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転生大賢者の現代生活  作者: サクラ近衛将監
第二章 異変

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2―6 違和感の正体

 仲間山峠付近のドーム近辺に監視ゴーレムを設置したわけじゃが、その際に違和感を感じ取った儂は、念のため、違和感の調査を行うことにした。

 何と言うか第六感のようなものでな。


 異界のゲートと思われるドーム出現の際は、それこそ比較的簡単に方角と距離の双方が有る程度割り出せたのじゃが・・・・。

 此度はドーム出現とは少々違うのじゃ。


 感覚的に、違和感の(かも)し出す存在の方向が何となく分かるだけじゃ。

 流石に距離までは明確にはわからぬが、近いのか、それとも、遠いのかぐらいは何とか判断がつく。


 儂の転移術の前では比較的近い距離と言えるが、魔法を使えぬ者にとってはかなり遠方になるじゃろうのぉ。

 まぁ、儂の堪に従って、違和感を感ずる方向へと移動することにした。


 例によって、認識疎外と光学迷彩を展開しながら、空中に浮かび、慎重に短距離転移を繰り返して行く。

 そのうち眼下に一度訪れたことのある場所が見え始めた。


 帆樽の南にある天狗山山頂近くじゃ。

 そうしてようやく違和感の正体と思しきものを見つけるに至った。


 何と言うか、見た目には前世のオーガに似ておるな。

 ふむ、あるいは人型魔物がドームから出現したかとも思うたが、どうも違うようじゃ。


 前世の人型の魔物は、衣類なんぞまとってはおらぬ筈なのじゃが、今、儂の眼下に居るのは衣装らしきものをまとっておるのじゃ。

 面妖なことよ。


 オーガでもロードやキングともなれば人並みの思考を力を有しておるから、場合により衣装や武具をまとって居る場合もある。

 じゃが、和服にも似た衣装を身につけているものはおらなんだ筈じゃ。


 しかもオーガなれば青黒い地肌のものが多いが、眼下に見えるのは、赤色の地肌じゃな。

 真っ赤と言うわけでは無いが、儂らに比べると一日で日焼けした肌のように赤っぽい色なのだ。


 オーガには二本乃至三本の角が頭部にあるが、眼下に見えるオーガは一本角のようじゃ。

 これはオーガの変異種なのか?


 儂がそう思っていると、なんとそのオーガが儂を見上げて問いかけて来たのじゃ。

 人には察知されず、なおかつ見えぬはずの儂を見上げて確かに言った。


「そこなお人。

 ぬしはオヅヌか、若しくはその子孫なのか?」


 外国語ではなく、時代劇がかった日本語でそう尋ねて来たのじゃ。


「済まぬが、そのオヅヌとは何者じゃ?」


「ほう、オヅヌを知らぬか。

 儂も暫し眠りについておった故、今がいつかも知らぬが・・・。

 今の御世は何時なのか教えてはくれまいか?」


 これまた困ったことを問われたものじゃ。

 このオーガじみたものが、冬眠かどうかは不明じゃが、かなり昔から(よみがえ)ったのかもしれぬ。


 儂の方からも尋ねてみた。


「何と答えてよいかわからぬが・・・。

 おぬしの居た時代は、誰の御代であったのじゃ?」


「おう、儂がオヅヌと出遭うたは、確か天智天皇の御代であったように思う。

 そうして文武天皇の御代にオヅヌが帰らぬ人となり、儂も姿を隠した。

 で、今はいつなのかわかるかのぉ。」


 歴史の本で読んだ限りでは、文武天応は西暦で言えば700年ころの天皇じゃ。

 794年に平城京が出来ておるから、それよりも百年程前、つまりは飛鳥時代のことと言うことになる。


 では『オヅヌ』とは、もしや役行者(えんのぎょうじゃ)なのか?

 何ともとんでもないものが出て来たわい。


 しかも、この者、儂の認識疎外と光学迷彩を無効化して儂を見ておるので、あるいは魔導が使えるのか?

 はて、魔導を使えるなれば儂にもその気配が(つか)めるはずなのじゃが・・・・。


 違和感はこの者から発していると確定しても、一向に魔導師としての能力が感知できぬのはおかしい。

 おまけに一千三百年ほども眠って(当人の言では隠れて)いた?


 そのようなことが有り得るのか?

 まるで、SF小説のタイムトラベラーのようではないか?


 まぁ、見栄えは凶悪そのものじゃが、取り敢えず無暗に人を襲うような気配は見えないので、質問には答えてやろうと思う。


「おぬしの言い分が間違いなければ、文武天皇の御代から千三百年程経っておる。

 ところで、何故、儂を見てオヅヌと言う名が出たのじゃ?

 また、おぬしは、ここがどこかは知っておるのか?」


「おう、ぬしの姿を隠す術、それに空を飛ぶ術がオヅヌを思い起こさせたで、オヅヌの生まれ変わりか、その縁者かと思うただけじゃ。

 そうしてここは、文武天皇の御代では、朝廷の支配が及ばぬ蝦夷(えみし)と呼ばれていたはずじゃが、違うかのぉ。」


「いや、間違ってはおらぬな。

 文武天皇の御代当時は確かに蝦夷と呼ばれ、朝廷の支配が及ばぬ地であった筈。

 じゃが、随分と前から日ノ本と言う国がこの地も支配し、大勢の人がここに住むようになっておる。

 おぬしの立っている位置から北の方角に見える町が、人の住む街じゃ。

 この街だけで、文武天皇の都よりも人が多い筈じゃし、この大きな島だけでその五十倍の人が住んでおる。」


「ほう、左程に人が群れておるのか・・・・。

 して、ぬしはオヅヌのように方術を使えるようじゃが、この時代、人はみなぬしとおなじように方術を使えるのか?」


「ふむ、おぬしの言うのオヅヌが役行者と呼ばれる役小角(えんのおづぬ)のことなれば、彼の者(かのもの)のような術を使える者は居ないはずじゃ。

 儂は例外でな。

 人の使えぬ術が色々と使える。」


「オヅヌとは役行者で間違いはない。

 そうかオヅヌのような術者は居ないのか。

 してぬしはその係累でもないと?」


「儂の先祖も数代はさかのぼれるようじゃが、少なくとも役行者につながる係累とは伝承にも無い。

 じゃから、違うと思うぞ。

 儂がオヅヌと同じような術を使えるとしたなら、全くの変わり者ゆえの事じゃ。」


「そうか、変わり者か・・・。

 ところで儂が隠れたは、儂の姿形では人に恐れられ、大勢が寄ってたかって殺そうとする故なんじゃが、今でも、儂が姿を表せば人は儂を襲うかのぉ。」


「正直に申せば、そなたは日ノ本に住む住民から見えれば、奇怪な姿をした生き物と捉えられ、あるいは妖怪と見做(みな)されるやもしれぬ。

 人は見た目で判断するからのぉ。

 危険な生き物と見做されれば捕獲もしくは討伐の対象になるやもしれぬ。」


「ふむ、そこはオヅヌが生きていたころと変わらぬのぉ。

 オヅヌなれば、儂を警戒せずに友として扱ってくれてのじゃが・・・。

 オヅヌがこの世を去ってから、途端に儂を見る目が変わったでのぉ。

 それゆえ、蝦夷と呼ばれるこの僻地に来たのじゃが、ここに住む者達も儂の姿を見ると弓矢を射かけて来るでな。

 儂が応戦すると人死にが出る。

 それが嫌で、ひたすら逃げて山奥に隠れ、眠りについたのじゃが・・・。

 何やら妙な揺れとともに、地の流れが動いたようじゃから見に来たら、ぬしに出遭ったわけじゃ。」


「儂の知っている役行者には前鬼(ぜんき)後鬼(こうき)がついていたという伝承があるが、おぬしはその前鬼なのか?」


「ほう、そんな伝承が残っておるのか・・・。

 確かに前鬼と後鬼も居ったのぉ。

 奴らも、オヅヌが居なくなってからは、儂と同じように身に危険が迫ったからのぉ。

 儂と同じように姿を隠したはずじゃ。

 おそらくは、生駒の土蜘蛛辺りが住んでいた辺りではないかな?」


「ぬしと前鬼、後鬼は種族が同じか?」


「おう、まぁ、厳密には違うが似たようなものじゃな。

 隠れる前はどちらも災いをもたらす意味で鬼と呼ばれておったわ。

 オヅヌから指示がない限りは、人には危害を加えなんだがのぉ。

 何か事あると悪さをしたのは儂らの所為になってしまうのじゃ。

 人が少々群れてきても跳ね返すだけの力はあるものの、無駄に人の血は流したくなない。

 オヅヌが嫌がっておったからな。

 じゃから儂らが身を隠すようにしたのじゃが・・・。」


「なるほど、ぬしは野生の熊よりも恐ろしげに見えるからな。

 確かに姿を見せぬのも上策であったのかもな。

 で、今度は如何(いかが)する。

 また何処かへ、隠れるのか?」


「ふむ、それじゃが、・・・。

 何となく気懸(きがか)りがある。

 理由はわからぬが大地の流れに変動があり、同時に妖気と言うか嫌な雰囲気が付きまとうようになった。

 この嫌な雰囲気は、何事か凶兆の印とも思えるのじゃ。

 じゃによって、山を伝ってその元凶らしきものを探ってみようと思ったのじゃが・・・。

 おぬしはどう思う?」


「ぬしには、何事か感知できる才能が有るのじゃな。

 ぬしが目覚めた最初の大地の揺れは、異界とこの世の間に接触があった所為じゃと考えておる。

 異界とは、この世とは異なる世界の事であり、普通はこの世とは交わらぬ。

 じゃが、なぜか空間自体の振動によりこの世と異界との間に複数の接点ができたようじゃ。

 で、困ったことに、その接点から異界の魔物が出てくる恐れがあるのじゃ。

 現実にでかい妖魔のような生き物が出てきて、こちらの人を何人か食い殺したわい。

 最終的のその生き物は軍隊により討伐されたが、今後その接点を通じてより多くの妖魔が出てくる恐れがあるじゃろうとみておる。」


「ふむ、では儂が凶兆と感ずるのはその狭間(はざま)の所為か?」


「あるいはのぉ・・・・。

 じゃが、別のものを認識しているやもしれぬ。

 こちらの世界には無い物が異界にはありそうなのじゃ。

 儂が魔素と呼ぶものじゃが、ぬしの居た時代に合わせれば妖気かもしれぬな。

 儂が術を使うときに儂自身の身体にある魔素を使ったり、大気中にある魔素を集めたりするのじゃが、その濃度がこちらの世界より異界の方が濃いのじゃ。

 従って、その濃度の差をそなたが感じ取ったやも知れぬ。」


「いや、違うな。

 儂が感ずるのは大地の流れの変動の元となるものじゃ。

 ここの斜面には大地の流れが色濃く反映されておるのじゃが、それが何らかの原因で酷く混迷しておる。

 それゆえ儂にも嫌な気配として感じ取られるのじゃろう。

 因みに、ここからその狭間まで、どれほどの距離があるのじゃ?」


「ふむ、およそ30キロ。

 いや、ぬしの生きた時代なれば直線で60里と言ったところか?」


「60里とな?

 ふむ、儂の力は左程遠くには及ばぬ。

 やはりこの嫌な感じはこの大地の流れの乱れによるものじゃろう。

 ところで、ぬしには名は無いのか?

 因みに、儂は、オヅヌからは貪欲蓋(どんよくがい)若しくは小礼(しょうれい)と呼ばれておったのじゃが。」


「ほう、貪欲蓋・・・、それに小礼な。

 いずれも赤を意味するのか・・・・。

 長いで、「ドン」ではどうかな。

 儂は、佐島幸次郎と言うが、略して「コウ」でよいぞ。」


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