殺人事件編-3
それにしても栗子が怒った様子があんなにも怖かったのか、と。
亜弓はメゾン・ヤモメの二階の自室でため息をついた。おそらく仕事のストレスで息抜きするつもりだったお祭りが中止になって、彼女の堪忍袋の緒が切れたようだった。
夕ご飯は桃果が炊き込みご飯を作って、とてもおいしかったが、亜弓の心はどんよりとそていた。
夜になり、自室に引き下がる時、さらに栗子がけしかけるような事を言ってきた。容疑者達を調査してくれたら、雪也とのデートをセッティングそれあげるわよ、と。正直惹かれる取引だった。雪也とは何の進展も今のところないし、このままだと恋愛に発展しないだろう。雪也と再び会えるのは良いことだ。ぶっちゃけまた会いたいと亜弓は思う。性格は何ありだが、あの顔は一日中眺めていてもいい。
意外なことに幸子は栗子の提案にノリノリだった。大人しそうな淑やか美女に見えたが、中身は意外とゲスだった。お店で幸子と関係のあった客をあたってみる、実は心当たりもあるのだと鼻の穴を膨らませ、栗子に協力する宣言をしていた。
一方桃果はとても怖がっていた。一刻も早く事件を解決してくれるなら警察でも栗子でもどっちでも良いとのたまった。結局のところ、桃果も栗子に賛成していることになり。メゾン・ヤモメの中で、事件調査の否定的なのは亜弓だけになってしまった。
とはいえ、雪也とも会う約束も取り付けられそうだし、掃除やゴミ出し当番も栗子が全部やってくれるという。恋愛のきっかけを作ってくれたえり、わずらわしい雑用を引き受けてくれるのは魅力的な取引だ。生まれた時からずっと不況だった平成生まれの亜弓にとってコスパが良いことには計算がよく働いた。
それにこれで栗子がシンデレラストーリーに集中してくれば悪い事でもないだろう。どうせ警察の方が早く調査して事件も解決するだろう。
栗子は、まず仕事でトラブルがなかったか、今日子の担当編集者と接触できないかと聞いてきた。今日子は確か元同僚の常盤純という編集者が担当だった筈だ。同じ会社だし、フロアも近い。常盤にちょっと話を聞くだけだ。それで栗子の機嫌がよくなり、よく執筆してくれて、さらに雑用もやってくれて、雪也との会う約束をしてくれたら安いものだ。
亜弓は、さっそく常盤にメールを送った。明日の昼休み、会社の一階のロビで会う事になった。やはり担当作家が亡くなり、かなり動揺していたが、事情を話すと承諾してくれた。作家のわがままに振り回されている編集者の気持ちはよくわかるそうだ。あのトラブルメーカーの田辺の担当をしている常盤だ。実感がこもっている。




