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本を殴る令嬢は魔法司書になりました~マザコン婚約者から逃れるため、小鳥付き美形司書と図書館迷宮を攻略します~  作者: 藤谷 要


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第28話 成果発表会準備

 本を複数人で倒せるか、調査しようとしたところ、すぐにお昼の鐘が鳴ったので、フィオナたちは職場の食堂で昼食を挟んだ。そのあと、レナードはすぐに他の魔法司書たちに協力を要請した。


 図書館迷宮での本への攻撃に初めは難色を示されたが、フィオナが拳で倒したと知ると、興味を示した人が意外に出たおかげで、それなら私も参加したいと他の参加者が増えて、浅い階層で検証実験を行うことができた。


 その結果、なんとフィオナ以外でも本を倒せたのだ。


「よし、これで無駄本についても報告ができるな」


 ところがフィオナは、女神のお気に入りの称号を報告したあとの状況をふと想像してみて怖くなっていた。


「セレストさん、すみません。称号について秘密にしてもらえないでしょうか?」

「どうしてだ?」

「目立つのが嫌なんです。そんな珍しい称号があったら、箔をつけたい権力者に新たに狙われそうで……」


 レナードの顔色が変わる。


「確かに、その懸念はあるな。だが、申し訳ないが報告の義務がある以上、秘密にするわけにはいかない。それに、その称号で今後何か起きた場合、カサドラ嬢を組織が守れなくなる」


 レナードの説明はもっともだ。


「私情で口出しして、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 気づかなかったとはいえ、規則違反を唆すところだった。

 フィオナが落ち込むと、レナードは少し慌てるように口を開く。


「いや、俺の言い方が悪くてすまない。報告はしなくてはならないが、カサドラ嬢に配慮してもらうつもりだ。これだけは大っぴらにしないよう要請する。だから、ゴードンさんもガザフも誰にも言わないでくれ」


 レナードに話を振られた二人は当然だという顔をして頷いてくれた。


「ありがとうございます! 本当に助かります!」


 フィオナは仲間たちの気遣いが本当にありがたかった。


「それじゃあ、俺は上に報告してくるから、これで解散だ。今日から二日間は休暇となるから、休み明けに会おう」


 レナードの言葉にハンスとガザフはすんなり頷き、挨拶をして帰っていく。

 フィオナだけが残った。


「セレストさん、こんな状態で休めません。何かお手伝いできることはないですか?」


 ダミアンの母であるベラトリクスは今月中に成果を出さないと婚約破棄をすると言っていた。


 フィオナは時間があれば、少しでも早く結果を出したくて作業をしたかった。


「気持ちは分かるが、休むことも大事だぞ」

「……すみません」


 納得はできなかったが、これ以上文句を言ってもレナードを困らせるだけだと思い、渋々引き下がるしかなかった。


 そんなフィオナにレナードは申し訳なさそうに微笑む。


「すまない。上司である以上、休暇の指示は規則なんだ。でも、あくまで個人的な話だが、俺は報告書を書くためのメモを家で用意していたぞ。案外、何を書くかメモがないと、抜けてしまうことがあるからな」


 それを聞いてフィオナは目を輝かせる。


「確かに、それは大事ですね。ありがとうございます!」


 家でもできる作業が見つかって、フィオナは少し気持ちが落ち着くことができた。


 家で忙しいほうが、手持ち無沙汰のままで不安な気持ちを持て余さずに済むからだ。


「それではお先に失礼します。お疲れ様でした!」


 フィオナは笑顔でレナードと別れた。


 彼とこうして話すと、落ち込んでも気持ちが上向きになれる。


 これからもずっと彼と一緒に過ごせたら、どんなに幸せだろうか。


 彼と両思いになれたら、いいのに。


 フィオナは彼への気持ちを抑えながら、寄り道せずに大きな荷物を抱えて屋敷に戻る。


 予定より早い帰宅に家族は驚いていた。


「帰って早々申し訳ないけど、悪い知らせよ。ドラン夫人から連絡があったの。帰ったら屋敷に連絡してほしいって」


 フィオナは母からの言葉に顔を強張らせた。


 翌日、フィオナはメイドのメリルをお供に嫌々ながらもドラン家を訪れる。

 夫人がいないなら、伝言だけ残して帰るつもりだったが、あいにく夫人は在宅で、そのまま屋敷に招かれるはめになった。


 案内された部屋でフィオナがテーブルに着席し、後ろに控えたメリルと待っていると、ドラン夫人とダミアンが遅れて入室してくる。


「迷宮の探索で数日泊まりだったと聞いたけど本当なの?」


 夫人は挨拶もそこそこに用件を切り出してくる。


「はい。第十階層より下に行きましたので」

「まぁ! それならあなたは上級の魔法司書になったということなの?」

「はい、異例の早さですが」


 すると、夫人は形相をひどく歪ませた。


「嘘おっしゃい! 私が知らないとでも思ったの? 上級の魔法司書はそんな簡単に取れるものではないのよ。はぁ、可哀想に。ダミアンとの婚約破棄が嫌でそんな見え透いた嘘をつくなんて」


 夫人は呆れたようにため息をつく。


「僕も残念だよ。君は無能だけでなく、頭も残念だったんだね。やっぱり僕の妻は難しかったから、愛人くらいがちょうど良かったんだね」


 ダミアンまで尻馬に乗ってフィオナを貶してくる。


 フィオナは内心すごく不快だったが、この人たちに分かってもらう必要はないと思い、耐えながら黙って聞いていた。


 すると、そんなフィオナの態度が気に食わなかったのか、夫人は不満そうな顔をする。


「何か言ったらどうなの? 黙っているなんて失礼だわ」

「申し訳ございません。何てお答えするべきか悩んでいました」


 面倒くさいと思いつつ、フィオナは相手を怒らせないために返事をする。


「まずは嘘をついた謝罪が先でしょう? 私はね、嘘つきがなによりも大っ嫌いなのよ」


 自分が嘘つきなのに、それを言うの?


 フィオナはもう少しで吹き出しそうになったが、気合いで必死に堪えた。


「(到底信じられないことを言って)申し訳ございませんでした」

「ふんっ、分かればいいのよ」


 夫人は謝罪だけされて満足したようだ。


「それじゃあ、婚約破棄の手続きをさせてもらうわ。あなたの有責でね!」

「私の有責で? それは同意いたしかねます」


 夫人を追い詰める魔法を手に入れたフィオナは堂々と反論できた。


「何を言っているの? あなたは約束どおり成果を上げられなかったのだから婚約破棄は当然でしょう?」


「約束の期限は今月までです。まだ数日あるので結論は早いのではないでしょうか? 実は私も携わった探索で成果をあげたので、そのうち魔法省で大々的に発表があると思います。楽しみにしていてください」

「そんな話、聞いたことがないわ!」

「昨日探索から帰ってきたばかりなので、まだお耳に入らなかったのでしょう」

「そう、あくまであなたも探索してきたと言い張るわけね?」

「事実ですから」

「それで、どんな成果をあげたというわけ? 話しなさい」

「申し訳ございません。守秘義務のため、詳しく話せません」


 すると、夫人は嘲笑を浮かべる。


「守秘義務、便利な言葉よね。それで他の人は誤魔化せても私には通用しないわよ。いいわ。あなたの嘘に付き合ってあげる。その成果発表が本当にあるなら、ぜひ私を招待なさい。できるものならね。特級相当の魔法を取得したときでさえ、すぐの発表だったわ。でも、そんな予定すらないのなら、そのときは分かっているわよね?」


 夫人の勝利を確信した余裕の態度を見ても、フィオナは何も感じなかった。


「はい、承知いたしました」


 フィオナはできるだけしおらしく見えるように答えて、相手に警戒されないように心がけた。


 この人たちとの付き合いも、もうすぐ終わりだと思うと、もう何を言われても怖くなかった。


 それから報告書作りにフィオナたちは忙しくなった。


 なにしろ新魔法の取得だけでなく、新発見な情報がたくさんあるからだ。


 新発見の無駄本と食堂についての発見者はフィオナなので、報告書の作成を任されていた。

 初めての作業なので、指導として先輩のガザフがついてくれている。


 レナードは新魔法の報告書作成だけでなく、その発表の会場の設営まで任せられていて、とんでもなく忙しそうだった。


 ドラン夫人が話していたとおり、新魔法の発表は取得後すぐだからだ。


 上層部の意向で、一週間後に新魔法と新発見の発表を同時に行いたいと無茶振りをされてしまい、探索課は現在多忙を極めている。


 無駄本のほうはフィオナ以外の魔法司書でも倒せたが、加護をまだ取得できていない。フィオナ以外でも取得可能か、検証を頑張っている最中だ。


 発表日ギリギリまで粘ってダメだった場合、無駄本からの加護取得の発表のみ延期らしい。


 他の業務をハンスが引き受けてくれて、今回の探索の報告書を作成してくれている。


 噂を聞いて他の部署からやってくる人の対応もしてくれて、フィオナたちが仕事に集中できるように気を遣ってくれていた。


 そんな忙しい最中、話があるとレナードが珍しくフィオナたちの席までやってきて話しかけてきた。


 四人は場所をわざわざ会議室に移動する。他人に聞かれたくない話のようだ。


 席につくなり、レナードは話を始める。


「上層部で揉めているらしい。今回の探索結果の影響力があまりにも大きすぎるのに、現行の規定では評価できないと」

「へー、何をしてくれるんだろうな? 何かくれるなら、もらうけどな」


 にやにや笑うのはガザフだ。


「僕は面倒なことになるなら特にいらないかな」


 そう言うのはハンスだ。


「私は、特に気にしてないです」

「いや、カサドラ嬢は気にしろよ」


 フィオナもみんなと同じように感想を口にしたらガザフに突っ込まれた。


「ガザフの言うとおりだぞ。カサドラ嬢が評価されないなら、制度自体がおかしいと俺は思う。それと、カサドラ嬢が得た称号について上層部も扱いに困っていた。神々に関することだから、国に報告しないわけにはいかないが、それで優秀な人材であるカサドラ嬢が変に目をつけられても困るんだ。魔法省うちとしては」

「わ、私はどうなるんでしょうか?」


 フィオナが不安がると、レナードは安心させるように微笑んでくれる。


「俺だけじゃなく、上層部が何かしてくれるはずだ。君のおかげで再び魔法省が賑やかだからな。金の卵を産む鶏を手放すほど上は愚かではないぞ」


 そう言うレナードは頼りがいがあって、一安心だ。


 この人が上司で本当に良かったとフィオナは感じる。


 会議が終わったあと、フィオナは約束どおりドラン家に発表会の招待状を書いて送っていた。


 約束どおり、今月中に。ギリギリになったが。


 他にも前に迷惑をかけた奉公先にも謝罪の手紙と招待状を送っている。


 迷惑をかけたので、魔法省から給料が出たら少しずつになるが弁償しようと思ったからだ。

 きちんと働いていると伝えるためでもあった。


 ところが発表前日の忙しい最中、いきなりドラン家の夫人にフィオナは呼び出される。


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