新たな種族、新たなステータス
「さて、と…」
大きく背伸びして凝り固まった筋肉を解していく。上げた腰の後ろでゆらゆらと揺れる尾も最初に比べ違和感が無くなってきた。
(今は一本だけどこれも増えてったりするのか?)
ウラネスの場合は九本だから、そうなるとかなり手入れが大変そうだ。しかしある意味で便利とも言える。この尾は湊の思った通りに動いてくれるので腕が一本増えたと思えば楽だ。
「そうですカナエ様。お姿が変わられたという事はステータスにも何かしらの影響が出ているはず。今一度確認されては如何でしょう」
「そう言えばそうだな…」
昨夜は追われている最中で時間も無かったし、落ち着いて話ができる今理解を深めるべきだろう。
己の能力についてもまだ謎が多い。この世界に生まれついたアルシェでないと分からない項目だって有るのだから。
「〈ステータス〉」
早速ウィンドを開く。勿論見落としがないよう今度はちゃんと特性を表示した上でだ。二回目という事もあり召喚当初のワクワク感や新鮮さは薄れていて、気分としたら備品を確認する程度の軽い気持ちだった。
だが直後、驚きに眼を見開くことになる。
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個体名 カナエ=アマミヤ
種族:妖狐 Lv11
称号:「発現者」「傲慢の証」「色欲の証」「勇者」「異世界人」「白銀の体現者」「種を超越する者」「水の申し子」
力:850
体力:920
俊敏:995
精神:1150
霊力:2785
【固有能力】
《天付九属性》(「最大十二特性」「優先権」)
《黎明の神器》(「性質付与」「三面作用」)
《霧の妖尾》(「偽装」「眼尾共有」)
《真偽の瞳》(「精神干渉」「真相見識」)
【通常能力】
《霧属性 Lv2》 《毒属性 Lv1》
《氷属性 Lv1》 《海属性 Lv1》
《双刀術 Lv4》 《槍術 Lv2》
《弓術 Lv2》 《身体強化 Lv2》
《覇気 Lv2》 《恐怖耐性 Lv3》
《無詠唱 Lv2》 《詠唱省略 Lv3》
《並列思考 Lv1》 《思考加速 Lv3》
《明鏡止水 Lv1》 《空間把握 Lv3》
《霊力変換》 《万能翻訳》 《人化》
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(え……えぇー、どこから突っ込めばいいんだコレ)
先ず種族。予想通りと言うべきか人族ではなく妖狐なるモノに変わっていた。
これで名実ともに人間ではなくなったが、元より自分と周りの人間とでは出来が違うと考えていたため然して驚かない。むしろ清々したぐらいだ。
次に眼を引いたのがアビリティの各項目。
昨日見た時は平均350ちょっとだったのが此処にきて驚異の1300越えである。
(高いかは分からないが随分偏ったな。ステータス上で最も具体的な指標だし今後の参考にもなるだろう。今はそれよりも……)
そこから視線を下に滑らせる。
(やっぱり。昨日あった「魔力」の項目が消えてる。そして音の響きが似ていた「霊力」の伸びが一番デカイ)
他の4項目が横に一律でこれだけ飛び抜けるのを見ると「魔力」が消えたと言うより「霊力」に置き換わったと捉えるべきか。では何故そうなったのか、また考えることが増えた。
そしてそれ以上に目を引いたのが固有能力の欄だ。
(なんか【天付七属性】が増えて九属性になってるし。【黎明の神器】が固有能力になってるのは良いとして残り二つは何だ、全然知ら……いや待て尾と瞳? 滅茶苦茶心当たりある)
昨夜のアルシェと盗賊とのやり取りで固有能力が存在を疑われるほどに珍しいことを知っている。種族が変わったことで新たに能力を得たのか、将亦その逆かは分からないが多いに越したことはないだろう。実際に使えるかは別として。
他にも通常能力が増えてたり、知らぬ称号が追加されていたりしたが、こんなのは強くなった時の特典と考えれば不思議でもない。
(注目すべきは【色欲の証】か。こいつも能力と関係がありそうだ)
湊の固有能力が【傲慢の証】と一緒に付いてきたのを考えると決して無関係ではないだろう。例えば能力取得に証がないといけないだとか、そういう条件が有っても不思議ではない。
(それにしても色欲ってのがな。これじゃあ俺が欲情してるって思われるんだが)
誰にとは言うに及ばず。湊の横で顔を背けている少女にだ。………顔を背ける?
「どこ向いてるんだお前は」
「伝え忘れていましたがカナエ様、他人にステータスを見せるのは極力控えて下さい。どうしてもという時は必要な項目だけ残してあとは隠蔽すべきです。弱点の露呈に繋がりますので」
決して顔を向けないまま忠告を入れてきた。それを聞いて確かに迂闊だったと自省する。
ステータスに表示してある内容は個人情報そのものだ。データ社会と呼ばれる時代で生きてきた湊にとって、その重要性は痛いほど判る。現に彼自身それで幾人かの人生を終わらせて来たのだから。
悪用されることは無いと思うが、同時に知られて得るメリットもない。これまでだったら自分のという感覚が無くとも人に見せることはしなかっただろう。
だが今は自然に許可を出した。逆に言えば当の本人がそれを忘れるほど気を許したとも言える。
「成程、隠蔽なんて事も出来るのか」
「はい。ですから信頼できる者以外には決して見せてはいけませんよ?」
黙っていれば見れたのに忠義を優先した。こういう気遣いが出来るからこそ湊も安心して話せれるんだなと一人納得する。
(そういえば最初に開いた時も後方を見てたな。じゃあアルシェも俺のステータスは知らないのか)
道理で固有能力があっても何も聞かれない訳だ。そもそも知らないのだから指摘出来なかったのか。
「そうか、じゃあアルシェのステータスを見せてくれ」
「〈ステータス〉――どうぞ」
「おい」
忠告した当人がのっけから破るという、ある意味清々しいまでの対応をして見せた。何となくこうなる気はしたが、釈然としない様子でアルシェを見据える。
すると珍しく彼女と視線が合わなかった。否、合わせようとすらしてない。
「私の全てはカナエ様に捧げると誓いました。なのでカナエ様は許されても私は認められないのです」
「それ今誓っただろ」
恐ろしいまでに達観したアルシェに半ば呆れるが、ちらりと見てしまったステータスを配慮の文字すら忘れ凝視してしまう。
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個体名 アルシェ=フィリアム
種族:聖人 Lv19
称号:「発現者」「嫉妬の証」「セレェル教の聖女」「救国の聖女姫」「第二王女」「中位司教」「結界師」「王の伴侶」
力:520
体力:690
俊敏:815
精神:1430
霊力:4880
【固有能力】
《聖者の瞳》(「予知眼」「千里眼」)
《結界魔法》(「結界干渉」「万能効果」)
【通常能力】
《聖属性 Lv8》 《木属性 Lv7》
《水属性 Lv4》 《火属性 Lv2》
《結界術 Lv6》 《魅惑 Lv6》
《王女の心得 Lv6》 《聖女の儀礼 Lv4》
《無詠唱 Lv6》 《詠唱省略 Lv9》
《思考加速 Lv5》 《適正補助 Lv5》
《愛接傾慕 Lv2》
《霊力変換》
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「これは……」
アルシェのステータスで注目すべき点は幾らでもある。その最たる例が【嫉妬の証】の称号であり、その横で先頭を飾っている『発現者』だ。
アルシェが固有能力持ちということで薄々予感してたが、やはり彼女も【証】の文字をステータスに刻む者の一人だった。
(それより身体能力値だが、何というか……バランスわる)
悪いと表現するのは誤りかもしれない。俺がどの項目にも手を伸ばしているだけで、支援超特化型のアルシェにはこれが最適なのだろう。しかしそれにしたって偏り過ぎとは思う。
足が遅ければ敵から逃げられない。力がないから一人で盗賊も撃退出来ない。
アルシェのスタイルは完全に誰かに依存することを前提とし、性格と一緒で自己完結している俺には到底理解できないものだった。
自慢の能力も俺が喚ばれるまでは無用の長物と化していたし、とは言えこの数値も彼女の意思とは無関係で――性格や願いが起因する場合もあるが――、本人に言っても仕方が無いので胸の内に秘めておく。
(これからは俺がアルシェの剣であり盾と為らなければいけないのか)
その対象が赤の他人だったら迷わず置き去りにするところだが、アルシェならと素直に受け入れてる自分に驚いた。
その後、当の本人も交えて話を進めると色々面白いことが分かった。
というのも昨日までは特殊能力だった【結界魔法】が気付いたら固有能力に格上げしていたのだとか。そして俺と同様に「魔力」の項目が消えて「霊力」が爆発的に跳ね上がったらしい。
「今までは固有能力だけに霊力を、それ以外は魔力で回していたのですが全部変わっちゃいましたね」
自分も一緒だと同意し、二人で原因を推察し合った結果、危機的状況に能力が開花したという結論に至った。
俺はフードの男に渡り合うため。
アルシェは俺の傷を癒すために。
各々思い当たる節があり、他に可能性もないためそれが結論になった。
次の議題では『発現者』がどういう称号であり、何故自分達だけなのかも討論し合ったが結局最後まで答えが出なかった。
「この発現というのは証の事を指すのだろうか」
「どうでしょう。私が最初にステータスを開いた時には既にあったと聞き及んでいます。もしかしたら普通の人と種族が違うから…?」
「種族か。昨日までの俺とアルシェが聖人で、今は妖狐。人族と狐獣人の特殊個体か。でもそれだと聖人が当て嵌まらないよな」
特殊個体とはそれぞれの種族の中でも取り分け力が強い者を云う。通常の個体とは姿形から異なり、特徴だけなら普通の人間と変わらないアルシェを見て可能性が薄いことを指摘した。
「それもそうですね。真実に至らず申し訳ありません」
「いや、そういう何気無い意見から情報を引き出していくんだ。決して無駄じゃない」
「ありがとうございます」
今後の為にもなるべく多くの情報がいる。
互いに勇者と聖王女という立場であるからして、いつまた襲われるか分かったものではない。それに貴重な証を持つ者同士、延いては己の探究心を満たすため思いつく限りの情報と考察を話し合った。
「そういえばカナエ様って年はお幾つなのですか?」
「16だがあと半年もすれば17になる」
「でしたら私よりも一つ上ですね。私は今年で16になるので」
偶にアルシェから世間話を振られたりもして、気分転換のつもりだろうが俺を知りたい欲求が全面に出ている。別にいいけど。
(それにしても、これで15歳か)
「……??」
顔は幼いのに身体は成熟中とか。これが蓮の言ってたロリ巨乳……恐ろしい。
そんなこんなで森の奥地の草むらに腰を落ち着かせて2時間が経過した頃。
最初に目覚めてから休みなく話して、そろそろ昼を跨ごうかというところで唐突に終了を告げる腹の虫が鳴った。
ぐぅ~~~!
「………」
「………」
無言で見つめ合う二人。数秒後、顔を真っ赤にしたアルシェが必死に言い訳を謀る。
「ッ~~~/// ちち違うんですカナエ様今のは…!」
「くくっ、気にするな。腹が催促したんだろう? 早く飯を取れってな」
「カナエ様!?」
「なに昨日から一口も摂っていなかったんだ。お腹の食いしん坊には怒ってやるなよ」
しかし俺にはフォローを入れる気など毛頭なく、彼女の羞恥心を更に焚き付けるのだった。
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