2日目ー⑤ 罠
短くてゴメンね
AM.10:34
歩き続けても、景色は変わるが状況は変わらない。なんとなく察してはいたが、今日は昨日の激動ぶりと比べると静かだ。
「(やっぱり、どいつもこいつも今日は隠れてやがるな。殺しを実行しようにも、昨日とは状況が違う。ターゲットを絞ったとなると、探すのも骨が折れやがる―――)」
ここに集められた生徒たちは、校庭で鬼ごっこをしているわけではない。1つの島の中で、互いを意識しながら息を潜め合っているのだ。ましてや特定の誰かを見つけようとするならば、そう簡単には見つからないものである。
「(それにしたって妙だ。今日ここに来るまでに、こっちの陣営は何人か見かけた…勿忘を殺した時に象牙とリに接触したし、中心街に入った中で紅姫と湾田が何やらコソコソとしているのを見た。)」
それに、雄黄と鴇が監視カメラを破壊しているのを見た。猿にしては少々いいアイデアだが、おそらくアイツらの考えじゃない。大方、桃岬あたりの提案だろう。
「集中しろ…いつでも来やがれってんだ、俺がぶっ殺してやる―――」
※※※
海松と縹を連れて萌葱が潜伏したのは、昨日の最初と同じように、再び家屋の中。それも、市街地からは少し外れたところだった。
「萌葱、その後はどうなっとる?お前さんの見立ては、当たったと言えるんか?」
「ああ、朱田と瑠璃川、2人分の首輪を調べてみてかなり進展した…3つも首輪を調べる過程で、何通りも出来ることを試してみた。おそらくだが、残しておいた青山の首輪で、ほとんどのことが解明できると思う。」
「ほとんど?ってことは、まだ完全に解除できるとは限らないってこと…?」
海松が質問すると、萌葱が「残念ながらな」と答える。その答えは本来失望するはずの回答なのだが、縹はなぜか安心している自分に気づいた。
「何しろ何の前情報もないことだからな。多くのことを知れたと言っても完ぺきじゃない。解除まで到達できれば、仕組みなんぞ分からずともそのまま同じことを他の首輪にもしてやればいい。この首輪で成功しようがしまいが、まだ首輪は必要だ。」
「だとしても、儂は感心せんぞ…死んでいるとはいえ、仲間の身体を傷つけるようなことはな。」
「俺も気が進まないよ。だが、それをしないことで生きている仲間が傷つく方が避けるべきことだ。それに、何もかも悪いことばかりじゃない。今さっき、ここに来るまでのことを見たか?」
萌葱が質問していることが何のことか、2人とも言われずとも分かっていた。ここへ来る途中に、監視カメラを破壊している黄櫨、桃岬、檜皮たちを見かけたのだ。隠れてやり過ごしたことで向こうはこちらに気づいていなかったが、萌葱はその直後に潜伏先を決めた。
「どうしてカメラを壊したりしていたんだろうね?それに、そんなことして運営の方が何も言ってこないのがちょっと不気味――」
「確かに、不気味だとも言えるな…だが、あえて楽観視すればこういう見方もできる。連中は自分たちで決めたルールに縛られている、ってな。」
「無ぅ…ルールには、確かに器物破損に関する記述なんぞなかったのぅ。ルールに記載していない限り、止めることは出来んというわけか。」
「少なくとも一時的にはな…実際には電柱の上方や家屋の屋根なんかの、足場もなしに破壊できないカメラは残っているわけだからな。本当に片っ端から壊されればひとたまりもないだろうが、よほどのことがない限り、何の通達もなしに制裁するようなことはないだろう。」
「けど、そのことがこれからのことと何の関係があるの?カメラを壊したって、私たちの首輪が外れるわけじゃないんだよ?」
「ああ、だが首輪を外しやすくはなっただろ?」
「えっ…?あ、そっか。監視の目を前よりも気にしなくてよくなったんだ。」
「そういうこと。」
萌葱がそう言うも、縹が「待て」と食い下がる。
「じゃが、カメラの範囲が万能ではないことは、昨日の時点でもそうじゃったろうが?今のように死角となる場所に隠れていれば、同じではないのか?」
「いいや、実際に映っていない時にも、俺たちは監視されているのと同じだったんだ。監視カメラがありすぎるせいでな。長時間どこのカメラにも映らないことで、その生徒が「ゲームへの参加が消極的」だと判断することが出来るだろう。」
遅れて縹は理解する。監視カメラの数が少なくなったことで、映らない頻度が上がる。それによって、今のように潜伏して何かを企てていると勘づかれにくくなる。少なくとも、これを見ている「視聴者」はそう認識してくれる。
「もちろん相手が組織的行動をしている可能性は捨てきれない。監視カメラの映像を見ているのが、金を払った連中だけじゃなく、あの男の仲間も同時に見ているのかもしれない。その場合、監視カメラの数が多少減ったところでゲームへの参加度は誤魔化せない。が、気休めにはなる。少なくとも、現に俺には精神的余裕が出来てる。」
そして、男が1人でこの島に来ているということは、おそらくこの島でのゲームはあの男1人が担当している。生徒たちからの反撃も考えれば、外部で見るよりも最初から複数人を島に常駐させておく方がいいに決まっている。相手には、「1人でも問題ない」という確かな自信があるのだ。
「そして運のいいことに…見ろ、工具が見つかった。これで今までよりもずっと楽に首輪の解体が出来るぞ。今まではナイフの刃先なんかでやっていたからな。」
「全くお前は…つくづく、常に頭を働かせている男じゃのう。」
縹はそう言うと、少しの沈黙の後に萌葱に質問をぶつけてきた。
「のう、萌葱…変なことを聞くが、お前さんには親友と呼べるような奴はおるか?」
「―――なんだよ、やぶから棒に。」
「なに、少し聞いてみたくなっただけよ…例えば、うちのクラスには麹塵と檜皮がおる。雄黄と鴇、黒崎と灰場も、そう言った関係だろう。互いのことを分かり合い、高め合っていけるもの…お前ほどに完璧な男には、そういう存在はおるのか?」
萌葱はしばらく、質問に答えることなく作業を続けていた。答えたくない、もしくは答えが見つからなかったのだろうが、おおよそ20秒ほど沈黙が続いたかと思われた時、萌葱が口を開いた。
「どうだろうな、考えたこともなかった。だけど、俺はお前の言うように完璧な存在なんかじゃないよ。」
もし自分が完璧なら、こんな回りくどいことをしないでもっと早くに誰かを襲っている。首輪の謎をさっさと解明し、この島から一人で脱出する方法を考えている。「人間」としての越えられない壁や、捨て去ることのできない臆病さ、人間性…それがある限り、完璧などにはなれはしないのだ。
※※※
AM.11:06
「紅姫さん、これって何してるの?」
「……」
「ねえ、紅姫さん。私たちってここで何してるの?」
「………」
「ねえってば―――」
「あーー!もううるさいなぁっ!お前に何回言ってもどうせ覚えらんないだろうがっ!!」
紅姫は苛立ちのままに、それでも周囲に気を遣って控えめな声で叫んだ。紅姫は、湾田からこれと同じ質問を、もう何度も聞いていた。そのたびに懇切丁寧に説明をしてきたが、説明を終えた時ですら湾田は呆けた顔で「ほーー…」とつぶやき、数分後には同じ質問をしてくる。
「ああ、私ってホント賢かったんだなぁ、だって世の中にはこんなバカがいるんだもん。」
「紅姫さん?小声でごにょごにょ話しててどうしたの?気持ち悪いよ?」
「き、気持ち悪くないわいっ!お前のせいでこうなっとるんじゃボケ!」
紅姫は半ばうんざりしながらも、自分で選んでしまった協力者に対してビシッと指をさす。
「いいか、もう一度しか言わないからよぉーく聞けよ!?私がゼリー状になるまでかみ砕いて説明してやるっ!」
「ご飯噛んでもゼリー状にはならなくない?あっ、紅姫さんもちょっとだけおバカ?」
「やかましっ!」と湾田にチョップを決める。紅姫は気を取り直すと、一から説明を始めた。
「湾田、お前は足元にロープがあったらどうなるっ!?」
「え?よける――――」
「避けなかった場合!!」
「え?え?切る、かなぁ―――」
「気づいてないの!お前はロープに気づいてない!ロープの存在なんて全く、頭の中にないの!そんな時に足元にロープがあったらどうなる!?」
「えっと―――」
「転ぶんだよ!ずっこけるの!足かけられた転ぶでしょ?」
「んー…そうかも。」
「今それをしてるの!この黒い糸はすっごい強力だから、そう簡単に切れないの!しかも黒いから、アスファルトの色に混じって見えにくい…」
「何でそんなことしてるの?」
「獲物を一網打尽にするためっ。」
転んだところを、手に入れたテーザー銃で撃つ。テーザー銃は強力な電気を相手に流すことで、対象の動きを封じることが出来る。殺すことは出来ないが、動きを止められるという点ではとても強力だ。そうして袋の鼠になった獲物を、湾田に殺させる。
「(協力者が湾田っていうのは不安材料だけど…ふふ、我ながらなんて天才的なアイデアなんだろう…!)」
湾田がしっかりと役割をこなしてくれるかは不安だが、仕方ない。彼女だって、命のかかった状況ならきちんと仕事をするだろう。心配ならば自分でその役をこなせばいいのだが…分業した方がいいと思っただけだ。決して、自分で人を殺すのが怖いというわけではない。
「さて、それじゃあ隠れるぞ、湾田。」
「え?何で?」
「だから…っ、敵が来たときに備えるためだって―――」
「おい、お前らそこで何してるんだ?」
「あひゅぅっ!!?」
「うひっ!?」
背後から声をかけられて、紅姫はまた素っ頓狂な悲鳴を上げてしまう。その声に驚き、湾田もまた声を上げた。振り返ると、そこには敵がいる。黒崎白馬たちが、こちらに一歩一歩近づいてきていた。




