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22 責任③


「責任、ですか」



 アランの思っていた通りの鈍い反応が返ってきた。極力表面には出そうとはしていないが、拒否反応が出ているのは明白だった。

 自らが為すことに対して責任を持つのは当たり前の事。機械的に処理していけば、何れは責任に対する重圧は薄れていく。だが、自らの意思を以て、明確に自覚して責任と向き合い続けることは、凡その人にとって大きな重圧となる。

 今の彼女にとって必要なことは責任に向き合う姿勢と覚悟。それこそが人格構成に繋がり、今後のためになるとアランは判断したのだ。



「自覚して責任の重圧と向き合い続けることが、自分自身の心を強くする。それが難しいのであれば、除隊も視野に入れたほうがいい」


「除隊ですか」


「ああ。俺個人の所見としては、君にはそれを薦める。覚悟がないのであれば、去るべきだ」


「……――」



 厳しい指摘を受け、ターニャのキラキラと輝いていた目が曇っていく。向けられていた視線も下へと向けられ、本気で葛藤している様が見て取れた。

 沈み込むターニャを見たアランは、先ほどの発言の通り除隊という道を選択してくれることを望んでいた。

 以前着任早々に戦死したフィリア中尉にはこうした感情を抱かなったことを思い出し、自身にも身勝手さと甘さがあることをターニャと向き合うことでアランは実感する。

 こうした他者を想う心情もたまには悪くない。そんな自嘲気味な思いを胸中で巡らせるアランではあったが、浮かべる表情はいつもながらに冷めたものであった。

 しばし続く沈黙。重苦しい空気が漂う中、意を決したターニャが視線を上げ、しっかりとアランを見据えた。



「――覚悟は、あります」


「ほう」



 一瞬詰まりはしたものの、はっきりとターニャは答える。その目に宿っていたのは、不安を押し殺して進まんとする覚悟の熱意だった。



「私に帰る場所はありません。今現在所属する部隊が私の居場所であると考えます。であれば、そこにおいてやれる限りを尽くすのみです」


「あらゆる事柄への責任もとると?」


「はい。それを乗り越え続けた先に、大尉はいるのだと自己判断いたしました。己を高めるために、精進します」


「……そうか。であれば、これ以上俺から言うことはないな」



 アランの甘い願望が実現することは叶わず、ターニャは覚悟を決めた。人としての成長が進むことを喜ぶべきか、除隊して一人の少女としてターニャを送り出せないことを悔やむべきか、アランの胸中は複雑なものとなっていた。

 覚悟を決めた以上、少女ターニャは進み続けるだろう。それを支え続けるか、はたまた見届けることになってしまうか、どうなるかは分からない。だとしても、自らもやれる限りを尽くす。そう決めたアランの冷めた瞳の奥にも、覚悟の熱量が滾っていた。

 上官として、或いは教導者として、アランはターニャに右手を差し出した。



「改めて、これからよろしく頼む伍長。地獄は中々に厳しいぞ」


「望むところです。よろしくお願いいたします、大尉」



 差し出された右手をターニャは握り返し、固い握手を交わす。その握手の間から手を離した後も、終始ターニャは高揚した様子だった。

 少々荒めな鼻息が聞こえてきそうな姿は興奮しきった子犬のようにも見える。年頃の少女の可愛らしさが垣間見えたターニャは最後に敬礼して元気よく告げた。



「それでは、お疲れのところ申し訳ございませんでした! ターニャ伍長、退出いたします!」


「ああ。伍長もゆっくり休んで、次に備えてくれ」


「了解です! 失礼いたしました!」



 晴れやかな表情のターニャは足取り軽やかにアランの部屋を後にする。その背が扉の向こうに消えるまで見送るアランの冷めた瞳には、何処か優しさが滲み出ているのだった。



「――ふふっ」



 閉めた扉を背に、ターニャは自らの右手を眺めながら口元を緩める。冷めた雰囲気に似つかわしくないアランの手の温もりをターニャはしっかりと感じ取っていた。

 ただ決意表明に向かうはずだった身に対し、正面から向き合って応えてくれた。それがターニャには嬉しくて仕方がない様子だった。

 これから頑張らねば。そう頭の中では考えながらも高揚感がターニャは抑えきれない。その手に残るアランの温もりが消えるまでこのまま佇んでいようかとターニャが考えていた、その時だった。



「ターニャ伍長」


「っ――!?」



 ターニャの肩に手が回され、その手の主の胸元へと引き寄せられてしまうのだった。

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