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転生大賢者の現代生活  作者: サクラ近衛将監
第二章 異変

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2ー3 異界の調査 その一

 政府は他の特異点の状況確認だけでも行うべく小部隊の調査隊を編成して、三か所以外の全国12か所にある特異点調査を始めたのじゃった。

 つらつら考えるに、日本国内にある特異点は全部で15か所もあり、地球全体では約400か所に及ぶ特異点の存在は、ある意味で随分と(かたよ)っているように思われるのじゃ。


 何となれば、日本の地表面積はおよそ37万8千平方キロに過ぎず、地球の陸地面積の1億4千8百万平方キロ余りに比べると僅かに0.25%に過ぎないのじゃ。

 面積比率だけで言うならば、日本国内にある特異点は1か所だけでもおかしくないのにその12倍もの数があるのは少々異常であろう。


 何か理由があるのかもしれぬが、世界中の特異点との違いが良くわからないので、今のところ判断ができない状態にある。

 特異点内の様子で、今のところ世界的に共通と判明しているのは大気成分であり、いずれも地球とほぼ同じ気体成分であるが、唯一不活性ガスのアルゴンだけが2%を占めているのが違っているようじゃ。


 地球の大気の場合、アルゴンの存在は約0.93%のはずなのじゃ。

 大気成分が世界中に現れた特異点で同じということは、ほぼ単一の異世界とつながっているようにも思われるが、未だ調査は始まったばかりであり、早計に結論を出すのはまずいじゃろうのぉ。


 問題は魔素の濃度じゃろうな・・・。

 この現世では、魔素の存在など誰も気づいていないから、その濃淡を気にする者も居ないはずじゃ。


 然しながら、前世においても、魔素が濃い場合、魔物が発生する確率は高いのじゃ。

 特に、明確な証拠があるわけでは無いのじゃが、前世では魔素溜まりから魔物が生まれて来るものと信じられておったわ。


 少なくともゴブリンやオークなどのヒト型魔物は魔素の濃い場所で進化し、キングやロードが生まれていたのは確かなようであるのじゃ。

 或いは、ヒト族とは異なる類人猿種が、魔素溜まりで変化したものがゴブリンやオークなのかもしれぬ。


 いずれにしろ政府の調査とは別の視点から、儂が特異点を調べておく必要もあるようじゃ。

 前世では気体の成分など調べたことも無かったから、正直なところアルゴンなどという希元素があることすら儂は知らなんだ。


 しかしながら、魔素の有無やその濃淡ならば、儂の感覚である程度が分かるし、特異点から魔素が漏れ出ているようならば、何らかの方法で魔素の流出を止める必要があるかもしれぬ。

 何しろ、儂にしても、魔素が人に与える影響そのものが良くわかっていないからじゃ。


 前世のヒト族が魔素の濃淡で魔物に変化した事例というものは知らぬが、魔素が異常に濃い魔素溜まりのような場所では、体調を崩す事例も有ったやに聞いておる。

 そのような場合には、すぐさまその場を離れるように古くからの伝承が遺されているので、長期間にわたって魔素溜まりの影響を受けた者が居ないということだけの話かもしれぬ。


 或いはゴブリンやオークなどへの変異についても、この現世の類人猿とは異なる特殊な体質の生物だったのかもしれぬな。

 いずれにしろ、魔素の測定ができる様な魔道具の開発と合わせて、何らかの形で政府等に働きかけることが必要になるかもしれないのじゃが・・・。


 果たして15歳の高校生にしか過ぎぬ坊主の言うことをどこまで聞いてくれるものやら・・・。

 その辺が心配ではあるな。


 いずれにしろ、この現世がこれまでの世界と変わりつつあるなら、そこで生き延びるための努力は儂としてもしなければならないじゃろう。

 人類のためというよりも儂のこれからの人生のためにも、より良き環境を整えておく必要があると思うからじゃ。


 前世のとある国のように、漫然と魔獣やダンジョンを放置したがためにスタンピードなど起こされてはかなわぬからのぉ。

 ふむ、その意味では前世のダンジョンに近いのかな?


 あれもある意味では異界なのじゃよ。

 地下の洞窟を辿っていたら、突然草原やら森に遭遇し、場合によっては広い湖水に出会うことさえある。


 明らかに、あれは前世とは異なる異界であり、別の世界との接点なのじゃと儂も思っておるのじゃ。

 ダンジョンの場合は、侵入した際にどこか異なる場所に転移させられているのではないかという風にも解釈されておった。


 特異点もその意味で異界と現世をつなぐゲートにしか過ぎぬ可能性はある。

 現世で知った細菌等の病気の(もと)になるようなものがゲートから出て来なければ良いがと願うのは儂だけでは無い筈じゃろう。


 ◇◇◇◇


 儂は、個人的な調査のために異界の中に侵入することにしたのじゃが、一応の準備は整えている。

 前世で錬金術により、蒼銀(ミスリル)の繊維で防具を造ったものがインベントリにあったので、その寸法を変えて着用(幸次郎の身体の方が若干のっぽじゃった)し、同じく前世にあったタラフスパティフというガラスのような素材でヘルメットを新たに作ったのじゃ。


 まぁ、格好としては全周が透明な素材のバブルのようなヘルメットをかぶった宇宙人のような感じかな。

 蒼銀(ミスリル)の防護服が首から下をぴっちりと覆っているから、そんな風に見えるはずじゃ。


 蒼銀(ミスリル)にしろ、タラフスパティフにしろ、魔法に対する耐久性はかなり高く、物理防御についても相応の強度を持っているでな。

 この双方で防具を作っておけば、かなりの確率で身を守ることが出来よう。


 現世で言えば中世にあったというフルフェイスの甲冑よりも余程強度は高い筈じゃ。

 しかしながら、安物のサングラスに特殊な防毒マスクをしているものじゃから、まぁ、ちょっと見には完全に不審者ではあるな。


 ヘルメットは完全に密閉して気密にもできるが、特に問題が無い場合には喉元から空気が入り、うなじ側から排気されるような仕組みの逆止弁構造になっておる。

 念のため、口鼻を覆うマスクタイプの特殊防毒面をつけておるんじゃが、これは人相を隠すためではないぞ。

 

 人の健康に害となるような物質ならば、マスクのフィルタにあるイオン交換樹脂のような吸着物質が除去してくれるはずで、容量が限度近くになれば警戒音でわかるようになっておる。

 今回、携帯型の魔素検出器も新たに作ったのじゃが、これまで作ったことも無いし、基準が曖昧じゃから、どこまで正確に測れるかは不明じゃな。


 儂の場合、魔導術があるから武器はあまり必要とは思えないのじゃが、一応は前世で予備の武器として持っていたカットラスがインベントリに入っておる。

 それ以外では、付与魔術による身体強化も有るのじゃが、魔導士としての闘いの主力は、魔導術以外に有ろうはずも無い。


 おそらくは異界内であるならば周囲に遠慮する必要もないじゃろうから、相応に魔法も使い放題じゃろうと思っておる。

 異界のゲートが出現してから5日目、儂は東北地方八甲田山の北北東にある不科澤(ふかさわ)近郊の特異点に向かった。


 地図で見る限り、九幌市墨河の我が家からは、直線距離で260キロぐらいなのじゃが、儂は生憎と八句藻(やっくも)より南の地域では、例の北マリアナ諸島の北端にある無人島以外に行ったことは無いから、地理が良くわからんのじゃ。


 そんな時には、前世もそうじゃったが、道・・・、うん、ここでは鉄道や国道に沿って飛ぶのが一番わかりやすいわい。

 そういうわけで、我が家の上空から一度行ったことのある八句藻(やっくも)に転移魔導で跳び、そこから国道5号線沿いに飛行術で南下、箱立(はこたて)上空から対岸の霜喜多(しもきた)半島の尾生摩(おうま)に向かい、更に六津(むつ)湾を横断して乃塀治(のへじ)上空に至った。


 この間の飛行は、高度を20m前後としておる。

 ジェット機などの高速飛行体は、余程のことが無い限りこの低空は飛ばぬはずなのでな、安心できるのじゃよ。


 尤も、幸次郎の記憶情報によればドローンなるものが飛んでいる場合もあるようじゃから周囲に注意はしておるぞ。

 下手にぶつかると何も無いところでドローンが壊れることになるじゃろうし、儂自身が無用の怪我をしたくはない。


 乃塀治(のへじ)から不科澤(ふかさわ)までは30キロ足らずじゃった。

 日本国内に15か所も有る特異点の中で、わざわざ不科澤(ふかさわ)の特異点を選んだのは、この一帯が過疎地帯であるので人家が少ないためなのじゃが、現地ではやはり警察と自衛隊が周囲を取り巻いておったな。


 当初は物珍しさから野次馬も多数集まり、報道関係者も相当数が来ていたようじゃが、辺鄙(へんぴ)なところということもあって、最近は野次馬も非常に少なくなっているとの情報をネットで確認しておる。

 実際に周囲に居るのは警察の機動隊車両が数台、地元の報道機関が二社ほど仮設テントを張っており、残りは陸上自衛隊の第9師団司令部等が駐屯する蒼守(あおもり)駐屯地から派遣されてきた第五普通科連隊の車両や砲が周辺を取り巻いておった。


 どの程度の抑止力があるかは不明じゃが、一応周囲を鉄条網のようなバリケードで封鎖しており、不届き者の侵入や化け物共が出た時の防壁としているようじゃ。

 また、恐らく八乃戸(はちのへ)駐屯地の対戦車ヘリコプター部隊じゃろうけれど、周辺におどろおどろしい攻撃ヘリが駐機しているのが見て取れる。


 一応関係者以外立ち入り禁止の立て札が至る所に掲示されているが、儂が一々それを気にしていては何もできん。

 他人(ひと)に迷惑をかけるつもりはないので、ここはバレなければ良しとしよう。


 儂は、認識疎外と光学迷彩をかけた状態のまま、上空から一気にドーム状の特異点内部へ侵入した。

 入って直ぐに気付いたのは、高度が明らかに異なっていることじゃった。


 入る前は精々が100m程度の高さだったはずなのだが、儂が今見ているのはおそらくその数倍の高度があり、もしかすると500mほども有るやも知れぬ。

 そうして周囲を見渡すと異界と元の世界の境界が見えるのだが、明らかに境界の大きさが異なっている。



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