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シロクロゲーム  作者: 竹取翁
30/44

2日目ー⑥ 親友(前編)

AM.10:58


 白馬たちは、周囲を警戒しながら歩き続けていたが、ゲームが始まってからおおよそ4時間。渋染を除き、一度も他の生徒と出くわすことがなかった。無警戒でいることは出来ないが、このままのペースで移動しても仕方がない。少し間をおいて、渋染が向かったであろう市街地へ向かっていた。


「白馬、お前ホントに大丈夫か?さっきのこと。」


「ああ、大丈夫だよ。ごめんな、心配かけてさ。」


好奇は「ああ…」と返事をしながらも、何か言葉に詰まったような、微妙な顔をして白馬から目を逸らした。1人で何か悶々と考え込んでいるように見えた。長い付き合いである白馬は、好奇が隠し事をしているのがすぐに分かった。


「その…まあ、白馬よぉ…紅葉から何か、聞いたりしたか―――?」


「へ?何かって、何を?」


「え…?あ、いや、いいんだ。聞いてないなら、それでよ―――」


「おいおい、隠し事かよ。俺とお前の中なのに、冷たいなぁ。」


そう言いながら、自分も好奇に隠し事をしている。そう思って白馬の胸はズキリと痛んだが、好奇は「悪い悪い」とへらへら笑ってみせた。


「お前にもちゃんと話すって。けど、まあほら…状況が状況だからさ。」


「…ま、そうだな。ここからみんなで出た後、そん時に聞けばいいや。」


好奇は呆れたような、それでいて嬉しそうな顔をした。


「お前はよー、こんな時でもいつもとおんなじだよな。プラス思考っていうか、マイペースっていうかさ。」


「好奇だって変わんないだろ。お前と紅葉はいつも俺と一緒にいる…助かってるよ。」


「よせよ、気持ち悪いな。」


好奇には、昔から思っていることをストレートにぶつけられた。最後にケンカをしたのは、中学2年生の頃だろうか。紅葉とはまた違う、馬の合う感じが、白馬にとって心地よく、好きだった。


「―――なあ、覚えてるか?中2の時に、俺とお前で大ゲンカしたの。」


「…ハハッ、俺もまったく同じこと考えてたよ。忘れるわけない。県大会の前の、最後の練習の時だったよな。」


「そうそう!あの時俺が付き合ってた1年の木梨とお前が一緒に帰ってたって、それで俺がお前のことぶん殴ったんだよ!」


「冗談じゃないぜ、ホント…結局それは人違いだし、俺は殴られ損だよ。それで、俺もキレてお前と殴り合いになったんだ。」


「けど、あん時は驚いたよ。お前があんなにケンカ強いなんてなぁ…俺のパンチなんて全然当たんないし、俺は殴られるばっかりでよ。かと思ったら、俺のパンチ一撃でノックアウトされちまうし。」


その後、紅葉にこっぴどく叱られたのを覚えている。2人が殴り合っているのを東原が見かけ、泣きながら紅葉を呼んできたのだ。黄櫨と黄島が木梨のことを見つけて話を聞き、遺書に帰っていた相手が3年生の木梨の兄であることが分かり、問題は一件落着した。殴り合っていたのは自分たちなのに、最初に大声をあげて笑ったのも2人だった。


「後にも先にも、好奇にぶん殴られたのはあれが最後だったな。」


「いーや、まだあったね。高校入って最初の頃、サッカーの授業で肘鉄くらわしちまったことがあったろ?それでお前鼻血出して、保健委員だった渋染が介抱してたんだ―――」


渋染の名前が出てきて、好奇は自分で嫌な顔をして口をつぐんだ。それでも、2人にとっては懐かしい、楽しい思い出だ。思えば、白馬の記憶の中にはいつも好奇がいた。紅葉とは赤ん坊のころからの付き合いで、一緒にいる時間は一番長かったが…それでも、同性として、「親友」と呼べるのは好奇だ。サッカーの観戦に行ったり、秘密基地を作ったり、初めてアダルトショップに入って怒られたり―――


「また、あの時に帰れるさ。」


誰に尋ねられたわけでもなく、白馬はそう呟いていた。


「センチメンタルに浸っちゃって…男っていざというとき情けないんだから。」


「ふふ…黒崎くんと灰場くんは、いつも一緒だもんね。」


紅葉が2人の様子を見ながらそうこぼすと、黄島はそんな紅葉のことをみて笑った。ちょっとした嫉妬だろうか、むくれている紅葉に、黄島は微笑ましい眼差しを注いでいた。


「男の子同士って、たまに入り込めない時あるよね。」


「…バカだもんね、男子って。私が入り込めないんじゃなくて、入り込もうって思わないだけ―――そう思ってたけど、やっぱり入れないことってあるのかも。」


「大丈夫、私たちだって、女の子同士で色々楽しいこと出来てるもん、そうでしょ?」


黄島は笑顔を向けている。彼女が怒っているところは、長い付き合いの紅葉たちでもそうそう見たことがない。いつでも笑顔で、分け隔てない愛情を注いでいるような…そんな彼女に「特別視」されていることは、とても嬉しいことなのだろう。


「…そうね。」


紅葉もまた、黄島の顔を見て笑った。




※※※




 憂鬱な気分でカメラを破壊する。鴇は嬉しそうにカメラを足蹴にしているが、雄黄はそこまで元気にはなれなかった。カメラを壊すことには賛成だ。何もしないよりは、しておいた方がいいというのは賛成なのだから。



「……」


「おい敬二、お前まだ勿忘のこと気にしてんのか?」


「そりゃあ、気にするだろうよーー…苦手なやつだったけど、やっぱり死んじまったのはかわいそうだよ。俺が最期に会った奴かもしれないし…」


「最期にあったのは勿忘を殺した犯人だろ。そんなに気にすんなよ。お前に責任なんてないんだから。」


そう言われても、意識してしまうことは間違いない。勿忘は嫌いだったけど、殺されていいはずはない。それとも、誰かに襲い掛かって返り討ちにされたのかもしれない。


「お前はいっつもお人好しなんだよなぁ。昔っからそうだよ。関係ないところで責任感じたりしてさあ…悪い癖だぜ。」


鴇と初めて出会ったのは幼稚園の時だ。当時子供たちの間で流行っていた「覆面ライダー」、そこに映っていたヒーローが好きで、そのつながりで鴇とは出会った。


「とにかく、過ぎたことは忘れろ!お前はもっとドーンと構えてりゃいいんだ。そうでなきゃ、男はおろか英雄ヒーローにもなれやしねぇぞ!」


「またお前は英雄(ヒーロー)英雄ヒーローって…何でもそれに結び付けるの、お前の悪い癖だぞ。」


鴇は、幼稚園当時に見た「覆面ライダー」にドはまりして、それ以来英雄ヒーローという言葉を多用するようになった。幼少期の特撮を見て未だにそれに憧れているなんてイタい奴と思われがちだが、一応それ以外の理由もあったりする。


「それが俺の目標なんだ。結び付けるのは当然だろ。俺も黒崎のこと見習わなくちゃいけないな。なんでもプラス思考で考えなきゃよ。この状況は、俺が英雄ヒーローになるための最大の試練だととらえることにした!」


「巻き込まれた俺たちは何なんだよ…」


「もちろん、俺が守るための人質だ!英雄ヒーローはピンチの時こそ力を発揮するんだからな!」


半分呆れた、半分頼もしいという気持ちが雄黄の中に混じった。


雄黄と鴇は、幼稚園の時に仲良くしていた友人がいた。名前は白銀しろがね。白い髪を振り乱し、ライダーのポーズ番付(当時)が一番うまかったことで有名だった。そしてもう1つ、白銀はまさしく、特撮の「英雄ヒーロー」さながら、とてつもなく腕っぷしが強かった。


『何で白銀はそんなに強いんだー?』


英雄ヒーローは決して負けないのだ!そしてそのためには、たゆまぬ(・・・・)努力をしなくちゃいけないんだ!』


白銀の影響で、鴇は「たゆまぬ努力」と「英雄ヒーロー」が、特に「英雄ヒーロー」が口癖になった。小学校に入ったころから「強くなるため」と称して筋トレをはじめ、それによって身長が伸びなかったのだと嘆き、中学校では毎日牛乳を1ℓ飲んで腹を壊す。雄黄から言わせれば、鴇はいつもその時視界に入ったことに全力を注ぐ「まっすぐバカ」である。


「だったら、英雄ヒーローらしくこの状況を打開してくれなくちゃな。」


「おう、任せとけよ。けど、どうすればいいのかは全然思いつかねぇ。敬二もさ、女の尻ばっかり追いかけてないで、一緒に考えてくれよ。」


「失礼な。俺だって今くらいはちゃんと考えてるっての…そりゃ、女の子たちのことは気になってるけどね。」


「やっぱり女のことばっかじゃねぇか。」


「バカ、女の子のことを大事に出来ない男はクソなんだぞ。覚えとけよヒーロー気取り。」


一方で、鴇から言わせれば雄黄は無類の女好きである。それも、雄黄は世間一般で言う「美人」だけに反応するわけではない。もちろん、雄黄だって美人は好きである。彼が作った「十色高校美女ランキング」は、学校中の男子がこぞって欲しがった。その代わり、女生徒には大ひんしゅくをかったわけだが。


しかし、そんな雄黄が女生徒から完全に嫌われていないのにも理由があった。雄黄は美醜問わず、生物学上の「メス」すべてを平等に扱うのだ。レディファースト、ジェントルマン気質、彼はそういったことにめっぽう詳しい。彼の女性への扱いは、一応女子たちの認めるところもでもある。


「だいたいお前、このクラスは美少女ぞろいなんだぞ?いいお嫁になるランキングNo.1の早苗ちゃんに、ツンデレ気質でツインテールの似合う紅葉ちゃん、キリっとしたクールビューティの浅葱ちゃん、言わずもがな学年No.1の藍ちゃん…みんなと敵対してるなんて、俺には耐えられないことなんだぜ?」


「あーあー、分かったわかった。お前はその話になるといっつも長いんだ。」


お互いに欠点やおかしな点があるものの、互いにそれが分かっている。それこそが「親友」と呼ぶのかもしれない。


「ん?おいアレ、蒼山じゃないのか?」


鴇がそう言って指をさす。すると、そこには周囲に気を配りながらゆっくりと歩いている蒼山の姿が見えた。




※※※




 昨晩、枝野の呼びかけに応じるか迷っていた東原は、迷いに迷った結果、1人で家の中から出てきていた。暗がりの中を進んでいると、その道中で湾田に出くわした。


『あれ、東原さん。こんばんは。』


『湾田さん…湾田さんも、枝野さんに呼ばれてるの?』


『へ?枝野さん?何それ、私何にも知らないけど。』


首をかしげている湾田に対して、東原は枝野に聞かされたことを細かに説明をした。みんなと話し合いたいと言われていること。湾田は半分も理解していない様子だったが、「それじゃあ私も一緒に行くよ。」と同行することとした。


『姑息なこと考えやがる…そうやって俺たちを揺さぶって、チームの内側から壊していこうって魂胆か?ええ、最上?』


その時、話し声が聞こえてきた。東原が足を止めると、湾田もなんとなくそれに倣う。立ち止まって話を聞いていると、そこにはクラスメイトの多くが残っているのが見えた。


『今話してるの、蒼山くんだよね…?いつもみたいに、みんなとケンカしてるのかな?』


『どうだろう…いつもとは違う状況だし、話し合いをしてるのかも―――』


たくさん集まっているのだから、きっと彩羽ちゃんもいる。別々のチームだけれど、紅葉ちゃんも、加世ちゃんも、白馬くんも好奇くんもいるかもしれない。そう思って、東原は一歩踏み出した。その時だった。


『反論はなし…認めるってことで、いいんだね?』


会話の渦中にいる人物が分かった。分かったと同時に、足が止まる。渋染赤音だ。彼女は今日行った殺人について、みんなから咎められている。今、ここに入り込むことが出来れば。そう何度も自分を奮い立たせようとしたが、足が震えて動かない。


『ねえ、今何の話をしてるの?東原さん、分かる?』


湾田の問いに答えることは出来なかった。あの時の様子がフラッシュバックのようによみがえる。朱田さんと、瑠璃川さん。2人は見た目は派手で怖かったけれど、話してみるととても優しかった。あの時(・・・)も、2人は何も悪くなかったんだ。


『分かった、分かった。落ち着いて。とりあえず今は、敵味方なんて言ってる状況じゃない。もう1つ確認したいことがあるけど、みんなも口を挟まずに聞いてほしい。』


違う。枝野さんは間違ってる。「敵味方」なんて、渋染赤音には関係ないのだ。


朱田と瑠璃川は、疲れ切った様子であの場所にやってきた。誰が敵か味方かもわからず、2人は憔悴しきってあの場所で休んでいた。10分や15分経過したそんなときに足音が聞こえてきて、瑠璃川が様子を見ようとしたときに、走ってきた紅井にぶつかった。


『さっき、私は縹と一緒に、血まみれになった紅井を見下ろしている鬼銅のことを見た。手には拳銃を持っている、鬼銅の姿をね。』


心臓がドクンと鳴った。渋染だけじゃない。鬼銅も、人を殺している?頭が空っぽになった気がした。誰を信用すればいい?誰なら安全?やっぱり、みんなのところへ行きたい。みんななら信じられる。


『東原さん…?ね、向こうに行かないの?』


東原は湾田の呼びかけにも応じず、必死に1人、自分に言い聞かせていた。渋染赤音のことは割り切れ。鬼銅瞬は問題行動こそ起こさなかったが、入学当初から黒い噂が絶えなかった。大丈夫、この2人が「悪い人間」だったとしても、それはさして問題ではない。それ以外は?それ以外の人は、信じられるだろうか?


『よくも見え透いた嘘を。彼の言っていることは、真っ赤な嘘だよ。』


『嘘…?どういうことだ、松田?』


『僕は見たんだ。死亡を伝えるアナウンスが流れる直前、瑠璃川さんが朱田さんと一緒にいるのを。』


『――――!!』


その一言が、決定的なものとなった。松田琥珀は嘘をついている。2人は、アナウンスが流れる10分以上前から、あの家の前で休んでいた。東原は二階にいた。窓の外から、周囲の様子は見えている。あの時、目の届く場所に松田の姿は見えなかった。


『(見間違い?勘違い?間違ってるの、私なの?でも、だけど―――)』


気が付いたら、元来た道を戻っていた。怖い。誰も信じられない。誰がどんな嘘をついているのか、見当もつかない。私が来る前に話し合いは始まっていた。なら、あそこへ着く前に、何か自分のことについて触れられていたかも―――?


自分のことを最低だと思った。東原は自分の親友たちでさえ、手放しで信じることが出来ない状態に陥っていたのだ。




※※※




AM.11:05


「…ん?おい、あれ、紅姫じゃないのか?」


最初に気づいたのは好奇だった。指さす方向、進んでいる道中に、しゃがみ込んでいる2つの人が見える。1人はすぐに紅姫だと分かった。彼女は自分の制服を改造している。新学期に入って早々、それで谷口にこっぴどく叱られていたのだが、涙目になっても彼女はそれをやめようとはしなかった。


「何してるんだ、アイツら…?」


好奇が声をかけようとすると、最上が「待て」と鋭い声を上げる。


「横にいるのは湾田だ。アイツらは2人とも「クロ」のチーム…敵だ。油断して近づくと危ない。」


「危ないって、そんな大げさな…だって、あの紅姫と湾田だぜ?あの2人が何かしでかすと思うか?」


「違う意味で、あの2人は何を考えてるのかさっぱり分からん。不用意に近づくのは危険だ。ギリギリまで距離を詰めるぞ。」


最上にそう言われて、白馬たちもそれに従う。そこで、好奇は「俺が行くよ」と自ら先頭に立つ。白馬は背後にも気を配りながら、6人で固まったまま、じりじりと距離を詰めていく。何やら口論をしているようだ。


「(それにしても、紅姫の制服ってやっぱ変だよな…改造してない方がいいと思うんだけど、アイツの感性って独特だもんな―――)」


どうしてだろう。こういう時に、白馬は緊張感のない、おおよそ関係のないことを思い浮かべていた。こういうところが楽観的と言われるのだろうか。また紅葉や好奇に言われる前に直さなくては。


「おい、お前らそこで何してるんだ?」


好奇が声をかけた時、湾田と紅姫はギョッとした顔でこちらを振り返った。素っ頓狂な叫び声をあげる。耳を傷めそうな悲鳴に、最上が「黙れ」と冷たくあしらう。


「お前ら、何か企んでたのか?ここで何をしていた?」


「な、なななな、ななな何をって、わた私は―――」


「え?え?ね、ね、紅姫さん。みんなにも手伝ってもらった方が早く済むんじゃない?」


「敵に手伝ってもらうトラップなんてあってたまるか!」


「トラップ?」


口を滑らせてしまった紅姫は、真っ青な顔をして口を抑える。最上が刀を鞘から抜くしぐさをして前に躍り出ようとするのを、好奇が「まあ待てよ」と止めた。


「まあとりあえず…ここじゃなんだから、別の場所で話をしないか?俺たちだって無抵抗の相手をどうこうしたりはしないからさ――――」


その時、白馬は空に浮かんでいた雲が止まっているように見えた。風の音や制服の擦れる音が聞こえなくなり、無音状態になったような感覚に陥った。知っている。この感覚は、いつも感じている「時間把握障害」の症状と、よく似ている。だけどそれはいつもと少し違うような――――


「好奇―――?」


好奇の身体から血が噴き出した。目の前に現れていたのは、長刀を持った蒼山和一だった。

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