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転生大賢者の現代生活  作者: サクラ近衛将監
第二章 異変

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2―1 地震?異界?

 大浜海水浴場から帰宅して、儂の方は、自室に戻って今日の出来事を儂なりに振り返っている。

 魔導術が使えるなら子供の救助も楽なものじゃが、今後普通にやっていたのでは救助が間に合わないような場合、如何にすれば魔導術を使ってごまかしがきくかを色々と検討しておく必要がある。


 その場では思いつかなくとも、事前に考えておけば使える策も有ると思うからじゃ。

 のんびりとそんなことを考えていた儂だが、儂の予想を裏切って世界は大きく変貌しようとしていた。

 

 第一次世界大戦と第二次世界大戦は、人同士が戦う戦争であったが、第三次世界大戦は、最初に、この世界に住む存在とこの世界に非ざる存在が、互いの生存をかけて争う凄惨な戦いから始まることになった。

 それが始まったのは、夏休みが始まって三日目の7月27日のことじゃった。


 その日も朝早くからかおりがスマホで連絡してきた。

 儂が余りメールを見ないものだから、かおりは音声通話を盛んにするようになっていた。


 未だ朝飯前だと言うのに、目覚まし代わりにスマホが鳴っているのじゃ。

 儂は、スマホを目覚ましに使ったことなどは無い。


 だが、かおりの奴が遠慮会釈なくスマホをかけてくるのだ。

 少しは時間を考えろと言っても、全然儂のいう事を聞かない。


 陽が昇っているんだからいいじゃんと言う。

 まぁ、夏場だから夜が明けるのも早いのは確かなのじゃ。


 九幌では午前四時半頃にはすっかり明るくなっている。

 小学生の夏休み中の必須課題の一つであるラジオ体操が最寄りの公園で朝6時半に始まるのだが、かおりはその時間に電話をかけて来るのじゃ。


 折角の休みだと言うのに、なぜに6時半に起きねばならぬのじゃ?

 儂としては二度目の人生を有意義に使うためにも、もっとゆったりとした時間を送りたいのじゃが・・・・。


 「幼馴染」と言うのはひょっとして「思いやりに欠けた鬼畜」のことを言うのか?

 ぶつぶつと文句を言いながらもかおりの要望に応えて窓を開け、凡そ5~6メートル離れた距離で対面しながらスマホで話をする。


 小声では聞き取りにくいかもしれないが、少し大きな声でしゃべれば十分に聞こえる距離ではあるけれど、スマホで会話するのがかおりのこの夏休みのスケジュールの一部になっているようじゃな。

 決して儂の立てたスケジュールでは無いのじゃが、かおりのスケジュールではそうなっているらしい。


 此処であっさりと拒否できないのが儂の弱さじゃな。

 儂は昔から女の押しに弱かった。


 前世で女房に捕まったのも女房のアタックに全面降伏したようなものじゃわい。

 ん?もしや、今世でもこの鬼畜の幼馴染に押し切られるのか?


 それを思うと一瞬背筋が寒くなったゾ。

 そんな他愛のない無駄ともいうような日常のおしゃべりを交わしている時に、突如地震が起きた。


 実のところ、地震なるものを経験するのは、儂が転生してからは初めてのことなのじゃが、幸次郎の記憶に照らしてもかなり大きめの地震のようじゃ。

 儂も色々な経験をしておるから多少のことでは恐怖を覚えないのじゃが、流石に不動の大地が揺れるという経験は、前世では全くなかった事態じゃから背筋が凍ったな。


 家が、電柱が、そして大地が大きく左右に揺れ、そのうちに激しく上下動もするようになった。

 後で気づいたのじゃが、大きな地震の際は事前に気象庁からスマホに一斉警報が発せられるシステムになっているらしいのじゃが、それが全く無かったのじゃ。


 つまりは通常の地殻変動による地震では無かったと云う事である。

 それは結果論であり、地震が起きている間は、儂もかおりも、そんなことに気づく余裕は全く無かったと言えるじゃろう。


 スマホからはかおりの「きゃぁ、きゃぁ。」言う叫び声が聞こえていたのだが、それが突然消えた。

 一瞬、かおりが倒れたかと思って心配したが、そうではなく、スマホの電波が切れただけのようだ。


 窓から見える限り、かおりは真っ青な顔で窓枠にしがみついていた。

 儂の方も、棚に置いてあるモノや机の上のモノがずり落ちて床は大変なことになっている上に、ベッドやら机までもが移動し始めているので、こいつは危険だと判断し、室内のモノの移動を儂の魔導で止めた。


 仕方がないからかおりの方もついでに同じく魔導をかけてやった。

 残念ながら、地震の揺れそのものを抑えるのは難しいのでやめて置く。


 地殻の揺れを無理に止めたりすると、反動で別の弊害(へいがい)が生ずる恐れもあるからじゃ。

 結局、この大地震?は二分間から三分間程も続いたのである。


 日本時間で言うなれば、2029年7月31日午前6時42分の出来事であった。


 ◇◇◇◇


 地震が収まって、すぐに震源地なるものを探ろうとした。

 おそらくは床に置いてある重量物が移動し始めるぐらいじゃから、深度5強から6弱程度ではないかと思うのじゃがよくは分からぬ。


 仮に、この家の周辺が震源地で無いとすれば、震源地付近はより被害が大きいかもしれぬからじゃ。

 で、すぐに周辺の探査(サーチ)を行って驚いた。


 何か異質な物が九幌周辺だけで二か所、北海道全域では6か所に出現しているのじゃ。

 儂の感覚では、ある意味で時空魔導に近い力が働き、異次元とこの世界を無理やりつなげているようにも感じられたのじゃ。


 推測の域を出ないが、当該異質な物は、この世界と異界とをつなぐゲートなのかもしれぬ。

 ここから最も近い場所は、北広ノ島(きたひろのしま)駅近傍の乃津幌(のつほろ)原生林であり、もう一か所は仲間山(なかまやま)峠の近辺じゃ。


 何故にそんなものができたかは知らぬ。

 が、異界に棲むものが強い生命体であるならば、あるいは、こちらの世界に侵入して来るやもしれぬ。


 さて、儂は何を為すべきか?

 これほどたくさんのゲートが開いてしまえば、儂と(いえど)も、簡単に対応はできぬのじゃ。


 それと儂の探知範囲内の人々の意志をざっと確認してわかったことじゃが、北海道の北の端である和津歌内(わつかない)の住人も先ほどの地震を体感しているようじゃ。

 更に驚くべきは、より探知範囲を広げてみると、はるか南にある伊津王島(いつおうしま)、そこから更に南にある大笠原(おおかさはら)の住人、果ては国外のハルピン(中国)やマニラ(フィリピン)、パース(豪州)の住人までもが儂と同じような体験をしているのじゃ。


 この分では、おそらく全世界で同じような現象が起きているのじゃろう。

 更に思念を飛ばして調査したところ、この地球上に凡そ400か所のゲートが出現していたのじゃった。


 理由は分からぬが、先ほどの揺れは、あるいは時空間を歪めた際に起きる時空震(じくうしん)、若しくは空間震(くうかんしん)なのやもしれぬ。

 儂が思考に没入していると、鬼畜の幼馴染が甲高い声を張り上げて儂を呼んでいる。


 返事をしなかった所為なのか、狂気じみた叫びにも聞こえるのじゃが儂の気の所為(せい)か?


「コージロー、コージロー、何が起きたかわかる?」


「ん?何が起きたって・・・。

 地震だろ?」


「こんな地震あるわけないよ。

 少なくとも今まで起きた地震と揺れ方が違うもん。

 普通は震源が近いと縦揺れと横揺れが一緒に来るんだけど、遠い場合は、先ず横揺れが始まる前に縦揺れが来るんだよ。

 でも、今のは、横揺れが先に来て、縦揺れが結構後に来た。

 そして縦揺れの時間がものすごく長かった。

 絶対に普通の地震じゃない。」


「あぁ、・・・。

 まぁ、そうなのかな?

 俺はよくわからんけれど・・・。

 もしかすると空間震(くうかんしん)なのかもしれないけれどな。」


「クウカンシン?

 なに?それ?」


「うーん、説明が難しいけれど、空間同士が干渉しあってできる空間の波動のことだよ。

 大地の地震と違ってかなり広範囲に及ぶ。

 例えば、宇宙の周回軌道に在るステーションでも空間震ならば揺れが感じられるかも?」


「何で、何で、コージローがそんなこと知ってんの?」


「あん?

 知っているわけじゃない。

 単なる推論だよ。

 地震じゃなければ、空間震。」


「フーン、クウカンシンが起きると地震と同じような被害が出るの?」


「あぁ、まぁ、それなりに地震と同じような被害が出るだろうね。

 例えば、かおりの家、壁にひび割れができているぞ。

 まぁ、構造材がイカれていなければ、塗装なんかのやり直しだけで済むと思うけどな。

 それよりも、もっと大きな問題があるかも知れない。」


「大きな問題って、何?」


「空間震が起きるのは、そもそも何か原因があるんだ。

 時空間の干渉が少なくともこの近くで起こっている。

 で、困ったことにこの近くでは二つの異常な場所がありそうなんだ。

 一つは北広ノ島駅の西側に在る乃津幌原生林で、ここからだと東へ直線で15キロ前後かな?

 もう一つは仲間山峠、ここからだと南西方向に直線で30キロ弱ってところか。」


「コージロー、何でそんなことわかるの?」


「何でだろうねぇ。

 まぁ、そのうち機会があれば、かおりにも話してあげるよ。

 今は、ちょっと現地調査をしなけりゃならんから。

 スマホ復活したら、メールを送ってくれ。

 俺はチョット出かけて来るから。」


 儂は窓を閉め、カーテンを閉めて、転移した。

 家の上空300mだ。


 勿論、儂の姿は光学迷彩にかけて見えなくしてある上に、認識疎外を掛けているので、下にいつもの鬼畜が居て、仮に上を見上げても儂の姿は見えないはずじゃ。

 そのまま、飛行魔法で最初に東方向の特異点に向かう。


 五分もかからず特異点近傍に達した。

 目で見る限り、原生林の一部が直径50mの範囲に渡って消滅し、そこに怪しげな光と闇が乱舞するお椀型の半球形の空間がある。


 少なくとも儂の目でもその内部は見通せない。

 明らかにそこから先はこの世界とは異なる時空間なのだと思うのじゃ。


 ゲートならば双方につながっているはずじゃから、こちらからも向こうに行ける筈だけれど、今はやめておこう。

 向こうの世界が有毒ガスの世界ならば、入っただけで死ぬかも知れぬでな。



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