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百年戦争異聞録 ―没落貴族と十人の英雄―  作者: 乱坂 螢音
盗賊の街
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第17話 夢か現か

 ここはどこだろうか。そういえば、何をしていたのだろうか。

 起きてみれば、自分の手足はそこにあった。はて、いったい何をしていたのか、リュウにはとんと見当がつかなかった。

 辺り一面、靄のかかったような風景。このような前後左右もわからぬ霧の中では、無闇に動くなというのが爺の教えだった。


 静かに座ったまま、辺りに注意を配る。すると、次第に遠くより、かなりの速度で近づいてくる光が見えた。

 腰に差した短剣を引き抜いて警戒を……と思ったが、なぜかそこにあるはずの短剣はなかった。爺からもらった大切なものであり、なおかつ自分の最も手に馴染んだ武器がないというのは死活問題であった。


 そうしている間にも、恐ろしいスピードでその光はこちらに向かってくる。徒手空拳も全くできないわけではないが……そう思いながら、リュウは拳を構える。

 だが、その光はこちらに近づくにつれ、速度を落としているかのようだった。


 そしてついにその姿を表したそれは、恐ろしくもどこか神々しい顔をした、翼が数メートルもあろうかという巨大な輝く鳥だった。その鳥の周りだけ、霧が晴れていた。

 流石のリュウも少し怯んだが、どうやらその鳥にこちらへの敵意は一切ないらしく、リュウから一定の距離を保ったまま、静かにそこに佇んでいた。


 しばらくの間、にらみ合いが続く。対峙しているだけでもじりじりとその強烈な輝きと存在感に焦燥していくリュウだったが、突如その鳥はくるりと背を向けると、こちらを一瞥し、翼を広げてゆっくりと元来た方へと進み始めた。まるで、それはついてこいというような仕草だと、リュウには感じられた。


 感じるがままにその鳥についていく。途中途中、これまた恐ろしげな顔をした、龍のような生き物が近づいてくるが、鳥がそちらを一睨みすれば、それらは尻尾を撒いて逃げていった。


 遠くからは輝き故にわからなかったが、その羽は近くで見れば鮮やかな赤をしており、その体は高い熱を持っていた。また、物理的にだけでなく、不思議な暖かみをも持っていた。それはリュウにとって、どこか懐かしいような暖かみだった。


 一刻ほども歩いただろうか。次第に霧も晴れてくるのがわかる。

 すると、遥か先に一筋の光が見えた。そこに近づくとまた、鳥は速度を落としていく。


 それは、渦を巻く光だった。鳥はリュウをじろりと見ると、片翼を広げて、入るようにと促していた。

 その渦に飲まれると、二度とこの鳥に会うことはないんだろうなと、リュウは直感でわかった。そう思うと何故か無性に寂しくなって鳥に話しかける。


「ここまでありがとうな。……なぁ、お前は何者なんだ?」


 鳥は答えない。だがその代わりに、一つ高く啼いた。何故かはわからないが、その啼き声を昔から知っていたような気がした。

 鳥は翼に顔を埋めると、リュウに向かって嘴を向けた。そこには、1枚の鮮やかに輝く赤い羽根が咥えられていた。


「これをオレに?」


 鳥はまたも答えの代わりに、一つ頷いた。それをリュウが受け取ると、鳥は満足そうにまた啼いた。その羽根もまた、やはり不思議な暖かみを持っていた。リュウは、それを腰のベルトへと差しておいた。

 別れを惜しむリュウだったが、周りの異変に気づく。先ほどから時折いた、恐ろしげな顔をした龍のような生き物が周りに集まってきていたのだ。それは、明らかな敵意をもって、リュウを睨んでいた。


 鳥が威嚇すれば、それは少したじろぐものの、次第に数も増え、包囲の輪は縮まっていく。鳥はリュウの方を見ると、早く行けと言うかのように、再び翼をはためかせた。


 覚悟を決めて渦巻く光へと飛び込む。後ろでは、鳥が羽ばたき、巨大な風と熱を以て龍たちを退けていたが、それを見ることはかなわなかった。




 目を開け、体を起こしてみると、そこには見知った顔があった。


「リュウ!あぁ、リュウ!」


 急に押し倒され、強く上半身が締め付けられる。そうだ、この男は背丈の割に膂力が高いんだった。


「ちょっと、痛いぜ……」

「どうやら無事にいったみたいね」


 声の方を振り向くと、そこに昼間助けた3人のうちの2人が見えた。


「マナ欠乏症。あんた、死ぬところだったのよ?全く、無茶をするんだから」

「そうか……なんか知らんが助かったぜ。あれから何があったんだ?」


 トキから離れ、立ち上がると、リュウはキャシーに問う。


「あんたが彼からルーネを助けてくれたんでしょ?だから私もあなたを助けただけよ」


 そういってキャシーはトキの方をチラリと睨む。バツが悪そうにトキは目をそらすのだった。


「それにしてもノーメ、あなたすごいわね。よくマナ欠乏症だって……」

「生きとし生けるものは全て大地を通してマナを循環させる。その量が多かったり少なかったりすれば、私たちにはそれがわかる。大地は私たちであり、私たちは大地である。故にそれは当然のこと」


 キャシーの言葉にノーメは表情一つ変えずに言う。その姿は、先ほどまでの幼い少女の姿から一転、妙齢の女性といった風貌へと変化していた。ぶかぶかだった服はその体に丁度よい大きさであり、くたびれたような帽子は今や新品同様となって、立派に頭に乗っていた。


「で、これからどうするの?あんたたちをまず代官につき出せばいいかしら?」

「キャシー、それはちょっと待って欲しい。彼が面白いものを見せてくれたんだ」


 ルーネはリュウを見やると、リュウもまた、懐から先の機械を出して、再び音声を流す。


「驚いたわ、こんな魔法も魔導具も見たこともないわね……でも、王様からのあれを聞いたあとだと、あながち嘘とも思えないわ。それに、なにより面白そうな話じゃない、一枚乗ったわ」


 そういってクスリと笑ったキャシーの顔は、いたずらな微笑みに満ちていた。



 今後の展望をどうするか話し合うから着いてこいと言って、ルーネとキャシーが向こうに方へ歩いていく。

 トキはリュウに肩を貸すと、2人へと着いていくように歩き出す。


「仲間たちはもう誰もいないのか?」

「ううん、あのあと狼煙をあげてこっちに来てもらったよ。生きてる奴は魔術師の彼のもとで保護してくれる約束で、一旦捕まってる」

「あぁ、それは本当に良かった……亡くなった奴らも、後で葬ってやらないとな」


 そういったリュウの顔には涙が一筋流れる。それを見てトキもまた、涙を目に浮かべるのだった。

しばしの沈黙のあと、トキが言葉をつまらせながら言う。


「ごめんよ、リュウ。僕のせいで君の……君の大事な剣を……」

「はは、んなこた気にすることはねぇさ。形あるものは全て壊れる、そう昔お前が教えてくれたんじゃないか。むしろ、これでトキを助けることができたなら、安いもんさ」


 そういってからからと笑うリュウ。刃は砕けても、宿った爺からの思いは、きっとまだそこにあると信じていた。

 トキの刃を受け止めた刃が砕け散ったあの時、何処かから、頑張りなさいと聞こえた気がした。それは、紛れもない、爺の声。


 それにしても妙な夢だった。あんな鳥や龍は見たことも聞いたこともないし、妙にリアルな質感がそこにはあった。そして、あの鳥は、何処かであったような気がしてならないのだ。


 だが、今となってはそれもどうでもよいことだった。今ここに、仲間たちが、そしてトキが生き残ってくれた。みんなが居てさえくれれば、どこからでもまたやっていける。


 マナが体に戻ってきたのか、それとも心が軽くなったのか、その足取りは次第に軽くなっていく。

 夢の中のことは所詮夢の中のこと、今本当に大切にすべきなのは、ここにいるみんなだと、リュウは良くわかっていた。


 半月は既に沈み、夜の帳が下りていた。数多の煌めく星達が、静かに彼らを照らす。

 一陣の風が吹き抜けて、リュウの髪が靡く。街灯の火の光に紛れて、仄かに煌めく赤い羽根が、空を舞った。


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