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百年戦争異聞録 ―没落貴族と十人の英雄―  作者: 乱坂 螢音
盗賊の街
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第18話 日が明けて

長らくお待たせしました。遅筆につき申し訳ございません。

「そうか……ま、難しいことはようわからんな。それで、これからどうするんだ?」


 翌朝。日の光が燦々と降り注ぐそこは、エレンの部屋。

 宿や周りの人たちの言葉を信じるならば、昨夜黒い大きな馬がエレンを宿の玄関先まで運んできたらしい。多分、アルネがやったのだろう。賢馬にも程がある気がするが、余程エレンとの絆が深いのだろうか。


 あれだけ痛めつけられたにも関わらず、朝にはまるで何事もなかったかのように大飯を食らっていた。最も、足に違和感があるからまだベッドで寝ていると本人が言うのは些か不安ではあった。


 伯爵を部屋へと招き入れての会議。早期に離脱したエレンに現状を説明し終えたところだった。わかってるのだかわかっていないのだかよくわからない受け答えをしつつ、エレンは現状よりもその先を求めていた。


「僕は彼らの言うことを信じたいと思う。それにね、不思議なことに、彼らの副団長、えっと名前は……」

「トキって言ってたわ」

「あぁ、そうそう、トキの持つペンダントが、サファイア曰くもしかしたら同属の物なんじゃないかって」


 それを聞いてエレンは少し難しい顔をした。


「それとこれとは関係ないだろう」

「うん、だけど、彼らの戦闘力は馬鹿に出来ないし、何より彼らは見ず知らずの僕らを助けてくれた。例の箱は微弱なマナしか感じないけど、確かにあれは先日の王陛下の声で喋る箱にそっくりだし、あれまで嘘だとは到底思えない。敵にするよりは味方に出来れば……って思うんだ」


 エレンは更に難しい顔をして少し考える。そこに伯爵が、これもまた難しい顔をして口を挟む。


「フェブルウス殿。味方にと仰いますが、所詮は賊、過度な期待は危険かと。何より、あの人数の行脚はなかなか難しいかと思われますが……」


 伯爵は長き戦争を通してよく理解していた。行軍とはそれだけで莫大な金銭を失うものであり、本拠や生産手段を持たない者が軽々行えるものではないと。戦場にいる殆どは兵站の概念のいらない傭兵であり、そうでないのは貴族たちの私兵や、王国軍くらいのものであった。

 キャシーもそれには頭を悩ませていた。兵力と財力は、切っても切れない関係にあるのだ。


「そこが問題なのよね……どうにかして彼らの力を借りたいのだけれど……」

「土地があって、仕事があれば、いいんだよね?」


 ルーネが再び口を開く。その顔には、苦渋と決意が浮かんでいた。


「僕の父の旧知に、アンジュー公ルイ卿がいるんだ、あの方に頼めばあるいは……」


 伯はそれを聞いて、ルーネたちも気付かない程一瞬、眉を顰めた。アンジュー公爵ルイ卿と言えば先王ジャンⅡ世の次男、つまり国王シャルルⅤ世の弟であり、トゥレーヌ公領、メーヌ伯領などの広大な領地を治め、あまつさえガエリアに接するヴィタリ半島の南部にあるネアポリス王国の支配権をめぐり、ネアポリス王を自称するラディズラーオⅠ世と抗争を行う程の大貴族であった。伯は、ジャン様も随分とえらい相手に喧嘩を売ってくれたものだと思わずにはいられなかった。


 一方のキャシーも、その名前にどこか引っ掛かりを覚えていた。どこかで聞いたことのある名前だったが、それを思い出すことができずにいたのだった。


「今はその話はいいよ。俺が危惧しているのは、犠牲者が出ているのにこの街の人が処分もなく許すのか?ってところさ。たとえそれがあのナタニエルとかいう野郎のせいだとしても、だ」


 話を遮るように、エレンが片眼を開いてルーネの方を見て言った。その頭の中では、まだなにか考え事をしているように見えた。

 それに対してキャシーがニヤっと笑って答える。


「あんたが寝てる間にルーネと考えてたのよ。結論から言えばきっと可能よ、あんたにも演技してもらうわ!」

「は?どういうことだよ」

「ま、見てなさいって。一芝居打つわよ!」


 楽しそうなキャシーと、苦笑いするルーネ。そして困惑したままのエレンと伯爵を残したまま、その場はお開きとなった。




「で、君たちの希望を一応聞いておきたいんだ。当然、君たちの犯した罪だって小さいものじゃない、全てを叶えてあげられるわけじゃないけど、出来る限りのことはしてあげようと思う」


 あれから半刻後、場所を別の一室に移して、ルーネ達がこれもまた縛鎖の魔術に縛られたリュウ、トキと相対していた。

伯爵を連れてきたのは、無論護衛である。エレンが万全であれば、彼を連れて来たのだが、そうでない今、非力なルーネと得物が縦弓であるキャシーでは、何かあったとき彼ら二人を抑える術がないからだ。


 最も、ルーネは父から教わったこの縛鎖の魔術を完璧なものだと思っていたし、破られるとも思っていなかった。

 その魔術は吸魔石と云われる、マナを吸い取る石にヒントを得たと父から伝えられたもので、低度のマナでは簡便なゲルの手錠しか生成されないが、マナを手に集めようとすれば、手錠へと吸収され、より大きな手錠になるといった術式である。これによって、物理的にも、魔術的にも敵を拘束できるのだ。必要なエレメントの固定や、術式の組み立ては、ルーネの父しか預かり知らぬところであり、ルーネもまた、もらった術式をそのまま用いているだけであった。

 この魔術を研究し、最終的には解き明かすのが、ルーネの密かな夢でもある。


 正直なところ、この術式で縛られたのはリュウにとって最大の誤算だった。いざとなったときは歩けなくとも、地に足を着けて"縮地"を発動しさえすれば逃げられると目論んでいたのだが、実際に軽く発動してみればどうだろう、足枷が少し肥大化するだけで終わってしまうのだった。


 先のルーネの問いに、少し考えてからリュウは答える。


「隣にいるトキを含めて、その命の保証。もし仕事があるなら、それはなおよい。オレの命一つでそれが為されるなら、安いもんさ」

「ふむ……彼らを解放して反抗を起こさない保証は?」

「トキがいりゃその心配はないさ。もし心配なら、オレが死ぬ前に少し連中に演説でもしてやれば大丈夫だろう。どうせオレが逃げられないことは知ってるんだろ?」


 そう言ってリュウは足枷を指で叩く。ルーネには、すぐにそれがマナによって肥大化していることがわかった。

 ルーネはしばし考えるふりをする。大方ここまではキャシーと予想した通りである。


「もし、それらを全て叶えた上で、君の命も助けるとすれば、君は何を僕たちにくれるんだい?」


 ルーネは少し勿体ぶって言う。一瞬、リュウの目がキラリと光ったのをキャシーは見た。


「オレの持つものならなんでもくれてやる。この命も、お前のために使い潰しても構わない」

「うーん……少し弱いね」


 リュウの隣に座っていたトキがガタリと音を立てて立ち上がろうとしたが、バランスを崩してつんのめり、倒れた。その間に、伯爵が盾を構えて二人の前に立つ。だが、ルーネは怯まず、リュウに語りかけつづける。


「君も生かし、君の仲間に仕事と居場所を与え、なおかつ君たちの罪を打ち消す方法。それは至極簡単なこと、君たち全員が僕の配下に入ればいい」


 それを聞いてリュウもトキも唖然とせざるを得なかった。それはあまりにも、突拍子もない言葉のように思えたからだ。


「リュウ、君は僕に初めて会った時、僕の右胸の胸章を最初に見ただろう?それなら、僕が何者かであることも知っているはずだ」

「……国定魔術師」

「そう、僕は国定魔術師であり、同時に貴族でもある」


 リュウは顔色一つ変えなかったが、トキはそれを聞いて今までにないほど驚いた顔をした。自分たちの相手がまさか貴族だとは思わなかった。なにより、貴族とその取り巻きに過ぎない連中が、これほどの強さを持っていることが、予想もつかなかったのだった。俺を一撃で伸したあの化け物は、彼の騎士なのだろう。戦争でのこの人手不足の中、あれほどの男が前線にいないのは不思議ですらあった。


「……お前なら、オレたち全員を養えると?」

「あぁ、幸いにして僕たちは今義勇兵団というものを作っているんだ。兵力として君たちが役に立つとなれば、その罪くらいは消してあげることもできる」


 これは半分本当だが、半分嘘でもあった。実際、正式に義勇兵になれば、多少の罪状は恩赦された。それに、いざとなればルーネの持つ私兵という扱いにしてしまえば、金銭などの取引にてことを済ませることもできたからだ。

 だが問題は、王の残した言葉だった。


『この国はもう私のものではない』『私の出した命令は私のものではない』


 この台詞の意味することがなんなのか、皆目検討がつかなかったのである。もし義勇兵団設立ということ自体がまやかしであったとすれば、彼らを助けることは難しくなる。


 だがそれでも、この提案は彼らにとっても、我らにとっても、魅力的なものであるはずだった。当然こちらは戦力が必要だし、さらにいえば、既に義勇兵団に人がいる方が、これから各地を巡るに当たって、人が集まりやすいのだ。

 彼らもまた、その腕を存分に発揮できる上に、付いて行く人が変わるわけでもない。何より、一応貴族の庇護の元に生きていくことができる。


 リュウもまた、正直悪くない提案だと思っていた。だが、ついてきてくれた連中の命が危険にさらされるのは、なにより避けたいことでもあった。しばしの葛藤の後、出した答えを、一言一句を確かめるように紡ぎだす。


「お前の配下になるのは構わない。それに、オレとトキの命なら使い潰してくれても構わない。だが、オレたちの仲間の命だけは大切に扱ってやってくれないか。もちろん、普通に戦場や任務にあたって死ぬのは仕方がない。だけど、捨て石みたいに使うことだけは、やめてくれ。オレたちからは以上だが、どうだ?」


 途中トキの方を見てアイコンタクトをとりつつ、リュウはそれを言いきった。あとは目の前の貴族様がどう言うか、だ。


 さて、ルーネはともかく、キャシーにとってこの回答は満額に近いものだった。もとより、彼らを無駄死にさせるような真似はしないつもりだ。彼らには我々の最初の仲間として、勢力拡大の礎になってもらおうと、密かにキャシーは考えていた。都合のよい存在は、早いうちに鍛えるに限る。


 ここでとるべき道は二つ。更にそれを叩き台にして譲歩を引き出すか、ここで即決してやることで恩を売るか。


 キャシーはチラリとルーネの方を見た。すぐにルーネも気づき、静かに頷く。まぁいいわ、と言うかのように、キャシーは肩を竦めた。


「わかった、交渉成立だ。よろしく、リュウ」


 そういうとルーネは縛鎖の魔術を解除する。一応、隣にいた伯爵は十分な警戒をしていたが、リュウが何かをしようという素振りはみられなかった


「あぁ、よろしく頼むぜ。えーっと……」

「ルーネ。ルーネ・フェブルウスだ。彼女はカトリーヌ・グリフィズ。そしてこちらはアングレーム伯爵アラン卿だ」

「キャシーで構わないわ。お二人とも、よろしくね」

「アランです、以後お見知りおきを。といっても、私はフェブルウス殿の義勇兵団ではないのですがね」


 握手を交わして再び元の位置に戻ると、リュウはかねてよりの疑問をルーネにぶつける。


「で、だ。オレたちはどうやってあのクソ代官をぶちのめしつつこの街を無事に出るんだ?正直オレたちもここの街の人を殺したのは事実だ、そんな簡単なことじゃないと思うんだが」

「あぁ、それについてなんだけれども、君たちを非常に怒らせるかもしれないことだから、一応相談しておこうと思ってね……」


 こうして作戦会議が開かれた。しかし一刻後、思ってもみなかった報せが、ルーネたちの元に舞い込むのだった。


流れで次の話もほとんど完成しましたが、投稿のタイミングが難しいですね。

完成次第投稿した方がいいのか、それとも来週の土曜日まで待った方がいいのか……なんとも(笑)

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