表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シロクロゲーム  作者: 竹取翁
31/44

2日目ー⑦ 親友(後編)

 空に浮かんでいた雲が止まっているように見えた。風の音や制服の擦れる音が聞こえなくなり、無音状態になったような感覚に陥った。スローモーションに感じられる世界で、スローモーションで親友が倒れていくのを、白馬は見ていた。


「離れろ!!」


大声を張り上げたのは最上だった。刀を抜き、現れた蒼山に応戦しようとする。駆け寄ろうとした紅葉の腕を、黄島が抱きしめている。何か叫んでいる。「ダメ」と言っているのか、紅葉の名を呼んでいるのか。水原は最上に押し倒され、蒼山から離される。


「(予定通り予定通り!何もかも俺の掌の上だ!!)」


蒼山は勝利を確信していた。長刀を再び突いてこようと、攻撃の構えをしている。それでも、初撃で好奇1人しか刺せなかったのは、蒼山にとって誤算だった。


「(あの一瞬で俺の動きを見切られかけた。身体が反応していなくても、灰場こいつは頭で俺の動きに反応してやがったんだ。)」


だからこそ、咄嗟に仲間を庇った。長刀はリーチが長い。刺突すれば、貫通した相手の後ろにいるもう1人も同時に殺せると、そう睨んでいた。だが、好奇はそれに本能的に気づいていて、背後にいた黄島を押しのけた。


「(だが!問題ねぇ!!)」


蒼山が背中に片腕を回し、取り出した道具を最上に向けた。そこに握られていた小さな拳銃が、最上の視界に入り込む。


「っ!!」


「動くなぁ!!」


最上の動きが固まった。思い通り。蒼山が先ほど見つけたのは、このモデルガンだった。


白馬たちを襲うと考えた時に、最も警戒すべきと考えたのが最上だった。彼と一騎打ちで斬り合えば、地力で劣っているぶん必ず負ける。そう分かっているからこそ、蒼山は最上のうごきをとめる術を得る必要があった。


「(銃に弾が入っている必要も、本物である必要もねぇ!銃口を向けられれば相手は怯む!防御の体制に入る!その一瞬が稼げれば十分!1秒でも動きが止まった時点で、俺がお前を刺し殺すには十分だ!!)」


蒼山は勝利を確信していた。それは最上も、紅葉も、黄島と水原も同じだった。意図してかせずか、紅姫たちに気が逸らされていた。完全に虚を突かれ、次の瞬間には、最上が長刀に貫かれることを容易に想像できた。「もうダメだ」、「おしまいだ」と、恐怖と絶望が紅葉たちを襲った。


「白馬ぁ!!」


好奇の声が響いた。







世界が真っ白で、色を失っていくのを感じた。動きは相変わらずスローモーションで、全員の動きがコマ割りしたかのように観察することが出来た。なぜか後ろにいるはずの紅葉たちの表情を、振り返って確認できた。視線を前に戻しても、動きは一向に変わっていない。


「(でも―――)」


だからといって、何かできるわけでもない。頭で、脳で認識できても、身体が付いてくるわけではない。


「白馬ぁ!!」


「好奇?」


声が聞こえた。好奇は依然として、スローモーションで背中から地面に倒れこもうとしている。その口元の形は、確かに白馬のことを呼んでいた。好奇はまだ、生きている。


「っあ゛!?」


叫び声がするよりも早く、耳を塞ぎたくなるような大きな銃声がした。しかし、その音が響くよりも先に、白馬の世界は、シロクロから色を帯びていた。ナイフを手に取る。あの時捨てずにいたナイフを、蒼山の手首にめがけて投げた。


「当たる」という、確信があった。




※※※




 銃声と共に、蒼山の手から長刀が零れ落ち、真っ赤な血が噴き出す。好奇の身体が地面につくより前に、白馬は彼の身体を支えていた。


「いってぇぇぇ…!なんだ、こりゃあ―――!?」


「全員動くな!!」


鋭い声が頭上から聞こえてきて、紅葉たちは銃声の意味を理解した。頭上に見える雑居ビルの屋上、そこには銃を構えた枝野が、軽く息を切らしてこちらを見下ろしていた。


「え、枝野、てめぇ―――!!」


「好奇!」


「灰場くん!!」


紅葉と黄島が、一目散に2人の元へ駆け寄ってきた。白馬の腕の中で、好奇は苦しそうなうめき声を上げていた。わき腹から赤黒い血が湧き出ている。出血の量は、想像していたよりもずっと多かった。


「好奇、大丈夫!?しっかりして!!」


「好奇!好奇!!」


「うっせぇ、うっせぇって…俺は、大丈夫だかんよ―――」


好奇は顔を歪ませながらそう言って、無理をして笑ってみせた。好奇の血が止まらない。白馬は傷口を抑えた。痛そうなうめき声が聞こえたが、構っている暇はなかった。


「ひぃぃぃ、血が、血がぁぁぁ…!」


「お前ら、よくもやってくれたな―――!」


「最上!動くなと言ったはずだ!」


周りの声なんて、白馬の耳には届いていなかった。好奇の傷口のことしか頭になかった。腕の中で、親友が弱っていくのが自分のことのようにわかった。


「好奇、大丈夫だ。何にも心配いらないからな?」


「白馬、さっすがだぜ…俺の言いたいこと、ちゃんとわかったんだよな…?」


「ああ、お前のおかげだ。だから、勝手にくたばったら許さねぇぞ!」


ゆっくりと、だが確実に、好奇の声は弱々しくなっていく。傷口を抑えても、出血を止めることは出来ない。目の前にきている「死」の足音が、頭の中で大きく鳴り響いているのを感じていた。


「黄島、お前、だいじょうぶ――」


「大丈夫だよ、それよりも自分のことを心配して!」


「好奇!しっかりして!あきらめちゃだめよ!!」


「紅葉、泣くなって。俺は…なんとも……」


「好奇。」


白馬は傷口を抑えることをやめて、好奇の手を握る。涙は出てこなかった。目の前の死に実感がない。好奇が死ぬなんて、そんなことはありえない。


「白馬…ちょっと俺、戦線離脱だ…でも、お前がいるんだ。心配なんて、してないぜ…?」


「うん…ああ、分かってるよ。」


好奇が笑った。白馬は笑えなかった。紅葉と黄島の鳴き声がこだまする中で、受け入れがたいサイレンの音が聞こえた。


「灰場好奇、死亡!灰場好奇、死亡!」




※※※




AM.11:16


 東原は膝から崩れ落ちた。それでも、なおも起き上がり、嗚咽を漏らしながらも音へ飛び出す。好奇くんのところへ行きたい。その想いが、恐怖や疑念よりも先行した。


「牡丹!!」


自分の名前を呼んでいる声がして、東原は顔を上げる。涙目で立ち尽くしているのは、親友の1人、黄櫨彩羽だった。隣で動揺した顔をしているのは、桃岬と檜皮だ。


「彩羽ちゃん―――」


言い終わる前に、東原は黄櫨に抱きしめられた。互いに泣いていた。アナウンスの声は島中に届いている。信じたくなくても、今更これが嘘だと思い込むほど、楽観的な気持ちは持っていなかった。


「彩羽ちゃん、好奇…っ好奇くんが―――!」


「分かってる、分かってるわ。大丈夫。もう大丈夫だからね。」


黄櫨の声は鼻水が絡んでいた。彼女の腕は暖かく、固まりかけていた心が解けていくのを感じる。桃岬と檜皮が駆け寄ってくるのが分かった。


「彩羽ちゃん、牡丹ちゃん…」


「ひどいって思われても構わない。だけど、ここからは離れた方がいいかもしれない。銃声も思ったより近くで聞こえたし、灰場を殺したやつがこっちに来るかもしれない。東原は一緒に連れてく。だよね?」


檜皮にそう言われて、黄櫨が頷いた。こんな時に冷静な誰かが傍らにいてくれたら、いざという時に頼りになる。


「牡丹、一緒に行こ?私たち、今は大人数で行動してるの。心配しなくて大丈夫だから。」


「…彩羽ちゃん、私、みんなに話さなくちゃいけないことが―――」


「彩羽ちゃん、一度他のみんなと合流した方がいいんじゃないかな?」


「そうかもね。探しながら進もうか。」


東原のか細い声は、黄櫨には聞こえてなかったようだ。言わなくてはいけない、そう思って再び切り出そうとしたときに、黄櫨の足が止まった。


「牡丹、動かないで。琴音も。」


黄櫨の声が熱を帯びる。好奇が殺されたことで、彼女の中の恐怖が怒りに切り替わったのだ。


「アンタが殺したってわけじゃないよね?渋染――――」


曲がり角から顔を出していた渋染は、その問いに答えることなく微笑んだ。




※※※




血の滴る腕を抑えながら、蒼山は枝野のことを睨みつけていた。何もかも完璧なはずだった。ほんの数分前まで、自分の勝ちを確信していた。枝野という伏兵さえいなければ、いや…


「(いや…枝野がいなくても―――)」


本当は分かっている。手に感じる痛みは、銃で撃ち抜かれたものじゃない。


「しゃしゃり出るなよ、枝野。お前の弾は蒼山に当たってなんかいない。コイツを止めたのは黒崎だ。」


最上が抗議するように言ったが、彼は大人しく枝野の指示に従っていた。枝野に向けられた銃口はそれだけ威圧感がある。蒼山でさえも、その場から動けないでいた。


「蒼山、今すぐにその場から立ち去れ。今なら見逃してやる。これ以上何かしでかすなら、私は容赦しない。」


「…ハッ!偉そうに指図しやがる。最上の言う通り、お前は何の手柄もあげてねぇだろうが。お前に命令される筋合いはねぇ。臆病風に吹かれて、どうせ撃てないに決まってる!」


「お前は黙ってろ、この人殺しが―――!」


「ひがんでんじゃねぇよ腰抜けが!テメェも同じさ!お前が俺を斬り殺すのが遅れたのは、俺のモデルガンにビビっただけじゃねぇ、俺を殺すことを躊躇した!だから出遅れて、お前は能無しに成り下がってんだ!お前が一番分かってんだろ!?」


「この、言わせておけば―――!」


「やめろ!ここでこれ以上傷口を広げるんじゃない!」


「だからお前は黙ってろよ枝野!殺すことがルールだろうが!!」


「だったら俺のやったことに文句つけてんじゃねぇよ!!」


罵詈雑言が流れる中で、紅葉は好奇の遺体と、白馬のことを見ていた。自分と黄島が涙で顔が濡れているのに対し、白馬の目に涙は見られない。しかし、なぜかその顔が小学校の時の、泣きべそをかいていた白馬の顔と重なって、紅葉は白馬のことを抱きしめたくなった。


「やめろ。」


白馬が声を出したことで、全員の動きが止まった。蒼山でさえも、白馬の何かに気圧されたように黙り込む。好奇の亡骸を抱きかかえながら、表情が見せないままに白馬は口を開く。


「争うのはやめろ。殺し合うのもやめろ。やるなら他所よそでやれ。これ以上するなら、俺が許さない。蒼山、俺もお前のことを殺す。」


「殺す」という言葉。今まで何度も飛び交っている言葉であるが、白馬の口から告げられたそのワードは、今までにないような重みを感じさせた。蒼山はしばらく固まっていたが、「チッ」と舌打ちをして、腕を引きずりながらその場から離れていった。


「黒崎、紅姫達こいつらはどうする?」


「わ、わた、私たちは―――」


「いいよ。紅姫たちは関係してない。こいつらが悪いわけじゃない。」


紅姫は尻もちをついてガタガタと震え、湾田は呆気にとられた顔でぽかんと口を開けている。黄島は白馬を慰めるように、「黒崎くん…」と優しく声をかける。


「好奇くんのこと…どうしようか?」


「―――本当は埋葬してあげたいけど、こんな島に置き去りには出来ない。浜辺に連れて行ってもいいかな。この島を出るときに、一緒に連れていきたいんだ。黄櫨や東原にも、お別れさせてやらなくちゃ。」


「は…?おい黒崎、それってどういう意味だ?」


何かに気が付いた最上が、白馬に言葉を投げかけた。白馬から帰ってきたのは、最上が「まさか」と思っていた言葉だった。


「みんなで帰るんだ。だから、その時は好奇も一緒だ。」


灰場好奇くん、前作では「灰破好奇」くんですが、彼は前作同様、割と早めの退場となってしまいましたね。少ない尺の中で彼と白馬くんとの仲の良さを表すのは難しい部分もありましたが、優しくて我慢強い、好きなキャラクターでしたね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ