20 責任①
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『――速報が入りました。コロニー【208】についてです。
開戦以降、住民の大半が暴徒化し、混迷を極めた状態となっていると私たちを含めた多くのメディアが取り上げてきました。
それは間違いではなく、世界連盟政府(WFG)直轄の治安維持軍軍需工場を制圧した住民らは各種兵器を私物化し、他コロニーへテロ行為を実行しています。
既に相当な規模の被害報告があり、この度内情の詳細を把握するためにコロニー連合軍が偵察に派遣されました。
しかしながら、新開発された兵器によって一方的に偵察隊は壊滅状態に追い込まれたと情報が先ほど入りました。
事態を重く見たコロニー連合政府(CUG)は各界との議論の下、暴徒鎮圧のために制圧部隊を送ることを決定。
近く、コロニー【208】の鎮圧が行われます。周辺コロニーの皆さまは平穏が戻るその時まで、今しばらくお待ちください。
以上、速報でした。次のニュースに移ります――』
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「――暴徒が軍需工場を制圧ですって」
「怖いなぁー」
「新兵器ですって」
「へぇー」
「偵察隊壊滅ですって」
「そっかぁー」
「まあ大体嘘ですけどね」
「でしょうねー」
「糞みたいな会話やめんか。気が滅入るわ」
【ガーベイジ】艦橋にて今作戦直後に流れた民放のニュース速報の録画を見直し、グエンとボーデンがわざとらしく呆けた様な反応を見せ、モラキンが苦言を呈する。しかしながら呆けた2人と思いは同じようで、艦橋は重苦しい空気で満たされていた。
「いやあ、分かりやすい胸糞作戦でしたね。相も変わらず上層部が真っ黒だってよくわかりましたよ」
「ですねー。この部隊開設以降、”3度目”の胸糞案件っすー」
「仕方がないと割り切るしかないが、『第4独立兵装試験隊』はTMAが全滅だぞ。まだこっちはましなほうだ」
「アラン大尉は”出処が特殊”だから、胸糞案件で処理されるってことがないのも分かりましたね。上層部としては”通常の戦死”が望ましいんすかね」
「かもしれないっすねー。あ、ちなみに今回配属のターニャちゃんも”出処が特殊”組みたいっすよ」
「おいボーデン、その話は――」
「詳しく教えてくれボーデンー」
「いいっすよー。給料半月分で手をうちますー」
「払う払う~」
「ええい、機密情報を金で売るな馬鹿垂れ!」
冗談を述べるような軽いノリで機密のやり取りをする2人をモラキンは叱責するが、当の本人たちが反省する素振りは一切なく、全くの滞りなく取引を進めるのだった。
2人は2人なりに重苦しく救いがないと感じられる現状を明るく打破しようとしているのだろうが、場違い感が否めない。明るすぎるのも考え物だと誰もが思えていたが、勝手に盛り上がる2人には皆の想いは届いていなかった。
「お前ら2人は空気を読むことを勉強しろ。今は笑うようなときじゃないんだよ」
「善処しまーす」
「同じくっす」
「誠意が微塵にも感じられんのだが……」
「まあまあ、いいじゃないですか。俺みたいな馬鹿がいたほうが皆気楽になれるんすよ。「俺はあいつよりかはマシだ」って思えるからね」
「そんな感じっすー」
「ああ、もう、分かった。限度を守って好きにしろ。俺はもう何も言わん」
そういって2人を叱ることに疲れを覚えたモラキンは特大のため息を漏らすと艦長席に深く座りなおす。疲れが感じられる視線が向けられた先にあるのは、艦橋モニターに映された星の海だ。
無数の星の煌めきの中に、散っていった膨大な数の人間と塵屑とかした兵器の数々が存在するとは到底思えない。”綺麗なもの”から”絶望的に恐ろしいもの”へと印象がガラリと変わった数年前のことを思い出し、モラキンは再び特大のため息を漏らすのだった。
2人を除いて心身ともに疲弊したといった感じの艦橋の面々。次の作戦命令が出るまでの待期期間において何に対しても気が乗らないのは言うまでもない。だとしても船員としてやるべき最低限のことはこなさなければいけないのが辛いところだった。
「んじゃ、傷病者な俺は部屋に戻りますよ。ボーデン、情報は部屋に送っといてくれ」
「了解っす」
「すぐに怪我治して出られるようにしろよ。さもないと上から給料すらもらえなくなるぞ」
「それは勘弁願いたいですね。大人しくしときます。あ、そうだ。大尉は今どこにいるんです?」
「自室だ」
「そっすか。んならちょいとお邪魔を――」
「やめておけ。今ターニャ伍長が一緒なはずだ」
「ターニャ伍長が?」
「色々話したいことがあるそうだ。だから、邪魔はしないように。分かったな」
「……ういっす。部屋で大人しくしときます」
軽い労いにいく気でいたグエンだが、流石に邪魔しようと思えなかった。彼がそう考えるほどに、作戦後のターニャは異変をきたしていたからだ。
深く思い悩んだような表情のままで自室にこもり、作戦から数時間経ってようやく動いたと思えば即座にアランの元へ。相当な心労を抱えていると想定できる彼女が持ち応えるか否かはアランにかかっていると誰もが考えていた。
考えていた。考えざるを得なかった。
しかし――
「――アラン大尉。改めて言っておきたいことがあります」
「何でも言ってみろ。ターニャ伍長」
「では……」
――彼女は、
「……大尉は、尊敬に値する人物であると考えました。これからお傍で戦えること、光栄に思っております」
――興奮冷めやらぬといったキラキラに輝いた目で、アランと向き合っていたのだった。




