15 髑髏頭(スカルヘッド)⑤
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「――びっくりするぐらい何もせずに終わりましたね、大尉」
「最初から分かり切っていたことだ」
「悔しかったりします?」
「断じてそんなことはない」
「顔は悔しそうですが」
「……――」
いつもよりも少々賑やかな【ガーベイジ】格納庫。傷病者でなければすぐにでも小突いてやりたいアランだが、その気持ちをぐっと堪える。それをいいことにグエンは盛大に隣に立って冷やかしていたのである。
作戦は無事に終了。全ての無人偵察機を投下し終えた輸送艇は早々に帰還。【ガーベイジ】もアランを回収して戦域から離脱しようとしたのだが、想定外のお客様が閉じ始めていた格納庫ハッチから滑り込んできてしまったのだ。
「にしても凄いっすね。皆のヒーローって感じだ」
「最高の腕前を誇るパイロットだ。俺たちのように汚れてもいないから表に立てるし、人目に止まりやすい。であれば当然の人気だな」
「戦争で殺し合いしてるのに、汚れてないんすか?」
「汚れた輩の戦争は批判を浴びるだけ。綺麗な輩の戦争は英雄譚になる。それだけの話だ」
「ほぉ~。大尉が語ると重みが違いますなぁ~」
非常にわざとらしく感嘆するような素振りを見せつけてきたグエンを一瞬睨んだアラン。しかし、そうした反応を示すことも馬鹿らしく思えて苦笑するとともに大きなため息をつくのだった。
そんないつも通りなやり取りをしている2人を他所に、格納庫内のざわめきが一層高まる。滑り込んだお客様、【ストライカー】のコクピットハッチが開かれたからだ。
作業員たちの熱い視線が集まる中で、パイロットであるハリーが姿を現す。”周知されている事”とはいえ、その風貌を見た作業員たちは思わず感想を漏らしてしまうのだった。
「本当に、【義手】と【義足】なんだな」
「よくあれで操縦できるな……」
「馬鹿。思考投影機構(МPS)がありゃ問題ねえんだよ」
「あの【ストライカー】、照準とかも思考投影機構(МPS)で補助してるらしいぜ」
「脳味噌いくつあったらあんな動き出来るんだよ……」
右腕が【義手】。それだけでなく、両脚が【義足】。痛ましくとも金短髪と蒼眼がまぶしい爽やかさを放つ快男児。おおよそパイロットには見えない風貌のハリーに、誰もが感嘆の言葉を漏らしていた。
聡明さを感じさせるその蒼い瞳で格納庫を一通り見渡したハリーは、作業員たちから少し離れた位置にお目当ての存在の姿を捉えた。他のものと違って冷ややかな視線を向けてくる友へ向け、アランは告げる。
「すまない、アラン! 今回は私たちだけで済んでしまったようだ!」
「そんなに大声を出さずとも聞こえている。恥ずかしいから声量を抑えろ」
「そうか。だが、今回はこうなってしまっただけ。次回は、必ず共に肩を並べて戦おう」
「また特待制度の乱用で呼び出す気か。いい加減に怒られるぞ」
呆れたといった様子で嘆息するアランだが、対するハリーが悪びれる様子は一切ない。その姿を見れば、本心から共闘を望んでいることが理解できた。
「それだけの無茶を通せるだけの信頼は得ているつもりだよ。気負うことなく来てくれると嬉しいが、どうだろうか」
「どうせ俺に拒否権はない。勝手にしろ」
「なら勝手にさせてもらおう。【ルーラー】をこれ以上待たせると悪いからそろそろ行くことにするよ。他の皆も、お元気で!」
爽やかな笑顔で別れの挨拶を告げたハリーはコクピットの中へと戻っていく。直後に格納庫ハッチ解放の警告音が鳴り響き、スーツを身に着けていないアランや作業員たちは待機所の方へと移動していく。
機材や物品の固定されていることを確認し、残った人員も命綱の装着を確認する。そうした要注意確認事項の履行が終わったところで、格納庫のハッチはゆっくりと開いていった。
変わることなく綺麗な星の海へ向け、微かにスラスターを吹かして飛び出した【ストライカー】は機体を反転させて大きく手を振ってみせた。
「――変わらないな、お前は」
そんなハリーの操る【ストライカー】を見て、アランは待機所で独り言ちる。呆れとは違って過去を懐かしむようなアランの視線を受けながら、【ストライカー】は母艦である【ルーラー】へ向けて宇宙を駆けていくのだった。




