3―3 異界との闘い その三
会議では今後の大まかなスケジュールについて打ち合わせが為された。
作業の計画は、大枠の案を官側で作成し、教授若しくはその代理人、陸自側代表の出席する調整会議で決定するようである。
因みに儂はその調整会議のメンバーにはなっていないのだが、随時参加は可能と云うことじゃ。
そうして特別待遇なのか、傍聴ではなく、調整会議での発言も許されておるらしい。
取り敢えず、第一回目の全体会議は、今後のスケジュール案を各チームが持ち帰って検討し、夕刻に開催される調整会議で翌日以降のスケジュールが決定されるようじゃ。
従って、今日のところは異界への侵入調査は無いようじゃな。
異界に居る鬼どもと連絡を取っても、特段の異常はないとの返答が返ってきておる。
鬼どもからは、随時、何事か変わったことがあれば、念話で儂に連絡をよこしておるから、儂のところでは、異界の様子については些細なことでも概ね把握できておるということじゃ。
この後、散会して後に各チームごとのミーティングが有り、その後で調整会議が有ったようじゃが、儂は出席せなんだ。
調整会議への学者サイドの出席者は、准教授が当たっているようで、教授達も暇そうにしておった。
その中で、儂の魔素の概要説明にいち早く反応していたのが、京都大学物性化学部の御手洗教授と慶応大学生物学部の高島教授の二人であり、それぞれが会議中にいくつかの質問を発していたな。
そうして二人の教授が儂のところに行くのを見て、周りにいた暇な教授達も近くに寄って耳をそばだてているようじゃ。
最初に御手洗教授が言った。
「至極単純な疑問なのだが、佐島君が魔素らしきものを感じ取られるというのは、君の特殊能力の一つなのかね?」
「ええ、そう受け取っていただいて結構です。」
この返事を聞いて、高島教授が言った。
「ということは、佐島君の体内に魔素を感知する機能を有しているということですかな?」
「ええ、飽くまで感覚的なものですが、感知はできますね。
但し、先ほどの説明でも申し上げた通り、定量的に言い表すことはできませんが、こちら側よりも異界側の方が魔素の濃度が高いということはわかります。」
再度、御手洗教授が尋ねた。
「具体的には、そんなものが存在するという証が有るのだろうか?」
「飽くまでラノベの世界での話に似ていますが、魔素が存在することにより、その魔素を変換して魔法のような能力を発揮できますね。
そうした力を発動した後で、周囲に有った魔素が消費されるようですので、恐らくは魔素が体内に蓄積されていて、その放出量に見合った魔素を徐々に身体が補充しているのではないかと推測しています。」
続けて、御手洗教授が言った。
「ふむ、・・・。
では密閉した空間に君を入れて、その中で魔素を消費するような能力を発動したなら、当該空間の魔素はいずれ無くなるということかな?」
「その可能性はありますが、密閉がどの程度のものでよいのかは、検証が必要ですね。
僕自身も試したことは無いのでわかりませんが、場合により、ニュートリノのように物体の壁を透過若しくは浸透するようなものであれば完全な密閉は難しいでしょう。」
御手洗教授が言う。
「ふむ、その魔素とやらを何とか計測したいと考えているのだが、何か良い方法は無いだろうか?」
ふむ、この手の疑問が出ることは予想して居ったが、さてどうするかじゃな。
儂の作った魔導具を一つの指標にすることは出来ようが、魔石を使っているのでそのまま提供するわけにはゆかぬじゃろう。
少し考え込んでから儂は言った。
「少し時間を頂けましょうか?
或いは、魔素の存在自体を検知する簡易的な計測機器ができるかもしれません。
但し、僕の学業もあるので、二月から三月程度の時間が必要かと存じます。」
「確かに・・・。
佐島君は、未だ高校一年生だったね。
それに高校卒業程度認定試験を近々受ける予定もあるようだから、余り無理は言えんようだが・・・・。
時間のある時で構わないから、出来るならば協力してもらえるとありがたい。」
「はい善処いたします。」
今度は、高島教授が言った。
「先ほど魔素が蓄積する場所が体内にあるような話をしていたのだが、その内臓か器官が身体のどこに存在しているのかはわかるだろうか?」
「感覚的なもので言えば、所謂、丹田と呼ばれる部位付近ですね、
場所的には、下丹田と、中丹田辺りになると思います。
もう一つの上丹田は、蓄積する部位ではなく、能力を発動する部位ではないかと思われます。」
「丹田とは古武術などで提唱されており、身体のバランスを司る機能であって、鍛錬することにより武術の技量に効果が有るとされているようだが、・・・。
それが特殊な能力の発動につながると?」
「さて、古武術で云うところの丹田の部位が、間違いなく蓄積場所かどうかは不明です。
僕が言えるのは、飽くまで、その近辺に有るとだけしか言えません。」
「ふむ、では、その部位を確かめるために、医学的な検査と実験につきあってもらいたいのだが差し支えないだろうか。」
無論、手術などは伴わないが、CTR検査や採血ぐらいはさせてもらうかもしれない。」
「ええ、その検査と実験が長期間に渡ると困りますが、可能な範囲で協力は致しますよ。
魔素の存在の確認と同時に、その存在がもたらす影響については僕も非常に心配しているところなんです。
特に、鬼達の覚醒とは別に、物の怪や妖と呼ばれる存在も姿を現したのは、或いは、魔素の所為かもしれないと思っています。
過去において、妖が存在した時代は、あるいはもっと魔素が多かったのかもしれません。
それが少なくなって、彼らは長期的な眠りについた。
若しくは、修験者のような存在に封印された可能性もありますが、魔素が増えたことでその封印が解けたとも考えられます。」
「ほう、その魔素の減少や封印等に関わっているとかもしれないとの推測は、何か具体的な根拠でもあるのかね?」
「この近辺では、汀宮洞窟とHUGO洞窟には、魔素と思しき古代の呪詛に似た痕跡が残っています。
昔は、魔素が多かった時代が有ったのやも知れませんね。
で、その近辺の庸市近くの山林で、白狼が出現していたのを確認しています。
白狼は、異界のモンスターではありませんが、恐らくは妖の類でしょう。
巨大化すれば、犀よりも大きな体躯を持つ狼になると思います。」
「古代にはそんなものが多数いたと?」
「いいえ、白狼曰く、仲間は居たけれど、白狼のように巨大化できる狼は居なかったそうですよ。」
「ン、というと・・・。
狼と意思疎通ができると云うのかね?」
「ええ、まぁ、僕の従者みたいなものですから、僕の言うことには従いますし、言葉は発しませんが、テレパシーのような方法で意思の確認はできますよ。」
「やれやれ、国が君のことを国家機密というわけだ・・・。
ところで、その妖を研究したいと言ったら、協力してもらえるのだろうか?」
「正直に申し上げて、白狼をモルモット代わりにすることには問題が多すぎます。
気に食わない相手であれば、巨大化して齧りつく恐れだってあります。
おそらく、白狼がちょっと力を入れてじゃれただけで、普通の人は重傷を負うか即死することになるでしょう。
元々、彼らにとって、人族とは天敵だったようですしね。
少なくとも彼の中では、その天敵認定が継続していますけれど、僕だけは例外なんです。
でも、僕が四六時中白狼についているわけにも行きませんので、あなた方学者さんや研究者の安全のためにも、ここはお断りしておきます。」
◇◇◇◇
第一日目は、特段の支障も無く終わった。
調査団の異界への侵入は、翌日の午前十時と確定し、取り敢えず現地のキャンプ設営地の確認と周辺環境の調査のみを午後二時まで行って、引き上げることにしたようだ。
異界への侵入時間はもちろん体感時間であって、こちら側での経過時間で言えば2分半ほどの時間になるじゃろう。
まぁ、その分、本来的には歳を食うわけになるんだが、本当に体の老化が進むかどうかは不明じゃ。
或いは、向こうの環境の中で老化が進行したり若しくは老化が遅くなったりする影響だって考えられる。
儂自身の感覚的には、老化が進んでいるようには思えん。
むしろ老化が遅くなっているやもしれないと感じているところだ。
この辺は寿命の短い生物を向こうに持って行って、観察すれば良く分かるだろう。
カゲロウは生が短いのはよく知られているが、成虫になるまで一年を要する。
但し、ハゼの一種で生まれてから死ぬまで三週間程度の魚が居るそうじゃから、こいつを持って行けば老化が進むかどうかは判明するじゃろうな。
さて、こんな話は、どの大学の教授になるんじゃろうかな?
やはり生物に関する事じゃから、高島教授になるのかな?
いずれにせよ、儂がこの異界の接続点近辺にとどまっている理由は無いので、日没を期して、『翌日の9時半までには戻る』と言い置いて、儂は我が家に戻ったよ。
その夜、儂は魔素の計測器について魔石を使用せずに現代科学の範疇で造り出せる方法が無いかどうかを試行錯誤した。
素材は、至る所にある機器の廃棄物や、プレスされる寸前の自動車じゃ。
電子機器の類の素材が撮り放題じゃ。
コンデンサーなんぞはパンクしておっても原理さえ分かっておれば復元は可能じゃからな。
足りない素材は錬金術で大地から抽出も可能じゃよ。
レアアースであるアンチモン、インジウム、ガリウム、ゲルマニウム、タングステン、ツリウム、テルビウム、テルル、ビスマス、モリブデン、ルテチウムなどを輸出規制しておる国もあるようじゃが、大地には結構いろんなものが含まれておる。
例えば、この日本では、ボーキサイトは産出されないが、アルミ元素自体は大地に結構含まれておるんじゃ。
但し、微量であるがために採取と云うか抽出と云うか、取り出すことが難しく、経費が嵩むことになるので誰も手を付けたがらないというだけじゃ。
それらが大量に含まれる土砂や岩石層を掘り出し、そこから抽出する方が容易いというだけの事じゃな。
儂が魔導具の代わりになる機器の素材として使う分には左程の量は要らない。
結局、異界の接続点が出現した際に造った魔導具と同様に、儂の魔力に反応する素材を見出し、その伸縮を計測することにより数値化することにしたわい。
簡易魔導具には魔石を動力源として、魔力に晒されると伸縮する性質を持つカルバハラスという前世の魔物の尾の繊維を使ったものじゃが、流石にカルハバラスはこの現世には居らぬので、狐の毛を使ってみたのじゃ。
特に、タマが魔力を使う際に、尾が微妙に伸び縮みして発光するのでのぉ。
九尾の狐じゃからそうなるのかもしれんが、念のためにキタキツネを捕獲して、その尾の毛を使ってみたら微妙に伸縮することが分かった。
目で見ても良くはわからぬが、歪ゲージならその差異が判別できそうじゃ。
但し、元々、歪ゲージは金属表面に貼るようなものであって、動物の毛の伸縮を測るようなものでは無いので、ちょっとした工夫が必要だったが何とか出来上がったのぉ。
二、三か月ではなくって一晩で測定装置らしきものが出来上がったわけじゃが、すぐには提供せず、少なくとも一月ぐらいは待たせることにする。
それに、これは魔力に反応する道具であって、必ずしも魔素に反応するものでは無い。
魔力の元になるので魔素と言うが、儂の体内では周囲に有る魔素を吸収した上で魔力に変換する生態器官が働いておるでのぉ。
その意味では、魔力に反応するからと言って、魔素に反応するとは限らんのじゃが、少なくとも、異界の接続点が発生してから作り上げた魔導具は僅かながらも反応しておったから今回の魔石を使わぬ道具でも大丈夫のような気がするのじゃ。
但し、魔素に対する反応感度が高い計測装置を作るには、今少しの工夫が必要かもしれぬな。
まぁ、明日の異界への侵入に際してもこの機器を持ちこんで、数値を確認してみるつもりじゃ。




