第二十二話 連射
昼の休憩時間がそろそろ終わりそうな頃、フィオナたちは確認のためレナードに話しかける。
「セレストさん、下の階層に行く階段の前にボス本の部屋があって、そこの本から魔法を取得しないと、通れないんですよね?」
「基本的にはそうだが、階層のボス本からは一人だけしか魔法を取得できないから、第十四階層まではボス本は不在だ。今いるボス本は、第十五階層以降にしかいない」
「第十四階層の魔法は俺が取得したんだぜ。そのおかげで特級魔法司書になれたんだ」
なぜかガザフが、自信満々に会話に入り込んでくる。
「去年、前の魔法の持ち主が亡くなったのか、ボス本が復活したんだよ。それがガザフが再取得した、あの正直魔法だ」
「そうそう、前の持ち主が外国の人だったせいで、魔法が国外に持ち出されちゃったんだよね。魔法省の上が憤慨したおかげで、魔法の取り扱いについて規則が増えたんだよ」
レナードに続いてハンスも教えてくれる。
「ボス本の魔法取得が特級魔法司書の条件なら、セレストさんはどの階層の魔法を取得したんですか?」
「ああ、第十三階層の魔法を再取得したんだ。あの鑑定魔法だよ」
「まぁ、それなら私は貴重な魔法を二種類も体験できたんですね」
「そうだぞ。新人は運がいいな、ハハハ」
処罰されそうになったのにガザフは能天気に笑っている。
「ガザフ、そこは反省するところだろう?」
「うるせー」
レナードの苦言にガザフはいつものように悪態で答える。
レナードはため息をつき、休憩の終わりと出発を告げた。
書斎部屋を通過して下の階層に向かうので、フィオナは背中に大きなリュックカバンを背負っている。
加護で能力が向上していなかったら、普通の令嬢では厳しい仕事だと感じる。
廊下を黙々と歩き、角の突き当たりに差し掛かったとき、ハンスの肩に大人しく乗っていた黒猫が急に唸り声を上げる。
「本がすぐ側にいる」
ハンスが小声で告げた直後、本が曲がり角から音もなく姿を現した。
「ふん!」
フィオナはその本に攻撃して、すぐに動けなくする。
事前に警戒できたおかげで、すぐに反応できた。
本の中身を読み、魔法を取得する。
「黒猫さんのおかげで助かりましたね」
フィオナがハンスに話しかけると、ガザフが怪訝な顔をする。
「黒猫?」
「いえ、なんでもないです」
ガザフには黒猫が見えないらしい。
ハンスが彼に伝えてないなら、フィオナも何も言うべきではないと判断して誤魔化す。
すると、レナードのアタマに乗っていた小鳥がいきなり「チチチチ!」鳴き出すではないか。
鳴き声に驚いたのと、まるで嘘をついたことを咎められたように感じて、胸が少しざわついた。
たまに本に遭遇しながら廊下を歩き続けると、大きな両開きの扉の前に到着する。
まるで門のような大きな造りだ。扉には細かい装飾が施されている。
プレートには、古代語で文字が刻まれている。『書斎』と。ただシンプルに。
「この扉を開いて入った途端、戸棚に収められた本たちが次から次へと襲いかかってくる。扉から本が出てこないのが唯一の救いだ。カサドラ嬢、防御魔法を念のためにかけておけ。俺たちもだ」
「はい」
レナードの指示に従い、防御魔法をそれぞれ唱えて攻撃に備える。
「では開けるぞ」
レナードの合図で、扉がフィオナの目の前で開かれる。
通路が真っ直ぐに伸びた両側に所狭しと置かれた本棚たちが見える。
「では、行ってきます! "絶対滑舌"!」
魔法を唱えてフィオナは部屋に足を踏み入れる。
入り口側の本棚から収められていた本たちが動き出す。
『神々の怒りを喰らいたまえ、神雷の嵐!』
フィオナから放出される稲光が周囲の本たちに叩きつけられる。
一撃で本に穴が開くものもあれば、一瞬で黒焦げになるものもある。
レナードにえげつないと評された抗魔属性攻撃が、重なるように攻めてくる本たちを容赦なく貫いていく。
魔法を何度も唱えながら、フィオナは先に進んでいく。絶対に言い間違えない魔法のおかげで、どんなに早口でもミスをしない。
近づく敵たちを先手必勝で攻撃し続ける。
以前の魔法回数の検査結果と、鑑定で判明した魔力の高さで、この連続攻撃が可能だと思いついたのだ。
「嘘だろう!?」
後ろでガザフの叫び声が聞こえた気がしたが、振り返る余裕はなかった。
先へと続く扉の前に辿り着いたときは、もうフィオナに近づく本はいない。
ぼろぼろになった本たちは部屋から消えていき、平穏が再び訪れる。
『条件(本の連続撃破を達成)を満たしたので、加護「燃費向上」をプレゼントします』
なんと静まり返った部屋に古代語のアナウンスが突然流れてきた。
「うお! なんだ!?」
またもやガザフの悲鳴が後ろから聞こえる。今度はフィオナは振り返った。
『なお、この取得条件を他人に漏らせば、加護は消え、再取得は不可能なのでご注意ください』
「漏らすな!? ヤバいやつだろ、それ」
三人がフィオナに近づいてくる。
「良くやった、カサドラ嬢」
レナードの褒め言葉にフィオナは嬉しくなって笑顔を浮かべる。
「お疲れ様だったね。すまないが、早く次の部屋へ行こう。ここは落ち着かないよ」
ハンスの困った声に顔を見合わせ、頷き合う。
フィオナは隣の部屋に続く扉に手をかけてドアノブを捻って開けた。
「ちょっとお前ら、なんで誰もさっきの変な声に驚かねぇんだよ!」
「あとで説明する。今は下の階層の休憩所に向かうのが先だ」
レナードの返答にガザフは渋々納得したようで、騒ぐのを止めてくれた。




