2ー7 鬼とともに
「なれば、コウよ。
コウが、もしオヅヌと同じような力を持っているなれば、儂らを保護してはくれぬか?
斯様に途中で隠形術の眠りを中断されてしまうと、おそらく数年はこの世に留まらねばならぬ。
儂らが人の居る場所に出向けば、間違いなく騒ぎが起きよう。
しかしながら、儂らとて命ながら得るためには、食い物が居る。
山の生き物を食い物としても良いが、おそらく儂の腹具合から言えば、山の獣が根こそぎいなくなり、早晩移動せねばならぬじゃろう。
蝦夷と言われた地域でも、この北方の島はかなり大きな島であったように思うが、1年も過ごせば間違いなく食い物が無くなろうからな。
そうなれば、人家を襲うことにもなりかねぬ。
オヅヌは我らにヒトを襲うなと戒めを為す代わりに、我らが生きて行けるように、術により小食にするとともに、必要な量の食糧を分けてくれた。
今は、その術も消え、食料を分け与えてくれる者もおらぬ。
コウが我が主となって面倒を見てくれるなれば、コウが命ずることは何でも聞く。
そうして懸念するは、同族が同じように目覚めて途方に暮れているかもしれぬということじゃ。
放置すればやがて人を襲うぞ。
何とか出来ぬか?」
「ふむ、困ったのぉ。
この世界では未成年の子供と見られている儂に、おぬしの面倒をみるような甲斐性は、今のところないぞ。
但し、ドンに力があるならば食糧を得る方法はあるやもしれんな。
場所は、この世ではなく異界じゃ。
そこにはドンよりも大きな生き物がいる。
ドンがその生き物を食えるかどうかはわからぬが、食えるのであればそこで生きることができるやもしれない。
問題は、こちらの軍隊がその異界へ調査に行くことかな。
異界に居ればいずれ鉢合わせするやもしれぬ。
その辺のすり合わせができればよいのじゃがな。
ところで、ドンの同族はどこに幾人居るのじゃ?」
「オヅヌの手下になっていた者で言えば、7体かな?
そのうち四体は大和の国界隈に眠っていたはずじゃ。
二体は陸奥の国、今一体は蝦夷、ここよりも東の山地にいるはずじゃ。
それから、もしやすると封印されていた妖怪どもが蠢きだすやもしれぬな。
大地の流れが変わると封印が解けるものもあるでな。
儂はオヅヌからそのように聞いておる。」
おいおい、異界のゲートからのモンスターの侵攻も危険じゃが、ドンと同じく鬼と呼ばれた種族が腹を減らして暴れまわったり、封印したはずの妖怪のタガが外れる?
そいつはちと困るぞ。
やっぱり、何とか、大人たちを巻き込まねばならないな。
こういうのはどこが担当だ?
まぁ、古代なればともかく、現代に鬼とか妖怪を担当する部署があるわけもないが、国民を守るなら警察か自衛隊じゃろうな。
だが、警察の武力は当てにならぬじゃろう。
例のティラノザウルス擬きが現れた際には、警察の力は全くアテにはできなかったからのぉ。
仮に儂が交渉のターゲットにするのであれば、自衛隊の幹部じゃろうな。
担当機関から総理大臣等の政府の要人に上がるかどうかは別の話じゃが、儂が前面に立たざるを得ない場合は、いずれ儂の力も見せざるを得ないじゃろうな。
当てにされ、こき使われるのはまっぴら御免じゃが、人として、この世に在る者、特に家族や儂の知り合いを生き残らせるためには、最低限の助力はせねばなるまいて。
儂は、ドンにオヅヌがかけたという小食の術を詳細に聞いてみた。
方術なるものは、どうやら魔法陣の代わりに方陣を描く様じゃな。
たまさかドンがその方陣を覚えておったので、それを儂の知っている魔法陣に置き換えたところ、小食の魔法陣が出来上がった。
ドンに聞くとオヅヌの術とは異なるものの、同様の効果が有って空腹感が減少したようじゃ。
いずれにせよ、このままドンを放置も出来ぬから、最寄りに居た動物を捕獲し、それを餌として与え、同時に儂の魔導で新たに生き物を入れる亜空間の部屋を造ってみた。
生憎とインベントリは、生きものを容れられぬのじゃ。
但し、この亜空間の部屋はあまり大きなものを造れはせぬ。
亜空間の維持に相応の魔力を必要とするで、部屋の大きさにもよるが長時間の維持は儂が疲れることになる。
従って、常時ドンを入れておくのではなく、ドンをどこかへ運ぶ際に目立たぬよう隠す部屋として作ったのじゃ。
仮にドンと同じ大きさの人が居るとすれば精々四畳半以下程度の広さと感じる大きさになろうな。
それでもこの部屋は、高さが4m半、長さと奥行きが5m超はあるのじゃぞ。
何せドンのガタイは大きい。
身長が儂の倍ほどもあれば、天井の高い八畳間とてドンには狭く感じるじゃろうて。
一旦、餌とともに亜空間の部屋に入ってもらい、取り敢えず、例の地脈が有ると思われる天狗山山頂の南斜面にドンを連れて移動した。
ドンが違和感を感じるというのが、あるいは地脈の変動かもしれぬと考えたからじゃ。
現地に着いて、すぐにドンが言った。
「なんじゃ、ここは・・・。
斯様なところに龍脈が流れておるのか?
しかもこの龍脈、浅すぎるわい。
余りに近すぎるとその場所に気づかぬこともあるとオヅヌが言っていたが、まさにその通りじゃな。」
「ふむ、この地の流れを龍脈と呼ぶのじゃな。
で、この龍脈の流れがそなたの違和感の正体か?」
「ふむ、それもあるかもしれぬが、儂が感じた違和感はもっと東の方角じゃな。
ただ、龍脈がこれほど地表近くにあるとなれば、ちょっとしたことで龍脈の放出があるやも知れぬ。」
「なんじゃ、その龍脈の放出と言うのは?」
「儂も詳しくは知らぬのじゃが、オヅヌがかつて言っておったことがあるのじゃ。
龍脈の放出があると天変地異が起こりやすくなるとな。
元々、この地は龍の国じゃ。
その龍とはこの龍脈を表しておるのじゃが、龍が引き起こす天変地異となれば、古来、風、雷、水の禍じゃと言われておる。
「龍脈の放出が有れば、そのような災害が起きると言うことか?
じゃが、この国は毎年夏から秋にかけては風水害によく遭うているぞ。」
「おう、コウが言うのは野分のことじゃろう?
龍脈の放出によって起きる災いは、その数十倍の破壊力を有すると聞いておる。
例えば雷であれば、万の雷が地上を襲うでな。
地にでも潜らねば人は生きられぬぞ。」
とんでもない話じゃ。
「なんじゃ、それは?
龍脈の放出を止める方法は無いのか?」
「ふむ、あるやもしれぬが儂は知らぬ。
仮に知っておるとすれば、前鬼、後鬼が知っておるやもしれぬ。
彼奴らは長くオヅヌに仕えていたからのぉ。
或いはそのことについて見聞きしたかもしれぬが・・・。
余り宛てにはするな。
所詮、儂らはオヅヌの使い走りじゃ。
方術が左程使えるわけでは無い。」
さてさて、これは難度が高いのぉ。
異界の問題、龍脈の問題、それにドンの仲間たちと妖怪の問題がある。
放置すればいずれも大騒ぎになるは必定じゃが、儂一人では絶対に手が足らぬぞ。
そうは言いながらも動かねばならぬな。
さて一番は、取り敢えず異界は後回しで、ドンの仲間達を探すことから始めようか。
いずれもオヅヌがかけたという小食の術が切れたとなれば、いずれ人間社会とぶつかってしまう。
自衛隊や警察で何とかできるものあれば良いが、古来から伝承にある鬼であれば陰陽師でなければ退治が難しいかもしれぬ。
まぁ、鬼退治で有名な武人が居ればともかく、ドンが言うには彼らの身体は再生能力が凄まじいらしい。
特に龍脈の近くに居れば、その再生力も増すらしい。
鬼にとって龍脈は魔素のようなものなのじゃろうな。
魔素が濃ければ魔導師は魔導術を発動しやすい。
薄ければ魔素を吸収して溜まるのを待たねばならぬがな。
仮に自衛隊がドンたちを退治するとなれば、おそらく龍脈から彼らを引き離せねば無理じゃろう。
少なくとも龍脈の近場では再生力が大きすぎるため、機関銃でどうにかなるような身体ではなさそうじゃ。
何しろドンの話では、腕をすっぱり切断されようと、ドンの隠れ家で半日もあれば再生するそうだ。
因みにドンの隠れ家は、龍脈から1キロほども離れた山中にある。
この龍脈が地表に近い天狗山南西斜面のこの場所ならば、まずどんな深手を負っても死ぬことは無いじゃろうとまで言って居った。
それこそ異界から出て来るやもしれぬティラノザウルスよりも危険じゃろう。
騒ぎを未然に防ぐために、先ずは、ドンの仲間達を何とか保護せねばならぬ。
できれば、儂の使い魔として動いてもらうのが一番じゃろうな。
上手くすれば、異界の脅威に対する歯止めになるやもしれぬ。
取り敢えずはこの日ノ本の国を何とかする。
その上で外国のこともできるならば検討はしよう。
それはさておき、取り敢えずドンを連れて大屋野原演習場の特異点に行くことにした。
ここを選んだのは、異界の山岳部頂上付近とつながっており、自衛隊による調査が難航している場所だからである。
ドンが、もし異界のモンスターを食べることができれば、異界が餌場にもなろう。
大屋野原演習場の特異点であるドーム周辺には、自衛隊や警察が警戒のために常駐しているが、今のところ、内部の詳細調査は準備段階で後回しになっているのじゃ。
儂ならば、ドンを亜空間に入れたまま、身を隠したまま異界へ侵入できる。
大屋野原演習場の特異点でどんなモンスターがいるかは定かでは無いから、それも併せて調査することになるな。
そうしてドンの力量を確認することも必要じゃ。
異界のモンスターを打ち負かせればよし、少なくともドンの餌となる小型モンスターが居ることが最低条件じゃが、討伐も出来ず、餌にもできんとあれば、ドンはただの厄介者に過ぎぬから、場合により人目に付かぬ場所で眠っていてもらうしかないかもしれぬな。
大屋野原演習場の特異点のある異界は、山岳部頂上で、最低限の観測装置を設置して、自動監視としているみたいじゃな。
時折自衛隊員のチームが入って、データを現界へ持ち出すことが仕事のようじゃ。
一応簡易なレーダー装置も設置してあるようじゃが、儂の身体はレーダーには映らぬし、身体も光学迷彩で見えぬから監視カメラにも映らない。
一旦、山岳部頂上の上空に出現してから、遠方に見える平原地帯へと転移した。
因みにここも野津幌と同様に半周が異界に向かって広がっており、半周がドームの壁になっておるな。
取り敢えず、大屋野原演習場の特異点の中に無事忍び込んだ儂じゃが、ドンを亜空間から出して、異界の草原地帯に降りたった。




