07 アナベルを自由にするぜ!
「ブォン、ドッドッド……(うーん、異世界の月もキレイだぜ……)」
異世界に転生して初めての夜がやってきた。
オレはアナベルに抱えられた状態で山賊たちが暮らす洞窟の前に待機している。
どうやら山賊たちが寝ている間にゴブリンのようなモンスターが洞窟に来ないか見張るための夜番を、アナベルが1人でやらされているらしい。
「ブォンブォォン?(アナベルは寝たりしないのか?)」
「ぎゅいぎゅいは、夜でも元気。エネルギー無くなっちゃうよ?」
ダメだ、やっぱチェーンソーのエンジン音だけじゃ会話できねえわ。
モールス信号? みたいな感じで区切って音出せば伝わったりしねーかな。
「……わたし、前はお屋敷でメイドをしてた。でも、山賊にお屋敷が襲われて、ここに連れて来られた。お屋敷は多分、燃えちゃった」
「…………ブォン(そうか)」
「本当は、こんなところ居たくない。毎日こき使われて、雑に扱われる。でも、コレのせいで逃げられない」
そう言って、アナベルは首に装着しているチョーカーを指差した。
「コレは『駆動制御の枷』といって、わたしみたいな自律式駆動人形や、高性能な魔道具の能力を人がコントロールするために装着する」
アナベルの説明によると、彼女には自分で大気中からエネルギーをオートチャージして自由に行動できる機能が備わっているらしい。
しかし今は、その機能を制限して『魔石燃料』というアイテムを使用することでのみエネルギー回復が出来るようにされてしまっているのだとか。
要するに、充電機能を封印して電池交換のみで生きられるようにされちまってるってことか……ひどい話だぜ。
「魔石燃料の替えは、山賊たちが隠し持っている。それに、駆動制御の枷の効果でわたしは人に危害を加えることが出来ないようにされている。ここから逃げても、近くに人がいる場所はない。途中でエネルギーが切れて、おしまい」
「(なるほど、それでここから逃げられずに山賊たちの雑用係みたいにされてんのか……)」
駆動制御の枷を自分で壊そうとすることも禁止されているようで、アナベルは『あの山賊たちが寿命で死ぬまで、わたしはここから逃げられない……』と悲しそうな顔で夜空に浮かぶ月を見上げた。
「(アナベルの今の現状は流石に可哀想すぎるぜ……)」
ついさっきも、アナベルが勝手に貴重な魔石燃料をオレに分け与えたということで山賊たちに怒られていた。
でもオレはそのおかげでエネルギー切れにならずに済んだので、そのお礼も兼ねてどうにか彼女を助けてあげたい。
何か、アナベルを助ける良い方法は……そうだ。
「ドッドッドッド、ブォンブォンブォン!(アナベルに装着された駆動制御の枷を、オレがぶっ壊してやればいいんだ!)」
オレは、ゴブリンを討伐している時に必殺技がレベルアップしたのを思い出した。
「(キックバック、Lv2……)」
とにかく無造作に暴れ回ることでしか攻撃できなかった必殺技『キックバック』だが、Lv2になったことで多少のコントロールが出来るようになったのだ。
これを使えば、もしかしたら……!
「ブォン、ブォンブォン……ギュインギュインギュイン!!」
「……ぎゅいぎゅい? いきなりどうしたの?」
「ギュイイイイイイイイイイイン!!(キックバック発動だぜええええええっ!!)」
「ぎゅ、ぎゅいぎゅいっ……!?」
アナベルの腕から抜け出し、彼女の首元に鎖刃の狙いを定めて飛び跳ねる。
アナベルの困惑するような、悲しそうな表情がチェーンソーの画面越しに見えるが、今は必殺技のコントロールに集中する。
「ギュイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!(その枷をぶち壊せえええええええええええええっ!!)」
「……っ!!」
ドガガガガガガガガガッ!! バッカアアアアアアアアアアアアンッ……!!
…………。
「ぎゅいぎゅい、なにをして……あ、あれ?」
オレにいきなり攻撃されたと思ったアナベルが首元を手で押さえる。
すると、今までそこにあった金属の感触がなくなっており、彼女の足元には破壊された駆動制御の枷が落ちていた。
「……これ、ぎゅいぎゅいが壊してくれたの?」
「ギュインギュイン!(無事に成功して良かったぜ!)」
「……っ! ありがとう、ぎゅいぎゅい!」
こうして、ただの機械にしか見えないオレを助けてくれた心優しい少女人形は、山賊たちから解放されて自由になったのだった。
めでたしめでたし……と、その前に。
「ギュインギュイイイイイイン!!(あの山賊どもをぶっ殺して伐採ポイントを稼いでやるぜ!)」




