。試験運用を続けます」



 青ざめた顔で回線越しのアランに応えたターニャは、機体の制御に全神経を巡らせる。体調不良を訴えるかのように霞む視界で、後続から迫る同型機を捉えた。

 予定通りに付いてきてくれた同型機を見て、後もう少しで試験運用が終わる事実が心身に安堵をもたらす。苦しさ滲む彼女の表情が多少ながら和らいだのだが、直後に気づいた異変がその顔を歪ませた。



「……逸れてる?」



 迫ってきている後続の同型機が、予定進路から徐々に逸れているのを確認したのである。

 予定通りならば、ターニャ機の真下を通過していくはず。だのにもかかわらず、あらぬ方向へと機体が傾き始めていた。

 後もう少しで通過予定時刻。自機から見て右方向へと大きくそれた後続機に向け、ターニャは進言した。



「2番機、聞こえますか? 逸れています。軌道修正をお願いします。繰り返します、軌道修正を――」


『伍長! 防御行動をとれ!』


「っ!?」



 ターニャの言葉を遮ったのはアランの叫び声。鬼気迫る声に驚きつつも左腕の『専用シールド』を前面に構える。

 直後に見た光景にターニャは険しい表情で口から漏らした。



衝突クラッシュ……!」



 後続機は月面に脚部を衝突。吹かしたままのスラスターの火が完全に消えるその時まで月面に大きな傷痕を創っていった。

 月と機体の破片が一帯に飛び散っていき、急制動をかけたターニャの機体にも届く。四肢が千切れ飛んで人型の原型がないほどにまでになった後続機は、大型のクレーターに衝突することでようやく止まるのだった。

 これほどの惨状では、搭乗者の生存は絶望的。だとしても可能性がないわけではないと考え、ターニャが無残な姿となった後続機へ向けて一歩踏み出したが、手遅れだった。



「!」



 踏み出した一歩が月面の塵を舞い上げた刹那、後続機が炎を上げて爆散した。

 焼け焦げ、端が欠けたクレーターを見て、ターニャは下唇を噛む。その後、悔しさ感じられる声で回線越しのアランに向けて告げるのだった。



「……後続機、大破。【PA-10 ニトロ】の試験運用は、失敗と思われます」

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