21 責任②
「……?」
呆然。想定外のターニャの言葉にアランはそうならざるを得なかった。
もうあんな作戦には参加したくない。軍を除隊したい。そういった相談を投げかけられるものと想定していた。そのために構えていたからこそ、反動とは大きいものとなった。
どう返答したものかと迷い口が動かせないアラン。そんな彼に対し、ターニャは続ける。
「先の作戦から、本部隊が特殊な仕事を任されるということを認識しました。これ以降も、人道及び道徳に背いていくことが容易に想像できました」
「まあ、そうなるな」
「尋常ならざる精神でなければ、耐えられない場面に多く直面するはず。そうした中でも最適な判断を下す様を大尉は私に見せてくれました」
「慣れもあるとは思うが」
「慣れであったとしても、強靭な精神が無ければ不可能であったはず。そうした精神を構築するためにも、大尉を見習っていきたいと考えました」
「強靭な精神、か」
「はい。以後、よろしくお願いいたします」
しっかりと、そしてはっきりとした言葉を紡ぎ切ったターニャ。その発言に嘘偽りは感じられず、アランへと向け続ける視線は憧憬の念で満ち溢れていた。
まだ二十歳にも至っておらず、幼ささえ感じさせる彼女のその様子は、これ以降も戦場に臨む者の姿とは思えない。
(……本心から言ってくれてはいる。だが、この違和感は何だ)
本来であれば、「ならばよろしく頼む」程度の返答で済ませたかもしれない。だが、そう容易く返答してはならないという思いがアランに返答を迷わせていた。
実直に仕事に向き合う姿は自分自身に似ており、冗談や皮肉に対応できる柔軟さもある。しかしながら、物事の把握や自らの所見を機械的な性質で済ませていく様子に危うさを感じたからだ。
可能な限り感情を動かさないようにしている。恐らく過去の経験がターニャを縛っており、再び似た場面に遭遇しないよう無意識のうちにそうさせていると推測できた。
先の戦闘時における焦燥を抱かないためにも、ターニャはアランに見た強靭な精神を構築することで乗り切ろうとしている。仮に強靭な精神を今のままで構築してしまえば、一切の躊躇いなく冷徹な判断を下す機械そのもののような存在になるとしか思えなかった。
(今の彼女をそのまま成長させるのは危険。であれば……――)
ターニャの今後のためにも安易な返答をするわけにはいかないと決断したアランは短い時間の中で思慮を巡らせた。
この使い捨て部隊に来た者に対し、アランはここまで気に掛けたことなどなかった。皆が皆、何処かで消えてもいいと判断された者しかいないと考えていたからだ。
そのはずなのだが、どうにもターニャはそうした考えで済ませることができなかった。彼女にはこの使い捨て部隊を超えた先の未来があるようにアランは思えてならなかったのである。
似ているからなのか、彼女の危うさを感じたからなのか、正直なところアランにも明確に思い至った理由が分からずにいた。そうしなければならないという不明瞭な使命感が突き動かしていた。
これ以上の間を空ければ不審がられてしまう。異様に親身になっている自分にも違和感を抱きながら、アランは口を開いた。
「了解だ、伍長。これから、よろしく頼む」
「はい!」
「早速ではあるが、伍長には心がけてほしいことがある」
「何でしょうか」
「あらゆる事柄に対し、自分自身の『責任』を自覚して臨んでほしいということだ」




