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23 責任④

「大尉の下に行くだなんて……、相当考え込んでたんだろうね」



 慰めるように、且つ精一杯の同情の念を込めて手の主、グエンはターニャに語り掛けた。

 あからさまにすぎる「私はあなたを親身に思っています」といった雰囲気は痛々しさを通り過ぎて清々しささえ感じられる。



「でも、大丈夫。大尉だけでなく、俺も頼ってくれていいんだぞ」



 そういって胸の中で固まったままのターニャに語り掛けるグエン。この男、このタイミングを狙って口説きにかかってきたのである。

 アランとの話を邪魔をしようとは思えなかった。だが、それはそれ、口説きにはいくと割り切ったうえでの行動。俗にいう吊り橋効果をねらったものとみられるグエンの行動の理由は、単純に容姿が好みだったからだ。

 この男ならではの単純さが、躊躇いない行動の原動力となっている。しかしながらこの単純さがこの部隊に飛ばされた原因でもあり、今日まで生き延びてきた秘訣でもあった。



「辛ければ泣けばいいさ。まだ一言や二言程度しか話してない間柄でも、関係ない。俺たちはもう、大切なチームなんだからさ」



 普段もよく回る口をフル活用し、口説きにかかる。むず痒く感じるほどのキザな台詞でもなんのその。結果良ければすべて良しの精神でグエンは突き進む。

 そろそろ心惹かれてきたのではなかろうか。そんな淡い期待で緩みそうになる頬を必死に制し、優し気な表情でターニャを見守り続ける。そして、視線の先の彼女はゆっくりとその顔をグエンの方へと向けるのだった。



「……ん?」



 涙を潤ませるようなものか、頬を染めて恥ずかしがるような表情をグエンは想像していた。しかしながら、違った。



「……んんん?」



 非常に、冷ややかな目だった。養豚場の豚でも見るかのような冷たい視線。口説きが失敗したどころか、怒らせてしまったと向けられた相手が察するには十分な圧があった。

 これはやってしまった。そう心身が危機を察知してターニャを解放しようとしたグエンだったが、遅すぎた。



「おぉっ!?」



 肩に回していた手をターニャの色白の左手が掴んだ刹那、柔術のような見事な手つきで捻られ、その勢いのまま足払いによって体勢を崩されてグエンは床に叩き伏せられてしまうのだった。



「あっだだだだだだだだぁ!?」


「グエン准尉、で間違いないでしょうか」


「そ、そうだけどもっ」


「何故、私を抱き寄せたのですか。邪な思いで実行したとしか考えられませんが」


「いや、俺は君をなぐさめに……。ていうか君力強くないったぁいってば!?」



 背の中心に片膝を押し付け、右手首を捻り上げたままの拘束状態でターニャは淡々と尋問していく。拘束による痛みと各所の傷が圧迫されることでの痛みは相当のもののようで、グエンは情けない声で悶絶していた。

 抜け出そうと試みたが、上手くいかない。というか力が強すぎる。ターニャはその容姿端麗な見た目から想像できぬ怪力でグエンを抑え込んでいた。



「おごごごごごごっ!? ギブっ、ギブギブっ! 脱臼するってか、折れるッ!!」


「騒がしいな。一体何をしている」


 

 扉の向こうからの喧騒に気づいたアランが部屋から出てきた。ターニャに組み伏せられるグエンという状況を確認し、怪訝そうな顔をする彼に向け、ターニャは言い放つ。



「大尉! 准尉からセクハラを受けました!」


「いや、違っ――」


「そうか。責任は俺が持つ。やれ。そいつはこの手の常習犯だ」


「ちょっ、大尉それはあんまりにも――」


「了解しました!」


「あヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁ!?」



 ターニャの空いていた右手が組み伏せていたグエンの左肩に押し当てられ、徐々に力が強められていく。自業自得の結果とはいえ、凄まじくも情けない悲鳴をグエンは上げ続けていた。

 あともう少しの圧で一線を越える。そう確信した直後にターニャは最後の確認を実施する。



「大尉。あと一息で脱臼させられます。准尉は右腕を負傷しているようですが、大丈夫でしょうか」


「大丈夫じゃナイよーっ! 一大事だよーッ!」


「問題ない。腕のいい医者がいる。やれ」


「了解しました!」


「了解しちゃニ゛ゃァアアアぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」



 清々しい返事の後に、「ゴリッ」といった生々しい音共にグエンが断末魔を轟かせる。その絶叫に驚いた者たちが次々と現場に現れ、事情を知ると呆れ顔を白目をむいて気絶したグエンへと向けていた。

 様々な意味で壮絶だった一日が、また終わる。こうした一時の平和(?)もすぐに終わる。続く地獄の中での日々を『第2独立兵装試験隊』の面々は過ごしていくのだった。

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