犯人逮捕大作戦編-1
目が覚めた栗子は、一人部屋に籠り、再び事件について調べると言っていた。また今日子の裏アカをチェックして何か手がかりがないかと探すのだと言う。
色ボケバアアから狼に戻ったと亜弓が安心したのも束の間だった。
亜弓が自室に戻ると、今日子の夫である光からメールが届いているのにきづいた。
こちらがお色気大作戦に引っかかるつもりは毛頭もないが、自分が引っ掛けるのは良いかもしれない。栗子でも簡単に引っかかるほど「性」は人間の弱い部分だ。
優馬が犯人の可能性も高いが、光も怪しい。メールで光は積極的に亜弓を誘っていた。
『暇な時いつ? またお弁当を作ってきて欲しいな。ピーマンに肉詰めがとてもおいしかった』
亜弓は渋い顔でメールを見ていた。どうやら光は亜弓が料理上手だと勘違いをしているらしい。
『ハンバーグやビーフシチュー、唐揚げや豚の角煮が食いたい』
リクエストしてきる料理は見事に肉料理ばかりだった。確か今日子はベジタリアンで、肉料理は作っていない筈なので肉が恋しいのか?
この家に来たばかりの頃、家の外で菓子パンを食べていた光の姿も思い出す。菓子パンの中には、卵や牛乳も使われている。ベジタリアンの中でも卵や乳製品を食べないタイプのビーガンを始めると今日子は裏アカに書いてあった。
「もしかして光は食に不満があった?」
亜弓は一人呟く。
その可能性は大いにあった。あんな安い糖質たっぷりの菓子パンを喜ぶのは、よっぽど普段に食事に不満がある証拠ではないか。そういえばお祭りで売られているチヂミに感動して泣いていた事も栗子から聞いている。チヂミはまずいわけではないが、涙をこぼしてまで感動するのは不自然だ。
不倫していた奥さんに不満をもち殺害すり可能性も大いにあるが、食に不満を持ち妻を殺した可能性だって高いのではないか?確かに毎日ビーガン食はけっこうキツいではないか。光には動機がある。
これはそのまま泳がすべきか、お色気大作戦に行くかわからなかった。亜弓はしばらく悩んだうち、光にメールを送った。
『ありがとう。是非、唐揚げ弁当をあなたに食べて欲しい! そして私も食べて!』
肉食女子でも気が引けるメールを送った。ただ栗子のあの状態を思うとそれなりにお色気大作戦は効果があるらしい。やっぱりこのまま何もしないのも気が引ける。こんな恥ずかしいメールを送るなんて。自分もやっぱり馬鹿なのだろうか。
するとすぐ光からメールの返事が返ってきた。
『OKです! 俺もあなたを食べたい!』
心底気持ち悪かった。あのスケベ親父の田辺すらこんなメールを送ってくる事がなかったのに。
メールの文面を見れば見るほど、鳥肌がたつ。
この男が犯人だとしても不自然ではないだろう。
光が犯人?
優馬が犯人?
どちらの可能性も高い。もしかしたら共謀している事もあり得るか?
不倫した男と不倫された夫が協力する事はある得るだろうか?
「あ!」
亜弓は何かがひらめき、本棚から栗子の書いた『パティシエ探偵花子!』を引っ張り出し読み始めた。
町で人気のケーキ職人のコージーミステリだ。町で一番の金持ちマダムが何者かにこ殺される。町の嫌われ者が最初は逮捕されるが、納得いかないケーキ職人であるヒロインが焼菓子を配りながら犯人達を探す。紆余曲折を経て犯人をヒロインが見つける。被害者の夫と、被害者の不倫相手が共謀していた。
そういえば優馬は『パティシエ探偵花子!』を読んでいた。もし亜弓の推測が当たっているとしたら?この本を読んだ優馬は気が気じゃなかったはずだ。道理で色仕掛けを栗子にやる筈だ。
そうなると栗子も危険だし、一緒に事件を調べている自分も危険な橋を渡っていると気づく。
怖いと思うが仕方ない。
自分は今まで不倫をしていた。変な女とはいえ、文花を傷つけた。神様に反く行為だった。それなりに報いを受けるのは仕方ないと亜弓は思っていた。
でも、犯人をこのままにしておくつもりもない。
警察に言う事も考えた。しかし工藤を逮捕しれいる現状は、犯人を油断させている。このまま泳がせておくのも良いかもしれない。お菓子探偵のヒロインもお泳がせて襲うところを捕まえていた。これ以上の証拠はない。
私は殺される?
いちかバチかであるが、失敗したら死ぬ行為でもある。
誰か第三者に自分の推理を伝えて置いても良いと思った。
口封じされてからは遅い。
適当な第三者が思い浮かばない。幸子や桃果にも迷惑をかけるわけにいかない。迷惑をかけても良い人物は?
「文花さんにメール送るか」
我ながら良い人選のようなきがした。
文花は今日子の裏アカを探し当てた時に事情を知っているし、彼女自身も殺人事件を2回も解決に導いている。夫の不倫以外では肝がすわり、神経の図太い女である。
さっそく亜弓は推理を文章にまとめ始めた。遺書でも書いているような気分だった。




