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聖女の加護は、恋心を隠せない。~王弟殿下の愛は、国中にだだ洩れです~  作者: 茉莉花


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1.聖女アルマ

アルマ・ヘイリー。彼女は一般的な家門の伯爵家の長女だ。


王都からは少し離れた位置に領地を持つヘイリー家。

アルマは不自由なく穏やかな日々を送っていた。



「アルマ、今度王都に行ってくるが、何か欲しいものはあるか?」


「お兄様!そんな、毎回ご用意していただく必要などありませんのに……」


「可愛い妹に贈り物をしたいだけだ。お菓子か?髪飾りか?ドレスでも良いぞ」


「……それでは、髪飾りをお願いしても良いですか?」


「もちろんだ」


アルマの額に口づけて、兄は去って行った。

アルマはそこに手を寄せる。


(もう、お兄様は甘やかしすぎだわ……)


後ろからクスクスと笑い声が聞こえた。


振り返ると、壁際に立っていた侍女のルーシーが手を口元に当てて笑っている。


「ルーシーったら、笑わないでよ」


「ですが、お嬢様。あんなに若様の愛に慣れてしまっては、他の殿方からの愛では物足りないのでは?」


「慣れているわけではないわ?いつもドキドキしているもの」


「では、若様より素敵な人に出会えるかが心配ですね」


「……」


アルマは口を尖らせると、ルーシーを軽くにらみつけた。


「ほどよくでいいわ。お兄様と比べても仕方ないけれど、やさしくて、穏やかな方ならば贅沢は言わないわ」


「お嬢様はもうすぐ20歳ですね」


「ええ。通過儀礼が終わったら、婚約者を立てるってお父様は言ってたわ」


「もうそんなお年ですか」


「そんな年寄り臭いこと言って、ルーシーは私と3歳しか違わないじゃない」


「それでも、お嬢様が12歳のころからお仕えしてますから、成長されたなと思うのです」



ルーシーがアルマの侍女に宛がわれて8年になる。年齢が近いこともありとても仲が良い。

ルーシーはアルマの嫁入りまで見届けると言って長く仕えてくれていた。






アルマが20歳を迎えた。


父親に連れられ、神殿へとやってきたアルマ。

これから通過儀礼が行われる。



この国では20歳を迎えた女性が、神殿にある泉に手を浸すという儀式がある。

これからの幸運を願うものだが、もう一つ理由があった。



アルマも例に倣い、清められ、泉の前に立たされた。


「では、アルマ・ヘイリー。これより、始めよ」


合図を受け、アルマは聞いていたとおりの手順で手を泉に浸した。



すると、辺り一帯が強い光により包まれた。


「こ、これは、まさか!」


(ま、まぶしい!)


アルマの手から光が放たれている。


(な、なんなの、これは!?)


眩しさから、一同目をつむる。




どれくらいたっただろうか。


そう長くはなかったが、目が慣れるまでに時間がかかった。


ようやく視界がはっきりしたところで、アルマは泉に浸していた手を引き上げる。


その手の甲には、紋のような痣が刻まれていた。


「こ、これは!」




神官は告げる。


「聖女の証でございます!」


「聖女の証?」


「つ、ついに……!す、数十年ぶりだっ!……数十年ぶりに現れました!」


「え?」


「アルマ様。こちらに」


神官はアルマを丁重に扱い始めた。


アルマは誘導されるがままに一室に通された。



「少々お待ちくださいませ」


そこは、白と金の装飾で統一された調度品が並ぶ、シンプルな部屋だった。





しばらくすると、扉が開かれ、神官が大司教を連れて入室する。


分厚い書物を持参した大司教は、あるページを開くとアルマに刻まれた紋と見比べた。



「ああ、間違いない。やっと現れた。先々代皇后以来となる聖女様だ」


「え?」


すると、大司教と控えている神官たちは深く頭を下げた。


「アルマ・ヘイリー伯爵令嬢、本日をもって、あなたは聖女と認定されました」


「あ、あの、私が聖女ですか?」


「はい。アルマ様。あなたがこの国の聖女様でございます。その紋様が証でございます。伝承通り、あなたを聖女と認定し、王家に嫁いでいただきます」


「王家に?」


「はい。神の祝福をお受けになっている王の血を継ぐ者と結ばれてこそ、聖女様のお力は国へ巡ると伝えられております」


「結ばれる……」


「はい。婚姻を結んでいただきます」


「そう、なのですか……」




混乱の中にいるアルマは、大司教の言葉を繰り返すのみだった。



大司教はアルマの心が落ち着くのを待ち、伝承について、聖女の役割についてアルマに伝えた。

アルマは理解すると、その運命を受け入れた。




アルマの身は、神殿の預かりとなった。

父だけが屋敷に戻っていった。



◇◇◇


1ヶ月後、神殿にて婚礼の儀が行われた。


次期王と聖女との婚姻は、三代ぶりとなる。



アルマは横に立つ美しい王太子の横顔に見惚れた。


(このお方と夫婦になるのね……)


アルマは王太子を見上げるが、王太子は前を見据えたまま視線が合うことはなかった。


婚姻届に署名する。


「以上をもって、二人の婚姻は結ばれた。聖女様のご加護をお恵みくださるようお願い申し上げます」


大司教は、深々と頭を下げた。


王太子は最後まで視線を交わすことはなかった。

婚礼の儀を終えると、静かにその場を去った。





王城の一室で、アルマは待つ。


だが、いくら待っても、待ち人が現れることはなかった。



(今日、私は結婚したのよね?)



婚姻届は書いた。私たちは夫婦のはずだ。


妻となった聖女は、今宵、一人きりで夜空を見上げていた。




ここまでお読みいただきありがとうございます。

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