第24話 代闘士
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しばらく筆の進むうちにできるだけ書いていこうと思っておりますので、お付き合いいただけたら幸いに存じます。
「どうするつもりだよ!?」
「こっちが言いたいよ!決闘裁判なんて聞いたこともない、なんで今さらそんな方法を……」
ナタニエル達が帰ってすぐ、各人を集めて緊急会議を開く。しかし、トキの怒りは収まらず、ルーネも苛立ちを隠そうとしなかった。
「……今さら決まったことをごちゃごちゃ言ったってしょうがないでしょ。今できることを考えなさい」
「君は他人事だと思って……!」
「ふざけんじゃないわこの馬鹿!誰が他人事なものですか、喚いたって始まらないでしょうが!」
あまりの剣幕に少したじろぐトキ。しかし、そのお陰か、少しだけ冷静に戻れた気がした。
「暴れたって仕方ないじゃない、高等法院を敵に回すってことは国そのものを敵に回すってことよ?」
「じゃ、じゃあどうするんだよ」
「だから今こうやって額を集めてるんじゃない……でも、決闘裁判、ね……」
「大体なんだその決闘裁判ってのは?」
「あぁあんた、出は平民?というか移民かしら、まぁそこはいいわ。決闘裁判って神明裁判の一種でね、ルールは単純、相手を殺した方が正義よ」
「は?なんだそれ、そのどこが裁判なんだよ。それに、なんでリュウがそのしん……心霊裁判とかいうのになるんだ?なぜ普通の裁判じゃない?」
「あのね、裁判方の意味なんて私に聞かないで。私は法学者じゃないのよ。それと、心霊裁判じゃなくて神明裁判、神の名の元に行う裁判よ。で、理由は簡単ね、彼がどうみても異教徒だから、これに尽きるわ」
更に言えば、と言いかけてキャシーは違和感を覚えた。本当にそれだけで決闘裁判が行われるだろうか。確かに異教徒であれば神明裁判が行われるのは不思議ではない。しかし、わざわざなぜ、50年前のカルージュ事件以来避けられてきた裁判を再び今執り行うのか。
「うん、いくつかわからないことがあるけど、とりあえずリュウは今は無事でしょうね」
「どうしてそう言える?」
「決闘裁判を選んだ理由よ。多分、ナタニエルの申告ね。決闘裁判は他の神明裁判と違って、証言すら許されない。つまり、一切の口を封じたまま、彼を処刑までもっていける。逆に言えば、わざわざそれを選んだってことは、拘束中に殺すことができないという判断ね。拘束したいだけなら、別に他の神明裁判だって構わないわけだし」
それに、高等法院が裁決前の囚人を殺したとなれば、その威信に傷がつく。尤も、殺さない程度の拷問は日常茶飯であるが。
「と、なると実際に決闘裁判に勝つって方法しか残されてないのかな」
「ええ、正直、今のところあまり思い付かないわ。トキ、あんたは?」
「……すまん、俺も何も」
「困ったわね、ルーネも私も1対1で戦うタイプじゃないし、あんたはその怪我でしょ?……そうだわ、伯爵様に出てもらえばいいじゃない!」
「馬鹿言うなよ、伯爵だって仮にもアルマニャック伯の騎士なんだ、もし盗賊なんかの代闘士になったらアルマニャック伯に嫌疑が行く、そんなこと伯爵が許すはずもないだろう」
「……じゃあどうするのよ!ああ、もうエレンが戦えたらこんな悩むことも……!」
「呼んだか、キャシー?」
扉からエレンが顔を出す。
「ルーネの部屋に行ってもいなかったからよ、酒場にでも行こうかと思ってたとこなんだが、なんか用か?」
「馬鹿ね、外は雨よ……って晴れてる?」
余りに根を詰めて考えていたからか、そこにいる誰もが雨音が止んだことに気付いていなかった。それにしても相変わらずこの男は酒と戦いにしか興味がないのだろうか。だが、そう思うと答えを急いでいた自分たちがどこか馬鹿らしく思えた。
「ああ、雨ならとっくに上がってるぜ。で、俺になんか用か?」
「用なんかないわよ、戦えないあんたに価値はないわ」
「おう、随分な口を利くじゃねぇか。今やるか?タイマンでお前に負ける気はまだしねぇ」
一瞬その目に宿った殺意にこの場にいた全員の背筋が凍る。冗談だと分かっていても、その刹那、周りの声を封じるほどの重い圧があった。そんなことはお構いなしとばかりに、今度は大笑いしながら輪に加わるエレン。
「仲間外れにしてくれちゃって、酷い奴らだぜ。で、こいつは盗賊の副団長様だっけか?」
「あ、あぁ、まだ紹介してなかったね。彼はトキ、君のいうとおり副団長を務めてた男だ。でも、今は僕らの仲間さ」
「ほう、結局こいつらは納得したのか。そういや、俺は結局なんもしてないが、いいのか?」
「何の話?」
「一芝居うつとか言ってたろ、俺は何をすりゃいい?」
「その話ならなくなったわ。今はそれどころじゃないの」
「そうか、まぁいい。で、トキだっけか?これからよろしくな。というかお前線が細いのに案外タフだな、完璧に仕留めたつもりで入れたんだが」
そういいながらも片手を差し出すエレンを、トキは意外に思った。戦った時も今さっきも感じたあの異常な殺気を発する男が、今こうして屈託のない笑顔を向けていることが少し不気味ですらあった。
少し躊躇いつつも、その手を握る。しかし、その手は意外にも柔らかいものに感じられた。もちろん彼の手がそれほど柔らかいわけはない。しかしトキは、剣やランスを振り回す騎士にしては、手の皮膚の固さが足りない気がした。またもう一つ、その手の温度にも驚いた。普通、膂力のある人間の手は温かいものだが、この男はむしろ、少しひやりとするくらいだった。
「こちらこそよろしく頼む。あの蹴りで肋が何本か折れたよ、本当に死ぬんじゃないかと思った」
それを聞いて声を上げて笑うエレン。トキから見て、その様は本当に楽しそうなものだった。
「そうかそうか、いや、それで済むとは本当にお前はタフな奴だ。強い奴は歓迎だ、これからは共に戦えることを嬉しく思う」
それが本心からの言葉なのだろう。謝るでもなく、見下すでもなく、純粋に共に戦えることを嬉しそうにしている。
「それで、結局なんの話してたんだ?それに、あのすばしっこい奴がいないのは何でだ、彼奴が盗賊の頭じゃないのか?」
「ちょうどその話だよ、エレン。斯々然々で……」
「ほう、決闘裁判か!それはまた楽しいことをやるじゃないか」
「楽しいってあのね……」
「でも彼奴なら大体誰が出てきても負けないだろ、彼奴を捉えるのは俺でさえ出来ん。あれは十人並みのものじゃない、文字通りの瞬間移動だ。走ってきてるわけでもない、ただそこに急に湧いて出る。そうじゃなきゃ、移動路もわかっているのに捉えられないはずがない」
「……あんた、ほんとよく見てるわね」
「何寝ぼけたこと言ってんだ、見ないと戦えないだろうが」
「あーはいはい、もういいわこの戦闘狂め」
スッと立つと、部屋に帰ると言い残してその場を去るキャシー。
「……あいつは何を怒ってるんだ?」
「今のはどうみても君が悪い、エレン。後で謝ってきなよ」
「何でだよ」
「何でもだ」
ムスッとして黙り込むエレン。何処か似てるなと思うルーネだったが、2人とも真っ向から否定するだろうなとも思うのだった。
「武器がもうないんだよ。彼の短剣は先の戦いで砕けちゃったんだ」
「……ほう、そりゃキツいな。武器は俺たちみたいな戦士にとっちゃ、命の次に大事なもんだ」
今度はトキの顔が曇る。エレンは何も気付かないようだったが、それを見たルーネが慌てて話を進める。
「だからさ、誰かを代闘士に立てなきゃいけないってはなしてたわけさ」
「あぁ、なら俺が行こう。今は王立騎士団も除隊の身だ、俺が出たところで誰も困りはしないだろ」
「馬鹿言うなよ、君だってまだ足が治ったわけじゃないんだろ」
「じゃなきゃ誰が出るんだ。この状態の俺にさえ、誰が勝てる?」
これが自信過剰でないのが恐ろしいとルーネは思う。実際、自分が立ち向かっても、一人では絶対に敵わないだろう。
「あぁ、こんなことならこいつを蹴り飛ばすとき手加減しときゃよかったぜ。こいつなら十全に俺とだってやり合えたろうに」
「……俺が?冗談言うなよ、所詮一撃で君に伸された男だぞ」
「あぁ、ありゃお前が随分と焦って突っ込んできたからな。端っから時間かけて俺を削ぎに来てたら、怖い相手だったぜ」
「世辞はありがたいが……」
「馬鹿野郎、手前の実力を過小評価するのは戦場で2番目にやっちゃいけないことだ。片刃の直刀にあの足運び、ありゃお前さん東洋、それもソレイユの剣士だろう。お前らのあの剣で剣をかわすのはすげぇ技術だ、俺がやろうとしても真似できなかったほどさ。ま、尤も俺は元々剣が得意じゃねえからそのせいかもしれんが」
またも豪快に笑うその男を見ながら本当によく見ている、とトキは思った。確かに、剣同士の戦いになるなら、負ける気はしなかった。
相手の剣先を刀によって滑らせつつ切り込む、後の先をとるのが師より習った剣の戦い方のはずだ。あの技を用いるのであれば、先手をとるべきではなかった。
「いや、感謝する。確かに、君のいうとおり、あのときは相当焦っていたらしい」
「みたいだな。ま、ただの殴り合いならともかく獲物を持ってのタイマンならお前さんはなかなか手強そうな相手だ、また今度手合わせ願うぜ」
「……そろそろ、いいかな?」
一人話から置いていかれたルーネが、少しだけ恨めしそうに割って入る。
「おう、すまねえ。で、なんの話だっけか」
「だから、代闘士の話。それでも、僕は君が出るのに反対だよ。今からでも傭兵ギルドへいって代闘士をやってくれる人を探したほうがいいと思う」
「ふむ、俺より強い奴がいるとは思えないがなぁ。ま、明日なんだろ、見つからなきゃ俺が出るぜ。さてと、じゃ俺は行商でも来てないか見に行くかな。話してたらソレイユの酒でも飲みたくなってきたぜ」
「あぁ、そういえばアールヴの行商が昨日は来てたよ。酒を売ってるかはわからないけど……」
「珍しいな、アールヴが行商か。あの引きこもりが森から出てくるのは珍しい」
「うん、それに凄く美しい女性でびっくりしたよ、外見年齢が僕らと変わらないってことはもう100歳近いんだろうけど」
それを聞いてエレンが固まる。まさか、彼女が来ているのか。
「でも昨日なんか怒らせちゃったみたいなんだよな。今日は来てるのかな」
「おい……そのアールヴ、もしかして馬鹿みたいな値段の物を売らなかったか?」
「あぁ、そういえば160リーヴルで真銀のネックレスなんか売ってたかな。さすがに本物かもわからないし誰も買ってなかったけどね」
それを聞き終わらないうちにエレンが部屋を飛び出す。残された二人は、呆然とそれを見送るしかなかった。
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