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シープルおばさまは名探偵〜秋のパン祭り殺人事件〜  作者: 地野千塩


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色ボケ編-8

 メゾン・ヤモメに帰ると栗子の様子がおかしかった。


 亜弓はすぐにその異変に気づいた。


 今日は残業したので、8時すぎにメゾン・ヤモメに到着したのだが、栗子はリビングで一人アイスを食べながらポーッとそていた。顔は赤らみ、目は死んだように虚ろ。


 何かあったのかと幸子や桃果にも聞いてみたがわからないという。ただ桃果は緑澤優馬という男がメゾン・ヤモメにやってきてから様子がおかしいと言っていた。


 亜弓も冷凍庫からイチゴ味のアイスを取り出して、再び栗子のいるリビングに戻る。


 まさか、優馬はお色気大作戦をしに来た?その可能性は大いにあった。


 そういえば今日子が準備していた企画の内容を思い出す。女教師が、万引き犯の男子生徒に絆される話のようだったが、これも色気大作戦に騙された女の話とも言える。


 今日子はこの企画を微妙に実話だと常盤に話していたらしい。今日子が優馬のお色気大作戦にハマっていた可能性は大いにある。もしかしたら優馬は何か犯罪行為などをして、お色気で今日子の口を封じていた可能性もある。たぶん万引きか、盗みだろうと思うが。


 そんな推理を披露したが、栗子は上の空だった。いつもだったら事件の話は食い気味で聞いてくるのに、ポーっとしている。いつものような快活さは全くなく、すっかり羊のような人の良い顔だ。


「ちょっと、栗子さんがお色気大作戦にハマっていてどうするんですか!」


 強い口調で言ってみたが、相変わらずだ。


「そんな女性に都合のいい男なんていませんよ。栗子さん自身が亡くなった旦那さんの話をしながらよく言っていたじゃないですか」

「うん、でも。コージーミステリだっておばあちゃん達が生き生きとロマンスやってるのよねぇ…」

「色ボケバアアですか? 老人同士ならともかく、若い人がおばさんに夢中になるなんて絶対にあり得ませんよ!」


 少々口は汚いが、これぐらい言わないと通じない気がした。アイスを食べてはいるが、あんまり甘味を感じない。


「だって私の事甘えたいって。紫の前髪も素敵ねって」

「あり得ません!」


 強く突っ込んでも栗子はポーっとしていた。こうして色仕掛けまでして、事件調査をしている栗子に止めるよう言っている優馬は、確実に事件に関わっていると見て良いだろう。


「目を覚まして! シープル!」


 亜弓は栗子の肩を掴んで揺さぶった。


 死んだ旦那が言っていたという栗子の蔑称のシープルと言うのは気が引けた。でも栗子の目を覚させなければ。優馬は事件に絶対に関わってる。物証はないがもう確定だ。おそらく犯人で間違いない。


「え、シープル?」


 栗子はビックリして目をパチパチとそていた。ほんの少し死んだ目が生き返ったように見えた。


「そうですよ。こんなお色気大作戦に騙されるなんて。死んだ旦那さんの気持ちがわかります。シープルです。何も考えていない従順でおバカな羊です!」


 ハッキリと言ってやった。これぐらい言っても良いだろう。全く人間の「性」と言うものは、どうしてこんなに弱いのだろうか。自分も不倫をしていたから人の事は言えないが、栗子の目を覚させなければ。こんな死んだ状態では事件調査どころか製作中にシンデレラストーリーだって破茶滅茶になりそうだ。それだけは編集者として阻止しなければならない。


「何ですって? 私がシープですって!?」


 ようやく栗子は目が覚めたようで、栗子は怒り始めた。それでも色ボケバアアでいるよりはマシだ。


「そんな事ないわ! 私はコージーミステリのヒロインよ!」


 その発想もだいぶ頭に変な花が咲いているが、色ボケバアアから目が覚めたようだ。


「こんなボーッとしている場合じゃない! 事件を調べなきゃ!」


 再び羊の皮が脱げ落ち、狼の顔を見せた。正直なところこの姿だって美しいわけではないが、亜弓はホッとした。



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