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19 強行偵察④


 支えを失ったロランドの【コアⅡ】は大きくバランスを崩し、仰向けに人口の大地へ倒れこむこととなってしまう。綺麗に舗装された道路を割り砕き、多量の塵が舞い上がって視界を塞いだ。

 


『――!』



 突然の出来事に戸惑いながらも、ターニャは別の建物屋上での不審な動きを見逃さなかった。装備していた『ライフル』の銃口を向けた先に、【RPG】(対戦車擲弾)を構える民間人らしき存在が確認できたのである。

 次の発射を阻止せねばロランドだけでなく他の者にも危害が生じかねない。ここは、撃つべき。そう判断したターニャがトリガーに指をかけた直後、アランの声が回線越しから響き渡る。



「撃つなターニャ伍長!」


『しかし! このままでは――』


「我々が彼らに手を出す許可は与えられていない! 耐えろ!」


『しかし、しかしっ……!!』



 アランに念押しされることで生じた迷いがターニャの指を硬直させる。撃つべきか否か。激しい葛藤に苛まれる彼女の脳裏に、この部隊に配属される切っ掛けと思われる場面が蘇った。



『――何故指示を無視した! 従ってさえいれば隊長が死ぬことはなかった!』


『――お前のせいで死んだんだ!! 仲間より、降伏したあいつらを選んだお前が殺したんだ!』


『――返せ! 隊長を返せ! 死んで詫びろ!!』



 怒りに身を任せた全力の罵倒の数々。延々と繰り返される罵詈雑言はエスカレートし、やがて暴力へと変わる。同じ思いをするは、もう嫌だった。

 迷いを振り払い、硬直していた指の力を強めていく。後ほんの僅かでトリガーが引かれるという刹那、アランの叫びが木霊した。



「ここは既に地獄の底だ! 死にたいのであれば、迷わず撃て! まだ生きたいのならば、銃口を下ろせ!」


『――!』



 叫びを耳にしたターニャの指は止まった。単純に、生存願望が破滅願望を上回ったことによって生じた反応だ。

 自分は、生きている。少なくとも、死を望んではいない。それでも仲間を助けるためには攻撃を実施する以外に他はない。でも、死にたくはない。

 思考の渋滞によって行動不能に陥るターニャ。どの選択が正解なのかを判断することができなくなった彼女の視線の先で、【RPG】(対戦車擲弾)はロランドの【コアⅡ】に向けて放たれるのだった。



『……あ』



 ようやく喉奥から出てきたのは、後悔とも、安堵のものとも聞き取れる微かな声。それが発せられた直後、突き進む弾頭は【コアⅡ】のシールドに着弾し、爆発した。

 攻撃は、再び防がれた。なのにもかかわらず続けて生じた爆発は、【コアⅡ】のコクピットハッチを吹き飛ばした。



『ガっああぁぁあああ!? いっづあぁ!? 何でっ!! 何でだよぉ!?』



 回線越しに響くのはロランドの悲鳴。爆発によって負傷した彼の悲痛な叫びは、ターニャを揺さぶるには十分すぎるものだった。



『わ、私……、私っ、違う……!! 私は……っ!!』


『目がっ、見えねえ!! ああぁ、畜生! 畜生ぉ!!』


『っ――』


 

 トリガーから指を離し、負傷したロランドを助けに向かおうとしたターニャだが、一歩踏み出したところで動きを止めてしまう。モニターの端に、一斉に動き出した群衆を捉えたからだ。

 身動きが取れなくなったロランドの【コアⅡ】目掛けて、群衆は駆けていく。怒りに身を任せた彼らが止まろうとする気配はなく、僅かな犠牲を払おうとも敵を殺めんとする狂気に満ち満ちていた。

 何もかもが手遅れだと悟ったターニャは、その場から動くことなく横たわる【コアⅡ】に人々が群がる様子を見つめ続ける。集団で襲い掛かるその様は、自分よりも巨大な獲物を襲う蟻の軍勢のようにも見えた。



『ヒっ!? な、何だ!? や、止めろ!! あ゛あ゛っ!? うガぁああぁあっぁ!?』



 爆発で開けっ広げとなったコクピットからロランドが引きずり出され、集団暴行リンチが始まった。激痛の度に上がるロランドの断末魔の叫びは、徐々に聞こえなくなっていくのだった。

 勢いに乗った群衆が動かないターニャの【コアⅡ】目掛けて動き出すが、目前まで来たところで足を止める。いっそのこと自分も殺してほしいとすら思えていたターニャに、間近まで機体を接近させたアランが告げた。



「ターニャ伍長。君の選択は間違ってない。これは、上層部にとって必要な犠牲なんだ」


『必要な……、犠牲?』


「そうだ。ここで彼を救えたとしても、きっと何処かで同じように”使われる”はずだ」


『そんな……』



 心神喪失状態に近いターニャから群衆を退かせるべく、アランはさらに歩み寄って威嚇する。慄いた彼らはアランの【コアⅡ】から距離を取り、罵倒し続けることで応戦を始めた。



『た、退却する! 各機、続け!』



 作戦続行不可能と判断したコール率いる『第4独立兵装試験隊』の面々は既に大型ゲートを開き、第二港ゲートの方へと向かっていた。退却する彼らに対しても【RPG】(対戦車擲弾)が撃ち込まれ、本来では到底撃墜など不可能なはずの【コアⅡ】を次々と葬っていった。

 狂気の歓声を上げる群衆が燃え上がる【コアⅡ】へと向かおうとするが、その足は先頭を行くリーダー格の存在によって止められることとなる。第二港ゲート解放のために、大型ゲートが閉じ始めていたからだ。



「ターニャ伍長。退却するぞ。動けるか」


『……はい』



 かろうじて返事を返したといった感じのターニャは、アランの後について閉まりつつある大型ゲートの向こう側へと進む。退いていく2人に対しては、【RPG】(対戦車擲弾)による攻撃は行われなかった。

 やがて大型ゲートは閉まり、第二港ゲートが開く。ただの塵と化した『第4独立兵装試験隊』の【コアⅡ】は星の海へと吸い込まれていき、アランとターニャは【ガーベイジ】へと向けてスラスターを吹かしていく。



「そうだ。言い忘れていたことがあった」


『……何でしょうか』



 並列で【ガーベイジ】へと向かう最中。未だ立ち直れていないターニャへと向け、アランはつぶやくのだった。



「ようこそ、地獄へ。歓迎するぞ、ターニャ伍長」

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