2―14 政府との交渉 その―
越智陸将と彼の宿舎で内密の話をしてから四日後に、越智陸将からメールが届いた。
第一に防衛省幹部との会合を三日後の8月16日に、そうして政府要人との会合をさらにその三日後の19日に予定しているが、来られるだろうかとの問い合わせだった。
ふむ、儂の名前と高校一年生と言う肩書から調査を進め、住所を確認した上でのアポイントの確認のようじゃな。
普通ならば、ある意味でご招待なのじゃから、飛行機や新幹線のチケットぐらい準備しても良かろうに・・・・。
儂が何らかの移動方法を持っていると推察しているとは思うが、政府と言うのは意外とケチなのじゃな。
確かに二日もあれば、通常の交通機関を使っても、北海道から新東京に出て行くのもさほど難しくはないじゃろう。
それに二日前の午後から儂の自宅周辺に、不審者の姿が垣間見えるようになったわい。
多いときは四人から六人ほども居るのだが、どうやら二人一組でバディを組んでいるようじゃな。
通常体制で、一人は車で待機、もう一人は車の近くで外回りをして周囲を探っているが、近隣の住人に質問して探りを入れるような露骨な真似はしていない。
恐らくは、儂の行動を把握するのが主任務なのじゃろう。
それにしても人数が多いな。
四時間の交代制で少なくとも三組、総勢で14名が動いているようじゃ。
試しに儂が九幌中心部までかおりと一緒に出かけたなら、張り込みの四人(2チーム×2)がくっついてきたな。
向こうは気づかれないように動いているつもりなのじゃろうが、儂にはバレバレじゃよ。
因みに、かおりからは、機会あるたびにデートしようとせっついてくるのじゃ。
余り放置しておくと後が喧しくなるので、偶には付き合ってやることにしておるり、今回はちょうど良い機会じゃった。
当然儂らは、地下鉄での移動じゃから、尾行者は取り敢えず二名なんじゃが、他の二名は車で移動するつもりのようじゃな。
まぁ、大人をあまり揶揄ってはいけないじゃろうから、適当なところでかおりとのデートはお茶を濁して家に戻ったのじゃ。
そうは言いながらも、午前10時過ぎから午後4時頃までのデートなので、かおりはそれなりに満足しておったようじゃな。
監視をしていたのは、恐らくは自衛隊に所属する者ではないかと思うのじゃが、高校生のデートなんぞに半日付き合ったわけじゃから、ご苦労さんの一言でもかけてやればよかったのかな?
因みにこのデート中も正午頃に尾行者チームの交代が有ったから、その次は午後四時なんじゃろうな。
恐らくは、儂らが自宅のある墨河に戻ってから次のチームと交代になったのではないかな?
まぁ、儂の監視チームの話はともかくとして、新東京までは空間転移で一瞬のうちに行けるから、上京するのに特段の問題はない。
その旨メールで返事すると、では新東京駅か空港に迎えを出すと言って来たな。
ふむ、VIP扱いなのかもしれないが、出迎えなんぞは要らぬな。
どうせ防衛省の中じゃろうから、具体的な場所と地図をくれたなら、そこへ時間までに行くと知らせたぞよ。
折り返し、越智陸将からは、新東京の防衛省の区画が分かるもの、同防衛省の内部の地図で体育館の位置を示す地図を送って来たわい。
時間は、いずれも午後二時を指定して来ており、防衛省幹部との面談も、政府要人との面談も防衛省内の同じ体育館じゃった。
今から儂が用意するものは特に無いのぉ。
服装をどうするかなんじゃが・・・。
高校生らしく学生服?
いやいや、年若ゆえに学生服じゃと余計にお偉いさんに舐められそうじゃな。
同じ制服でも、私立高校のようにネクタイとワイシャツにジャケットなら、それなりに見栄えもするのじゃろうが・・・。
詰襟の学生服と言うのは、如何にも生徒っぽくに見えるでのぉ。
仕方がないので、色物半袖のカッターシャツに、ジーパン、スポーツ・シューズのいで立ちで行くことにしたわい。
向こうは格式張って来るかもしれないが、特段衣装についての指定も無いしのぉ。
多少不良がかったラフな格好の方が良かろうて。
これで出席者が儂に対して不快感を持てば、それなりに強い印象が残るじゃろう。
問題は身形ではのうて、儂がする話の中身じゃ。
まぁ、ある程度の魔導は見せるつもりじゃよ。
鬼も見せてくれと言う要望が有ったので、ドンと宿儺の顔見世をするつもりじゃ。
どちらもでかいでのぉ
特に宿儺は両面に顔を持っているし、四本の手足を持っているから、その異形が目につくじゃろう。
別に見世物にするわけではないのじゃが、防衛省や政府のお偉方には、何と取引をしようとしているのかを知らしめるためには、よりインパクトを与えたほうが良いと思うのじゃ。
まぁ、言うだけ言って、向こうが乗らなければそれまでの話じゃな。
儂は鬼達と共に姿を消すとしよう。
幸次郎の家族を置いてゆくことになるし、何かと心配をかけるやも知れぬが、いずれは騒動に巻き込まれることは覚悟の上じゃったから、別れの日がすこし早くなっただけのことじゃ。
まぁ、どちらかと言うと、家族と言う身寄りの記憶が無い儂にとっては、家族のありがたさが何とは無しに感じさせられるものじゃったので、手放すには惜しいとは思うが、これも定めならば止むを得まい。
今後の儂の行く末を占い、また、この国の未来も巻き込む話じゃて、それだけの覚悟を持って臨む面談ではあるな。
◇◇◇◇
約束の日が来た。
2032年8月16日午後1時55分、儂は前日に下見をしておいた防衛省内の体育館に転移した。
体育館は木製フローリングで1500㎡ほどもあるし、天井高さは優に10mを超えている。
これなら鬼どもが出て来ても高さは大丈夫なんじゃが果たして重量は大丈夫かな?
下手をすると床を踏み抜くかもしれん。
事前に注意を与えてあったのじゃから、問われるとしたなら防衛省の責任じゃろうが、・・・。
ふむ、鬼どもを出す際には、ちと工夫をしてやろうかな
因みにその体育館に居たのは私服と制服が入り混じった者達であり、将官がメインで8名、それに左官クラスが三名に尉官クラスが二名だった。
無論、越智陸将も背広姿でその中にいる。
越智陸将は、腕時計を見て時間を気にしているようだった。
無理もないか。
儂が防衛省敷地の入り口に現れたのなら、検問所で入域の際のチェックを受けたという連絡が当然に入っているはずなのに、未だに報告が無ければやきもきするわいな。
儂が何故来ないのだろうと不安になり、この時間のセッティングを為した自分の責任を感じているのかもしれないな。
だが、その不安も一気に吹き飛んだじゃろう。
周囲の「オオッ!!」と言うどよめきに、越智陸将が周囲を見渡して、体育館の片隅に儂の姿を認めたからじゃ。
こっそりと出現しても良かったのじゃが、この時ばかりは、わざわざ儂の出現が目立つように虹のような七色の光を身にまとって出現したからのぅ。
なに、単なるデモンストレーションじゃよ。
居並ぶ者の心を掴むには、派手な演出の方が良いのじゃ。
これは前世から続く魔導師としての悪い癖なんじゃよ。
周囲に居る者に対して、自分の力を見せつけ、ある意味で威嚇するわけじゃ。
その作戦が成功するかどうかはわからぬがな。
何せ、現世でこのような出現方法を取るのは初めてだからのぅ。
まぁ、越智陸将がパッと目を見開き、嬉しそうな顔になって近づいて来たのを見て、術の見せ甲斐があったというものじゃ。
陸将が急ぎ足で間近に来て、挨拶を交わす。
五十路の大人と未成年の挨拶じゃが、互いに敬語を使いあって挨拶を交わす。
それだけで、越智陸将との仲が有る程度は類推できるじゃろうて。
まぁ、仲と言うても、わずかに数時間話しただけの間柄じゃが、少なくとも越智陸将は儂の意向は承知しておるし、儂も越智陸将にできないことが有るということも承知しておる。
最初の関門は、今日ここにいる防衛省幹部連中に儂の考えを披歴し、できる範囲でこちらの意向に沿って動いてもらうよう頼むだけの話じゃ。
その際に、こちらの力量を知りたいと言うならば、それなりに披露もしようが、過度に見せつけては後々依頼心が出て来るから、ある程度は控えねばなるまいな。
なお、儂の正体が異世界の魔導師の転生であるというのは今後とも誰にも話さぬつもりじゃよ。
いたずらに混乱を引き起こしても詰まらぬからな。
少なくとも、そういった方面の学者にモルモットにされることだけは、絶対に回避せねばならぬ。
越智陸将の案内で武道上の一角に置かれた比較的大きなテーブルに向かった。
どうやら、そこで会議をするような形で面談をするようじゃ。
儂の方は、別にどこでも構わないのじゃが、ちゃんと学校の授業で使うようなホワイトボードが用意されており、移動式の100インチサイズのモニターも設置してあった。
傍にパソコンがあり、必要に応じてパソコンで画像をモニターに映し出すようにしておるのじゃろうな。
これがこちらの世界の科学の力じゃな。
異世界での動画の映写ぐらいであれば、儂の魔導で立体画像も再現できるんじゃが、そこまですると魔導による幻影を疑われそうなので止めておく。
魔導を披露するならば、単純な魔導の方が良いのだ。
儂が席に座ると、他の者達も順次席に着いた。
体育館の一角なので上等な椅子ではのうて、所謂、折り畳み椅子なんじゃが、これで十分。
ここに長くいる予定はない。
テーブル上には書類が少しとペットボトルの茶が置いてあった。
越智陸将が司会進行役を務め、自己紹介が終わると会談が始まった。
最初は防衛省側からの質問じゃ。
質問の様子をみると越智陸将に話したことが情報としてすでに周知されているようじゃな。
最初に出た質問が「複数の鬼をどこで見つけたのか?」ということじゃった。
この質問については、北海道におけるドンとの出会い、それに道東方面に居るというドンの仲間の鬼を捜索したことを話した。
また、ドン達と同様に日本の各地に隠棲し或いは半冬眠していたであろう鬼が今回の異界の出現その他の理由により、万が一、覚醒したのならば飢えて人若しくは家畜を襲う恐れもあったので保護することを目的に鬼を探す旅に出たことを掻い摘んで話した。




