2―12 交渉 その二
チョット間をおいてから、越智陸将が儂に尋ねて来た。
「その鬼とやらは、一体何匹いるのかね?」
「僕の知っている限りでは、鬼は9体、但し、それ以外の古の日本に居た妖が4体ほどいますね。」
「ん?妖?
その四体の妖というのは?」
「えーっと、信じられるかどうかは別として、狐、狼、土蜘蛛ですね。
それに竜神の化身も・・・。」
「狐に狼って、それは、普通の動物では無いのか?
それに土蜘蛛ってのはよくわからんし、竜神の化身に至っては意味が全く分からん。」
「狐は、「玉藻の前」って伝説に出て来る妖なんですが、知っておられますか?
平安時代末期に、鳥羽上皇の寵姫であったとされる伝説上の人に化けた妖で、妖狐の化身とされています。
妖狐の正体がバレて、一応討伐されたんですけれど、後に蘇って来た妖ですね。
別名で九尾の狐って言われてました。
それから狼というのは、龍と同じように神獣なのかも知れませんが、巨大化すると象よりもでかくなりますから、先ほど映像にあった恐竜なんぞは、一撃で倒して餌にしてますね。
ですから普通の狼ではあり得ません。
土蜘蛛は、何と言うか・・・、ラノベに出て来るアラクネのような妖です。
蜘蛛の足を持つ土台に人間の上半身が乗っかっている?
そんな不思議生物ですね。
こいつもその昔に討伐されたけれど、数年後に復活したみたいですよ。」
「じゃぁ、竜神の化身と言うのは?」
「正直なところよくわかりません。
秋田県に隠棲していたようですけれど、僕が偶々通りかかったら、僕の前に出て来たんですが、外見上は20歳そこそこの現代美女ですね。
でも、僕の見立てでは鬼ども全部を集めても、彼女の方がきっと強いと思いますよ。」
「よくわからんが、そんな強者を集めて一体何をしようと云うのかね?」
「いえね、放置すれば鬼と人間の間で、殺し合いが始まりますよ。
先ほど映像に出ていた鬼は、空腹状態でしたので、重量で8トンほどもある草食恐竜を丸ごと一匹平らげていました。
この量が、彼の一日の食事量なんですが、こんなのが9匹も居たら、どうやって餌を確保したらよいと思います?
このうち二体は、北海道の山中に居ましたけれど、本格的に餌を漁りだしたなら、一月も経たずに北海道から大型の野生動物がいなくなるかも知れません。
そうなっては、鬼の存在が人間社会に知れ渡るのも時間の問題です。
で、予め申し上げておきますが、彼らは伝説上の生き物であり、人間ではありません。
仮に自衛隊の対物ライフルで撃ってもすぐには死なないでしょうし、数日で復活する可能性もあります。
実は、肉食恐竜との戦いで若干の怪我を負いましたけれど、一日も経たないうちに全快していました。
彼らは、それなりに賢い生物ですが、死に瀕したら、人間を襲うことも気にしないと思いますよ。
何せ彼らを押し留めていたのは、1300年も前に彼らの主であった役小角がそのように教育したからですが、その代わりにオヅヌは、配下の大食漢の鬼達に小食となるような方術をかけていたようです。
でも、空間震の影響で隠棲やら半冬眠状態から目覚めた際には、その術が解けていたそうです。
今のところ、腹を減らした鬼どもが、人を襲わないように、一応、僕が保護しているわけですけれど、彼らの餌場として異界の地を使用することを許可してくれませんかねぇ?
同時に、自衛隊員が鬼達をモンスターと間違えないように明確な指示もお願いしたいのです。
そうしていただければ、異界からモンスターが漏れ出す危険性を、鬼達が防ぐように動くこともできます。」
「その、なんだ・・・。
突然、我が家に現れた15歳の少年が、如何にも荒唐無稽な話をしたわけだが、大人の世界は、そんなに簡単に物事が進むわけでは無いんだよ。
そりゃぁ、今見た映像が本物だとすれば、君が何某かの能力を持っていることはわかる。
だが、そうした特殊な能力を持った者が居るとすれば、政府は君のことを放置はできないぞ。
厳重な警備を破って、異界への入り口にあたる接続点を通過した人物が居るともなれば、犯罪予備軍とも捉えられるのだよ。
警察等に手配を掛けられても良いのかね?」
「いいえ、それが嫌ですから敢えて、異界調査のトップであるあなたにご相談に来たわけです。
もし、警察なり政府機関が僕を捕獲するために動く様ならば、僕は姿を消しますし、今後二度と日本政府への協力はしません。
そうなるようであれば、仕方がないので鬼達と一緒に海外へでも逃げますよ。
そうそう、越智陸将さんはご存知ですよね?
異界の接続点は、こちらの世界と向こうの世界の通路ですからね。
自衛隊が調査に行けたように人間が向こうへ出向くこともできますが、同時に向こうの世界の生物もこちらの世界に入り込むことができます。
そうして向こうにはよくわからない古代の恐竜のような異生物が無数にいます。
この地球には80億を超える人間が住んでいますけれど、向こうの世界にもモンスターが無数に棲息しています。
ラノベで良くあるストーリーでは、魔物の氾濫が起きて無数の魔物が人間の都市を襲うんですよ。
僕も多少異界を調べたぐらいで正確なことは不明ですが、向こうの惑星の半径は地球の1.4倍ほどありそうでなんす。
重力は余り変わらないんですけれどね。
地球は表面の約7割が海なんですけれど、異界の地はどうも陸地が多そうなんです。
仮に、同じ地表面の3割前後を陸地が覆っているとしても、全体では地球よりも倍ほども陸地が広いことになるんですよね。
さて、そこに棲んでいるモンスターの総数はいかほどになると思われますか?
地球と同じ数だけ居るとしたら80億の巨大な恐竜が居るわけですけれど・・・。
野津幌の惨劇では、拳銃や自動小銃では間に合わず、たった一匹の肉食恐竜を殺すのに、複数のFGM-148ジャベリンと、攻撃ヘリのAGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルを使って何とか仕留めたようですが、仮にあの程度の恐竜が順次数百匹もこちら側へ餌を探しに来たら、自衛隊としてはどう防ぎますか?
ジャベリンやヘルファイアは、十分に余裕がありますか?
ことは野津幌だけにとどまらず、15カ所全部でモンスターが溢れ出すことも念頭に入れておく必要があります。
因みに密度的にはアフリカの草原に居るライオンよりも、恐竜の方が多いように感じますね。
かなり少なく見積もっても、20億程度の恐竜は、向こうの世界に居るんじゃないでしょうか。
脅すようで申し訳ないのですが、草食恐竜だって象よりもはるかに巨大な体躯を持っています。
地球の象も肉食ではありませんが、一旦、暴れだしたなら手が付けられません。
ケラトプスのように硬い皮膚の鎧で全身を覆っている巨大な草食恐竜ならば、対物ライフルでも討伐が怪しいかもしれませんね。
そんなのが肉食恐竜と相まって、最寄りの都市になだれ込んできたら、どう防ぎます?
因みに、僕の話を聞いてくれず、むしろ僕を捕獲するように動く政府であれば、日本が窮地に陥ったとしても、僕らが助ける必要はありませんよね。
僕の提案は、鬼達の保護と同時に、鬼達による異界の門の守護です。
そのためにはどうしても、政府若しくは政府を代表する機関の協力が必要なんです。
最初に申し上げておきますが、これは交換条件なんかじゃありませんよ。
そちらが拒否するなら、鬼達には勝手に異界で暴れてもらうだけです。
その際、日本に存在する15カ所の異界の門からは遠く離れた場所で活動させます。」
「他所の地で?
外国政府と揉めることになるとは思わないのかね?」
「さて、どうなんでしょう。
鬼達が外国の兵士と出会っても、向こうは日本のおとぎ話なんぞは知らないでしょうから、単なる異形のモンスターだろうと思うだけになるんじゃないですか?
勿論、向こうがモンスターとみて攻撃して来るなら、正当防衛で反撃も可能ですよね。
オヅヌが指導していたのは、この地に住む住民との軋轢をできるだけ避ける様にと言うことらしいので、外つ国の住民のことまでは配慮していないと思いますよ。
当然のことながら、僕自身は、彼らに正当防衛まで禁止するつもりはありません。」
「ふむ、・・・・。
君の意図するところは、つまりは鬼どもを率いる隊長として自衛隊と同盟関係を結びたいということなのかな?」
「ええ、ある意味では同盟なのでしょうね。
僕も、本来は、鬼達とは無縁なんですけれど、人間と鬼の間で摩擦を起こして欲しくないんですよ。
でも、何らかの形で人と鬼が接触して、それを放置すれば、絶対に鬼の姿を畏怖している人間の方からちょっかいをかけることになるでしょうね。
鬼達も多少は我慢しますが、一旦切れて怒りが抑えられなくなれば、多分歯止めが効きません。
そもそも、鬼と言うのは、人間社会では災いの象徴なんです。
古来、鬼の伝説で人間にとって良い鬼と言うのは、限りなく少ないんです。
大抵の伝説では、鬼が人間を襲い、それを憂いた帝や高位の者が、追討の命を下し、勇士達に退治されるか追い出されるというお話です。
鬼達は、恐らく再生能力が有る特異生物です。
だから伝承上では退治されている筈の鬼が実際に現存しているんです。
玉藻の前、塵輪鬼それに土蜘蛛は、伝承上では間違いなく討伐されたはずですが、本人たちの話では後に復活したそうですよ。
ですから、仮に、自衛隊が鬼と敵対した場合、鬼が退治されても何度も蘇って来て、自衛隊に復讐するかもしれません。
越智陸将は、先ほど僕を「鬼どもを率いる隊長」と呼びましたけれど、僕は隊長ではないですね。
どちらかと言うと代理人、若しくは代弁者、或いは擁護者なのかもしれません。
彼らの多くは、遥か昔にオヅヌという先達の方術師と死に別れて、行き処を失った孤児のような存在ですから。
尤も、孤児と言うと弱い立場の人間になりますが、彼らの場合、自衛隊の連隊を相手に引けを取らない力を持っていますからね。
戦車連隊でも彼らに勝てるとは断言できないと思いますよ。」




