第二十一話 昼ご飯
廊下に出て慎重に足を進める。
廊下は石造りの床と壁でできていて、角の柱に装飾が施されている。
天井全体が発光しているみたいに明るいので、昼間のような感覚になる。
「さっそく本がいたぞ」
「じゃあ行きます」
フィオナは魔法を使って対象に近づき、本の背後に素早く回り込む。本がフィオナに気づいて振り返ろうとしたときだ。フィオナの拳が本の表紙にめり込んだ。
一撃で本はプカリと浮いたまま動かなくなる。
本が魔法を放つ前に先制攻撃したほうが楽だとフィオナは第八階層以降で学んでいた。
本を好き勝手にめくって光る文字を読み、魔法を取得する。
用済みになった本は、静かに消えていった。
「い、今のは何だったんだ!? なんで本が殴られて止まってるんだよ!?」
ガザフは予想どおり混乱して、フィオナとレナードを交互に見る。
「あんな魔法の取得、ありえねぇ! 普通なら、本の攻撃魔法で大変なんだぞ!?」
誰もガザフに説明をしない。見れば分かることだからだ。
フィオナは再び動き出す。
「次の魔法の本を狩りたいと思います」
「本は狩るもんじゃねーよ!」
同じ階層の廊下で何冊か魔法の本と出会って討伐したあと、いきなり大きな鐘の音が響き渡る。
「お昼の十二時だ。休憩所に戻って昼ご飯にしよう」
「はい、分かりました!」
現れた無駄本をぼこぼこに殴って消したあと、フィオナはレナードに続いて歩く。
「やべぇ、やべぇよ。あの女、凶暴女だった……」
ガザフはハンスの陰に隠れて、フィオナから距離を置いている。
到着した食堂で食事をとることになった。
フィオナはさっそくリュックカバンから取り出したお弁当をテーブルの上に置き、蓋を開ける。
フィオナの好物ばかりだ。
「もしかして俺たちの分も持ってきてくれたのか? 新人、気が利くな!」
ガザフは先ほどまでフィオナを避けていたのに、勘違いして弁当に手を伸ばしてくる。速攻で箱ごとフィオナは逃げた。
キッと睨みつけて威嚇するのを忘れない。
「よせガザフ。それは全部彼女のものだ」
「はあ? 普通に四人前くらいあるぞ。あれを全部一人で食べるのは無理だろ?」
「この量を食べても足りないって言ってるのを聞いたことがあるよ。可哀想だよ、取ったら。それがまともに食べられる最後の弁当なのに」
ハンスの言葉を聞いてフィオナは厳しい現実を突きつけられた気分になり、悲しさのあまり涙が出そうになる。
「えっ、もしかして俺がすげー悪者になってない!? ちょっと待てよ。ほら、これをやるから機嫌を直せよ」
ガザフが持参していたウィンナーをくれる。
もぐもぐと素直に食べると口の中に香辛料とジューシーな肉の味が広がる。
「おいしいですね」
「そうだろ? ここの店のはうまいんだよ」
「あなたは意外に親切なんですね」
「意外とかいらねーよ、新人。てか、名前聞いてねーな」
「私もです」
「ガザフ・レルトニーだ。これでも特級魔法司書なんだぞ」
「私はカサドラです。ウィンナーをありがとうございます。お礼は迷宮から戻ったときにしますね」
「えっ、特級スルーするの?」
「もぐもぐ」
フィオナにとって、特級よりはウィンナーのほうが大事だった。
「新人のメンタル強ぇな。まぁ、俺は別にお礼とか気にしないし、弁当はもう奪わないから、普通に置けば?」
苦笑するガザフを今度は信頼して抱えていた弁当をテーブルの上に置く。
他の人も同じテーブルを囲んで、持参した食事をとっている。
ハンスは自家製の弁当で、レナードは購入したサンドイッチだ。
食堂を見回せば、壁に三つの大きな横長の絵があり、食事をとっている人々が描かれている。
テーブルに描かれた豪華なおかずの数々。テーブルの位置と背景は同じなので、同じ場面のように見えるが、少しずつ細かいところが違っていた。
「セレストさん、この三つの絵は間違い探しみたいですね。ほら、食事の内容がよく見ると違いますし、時計の時刻が六時と十二時と十八時で、違っていますよ」
「そうなんだよ。第十階層以降は各階層ごとに休憩所があるんだが、食堂に飾られた絵は、どれも全く同じものがないと調査結果は出ているんだ」
「この迷宮は色々凝ってますよね。実は正攻法以外にも私みたいな魔法を取得する方法が用意されていますしね」
「女神のお考えは我々には到底及ばないが、何か狙いがあってのことかもしれないな。知恵を司る女神だから」
「女神様の狙いかぁ。滞在日数が増えるごとに、この絵の中の豪華な食事が嫌味に感じるんだけどな。どうせなら食えるものも置いてくれたら良かったのに」
ガザフの文句にみんな苦笑する。
確かにこの階層から地上に戻りづらいので、下を目指すには迷宮に滞在せざるを得ない。
でも、現地調達ができないため、食材の持ち込みで一苦労なのだ。
彼と同感だった。
「セレストさん、午後の予定は書斎部屋を抜けたあと、下の階層に行くと事前に聞いていますが、実は書斎部屋で試してみたいことがあるんです」
「試してみたいこと?」
「ええ、魔法を使って倒せないかなぁって思ったんです」
フィオナの提案にガザフは失笑する。
「おいおい、そんな一人の魔法で倒せるような数の本じゃないんだぜ。本棚に仕舞われた本が一斉に襲ってくるから、近づかれる前に全力疾走であの書斎部屋のど真ん中を通り過ぎなきゃ囲まれて全滅なんだぞ。過去に何人の魔法司書があそこで死んだと思っているんだ」
「ええ、だからこそ試してみる価値があると思ったんです」
フィオナが詳細を話すとみんなは顔色を変える。
「う、嘘だろ。そんなことがマジでできるのか!?」
「カサドラ嬢ができると言うなら、僕は信じてみたいけどね」
ガザフとハンスの意見のあと、みんなの視線はリーダーのレナードに向かう。
「危険だが、カサドラ嬢のこれまでの実績や能力を考えるとやれそうな気がするな。危なければ即撤収の条件つきなら許可しよう」
こうしてフィオナの提案は受け入れられて、昼食後に実行されることになる。




