3.王太子との白い結婚
もう見慣れた光景に、アルマは何を思うこともなかった。
離宮へと繋がる廊下を、フランシスが歩いて行く姿が見える。
(堂々としたものね……)
はじめこそ、不審な動きが見られたものの、今では堂々と闊歩している。
その先に待つは、王太子元婚約者のハリエットだった。
二人は、フランシスとアルマの婚姻が成立した後も、関係が続いていた。
従者が手紙を持って行き来していたことは知っていた。
フランシスがメルヴィル侯爵家を訪れていたことも知っていた。
ハリエットが王城の庭園を訪れていたことも知っていた。
二人がガゼボで手をつないでいるのも、口づけをしているのも。
そして、今では、離宮にハリエットを住まわせていることも。
側妃として迎えたわけでもない。
二人は元婚約者というだけの関係ではなく、恋人なのだ。
アルマは冷たい視線を窓の外に向けていた。
「なめられたものですね……」
その声の主もまた、窓の外に冷たい視線を送る。
「あまりそういったことを言うものではないわ、ルーシー」
「ですが、何も、王太子妃様のお部屋を、離宮への道が見える位置に据えなくても……」
「この部屋に決めた頃はまさか離宮を使うとは思っていなかったんじゃない?」
アルマの救いは、ルーシーを生家から連れてくることが出来たことだった。
そして本宮では、ルーシーだけではなく、他にも侍女は専属でついてくれている。
「殿下。本日のお茶は何になさいますか?」
「では、カモミールにしましょうか」
「はい」
「あ、ジーン、クッキーもお願いできる?」
「はい、かしこまりました」
ジーンと呼ばれた侍女は、準備のために部屋から出て行った。
アルマへの対応が悪いことはない。
きちんと王太子妃として敬われ、衣食住に困ることはない。
ただ、ここに囲われているだけ。
この部屋に王太子フランシスが訪れることがなければ、彼の元を訪れることもない。
国王と王妃とは食事を共にすることもあるが、王太子とはしたこともない。
夫である王太子とは、この2年間、交流という機会は皆無だった。
「ルーシー。私って、何のためにここにいるんでしょうね……」
伝承のためだけに、この場所にいる。
妻にはなった。
しかし、一度も夫には選ばれなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。




