第363話 葡萄畑発展譚(2)
颯爽と現れたのは、巨大な影2つ。
このワイナリーの元を造った、虹竜閃々と閃電、その人たちだった。
「久しぶり!閃々も閃電も元気にしてた?」
天くんが手をふり、微笑みかける。そしてその様子を見た2人の情動は想像通りだった。
「天様!天様のお言葉が流暢になられている!」
「この世に生を受けてまだ1年も経っておられないのにこの成長。賢く麗しい我が君」
「こちらにいらっしゃったことが解り、はせ参じました」
「……お母さまにはきちんと言ってきた?」
その天くんの言葉に、2人の口は噤まれる。
「……何も言ってきてはいません」
「……気配を察知していてもたってもいられず……国内なので許されないでしょうか……」
「許されないだろうね。多分。でも、二人に会えてうれしいよ」
その言葉にたまらなくなったのか、そろって天くんに抱き着いた。こちらはというと、あまりの迫力にとりあえず傍観することしかできなかった。
「閃々、閃電。この前は浮世音楽堂でお世話になったね。どうもありがとう!」
そう、恐る恐るこちらから声をかけてみる。
「ああ、チーズか。天さまのお役にたつことが我らが役目」
「些末なことですよ?人の子」
前からだけど、天くん以外に対しては温度がものすごく低い。そのぐらいのほうが竜種としてはよいのかもしれないけれど。
「お前たちの再会はいいとして、樽ラック造るぞ。ワイン樽は俺とノリで作ってきた」
「ユウが先陣きってつくってくれたので、私はお手伝い程度ですけど」
兄さんはこれから樽ラックを設置するあたりをじっと眺め、頭の中で設計図を書いていそう。
「ステンレスの発酵器はさすがに準備できなかったから、樽発酵でスタートするって話だもんね」
「そうそう。妹ちゃんがちゃんと調べてくれたおかげ様ってヤツだな」
「実際に行ったこともない本程度の知識だけど、一応勉強をしてきた範囲のことではあるよ」
「頼りになるぅ」
閃々と閃電がその様子を見て、突如焦り出す。むしろ真っ青といったレベルだ。
「我らはハコモノだけを準備するといったが、棚ぐらいであれば言ってくれれば……」
「天様のお手を煩わせるなどとは思いつきもしなかった自分が残念で仕方がない」
「お前たち、最初から内装は行わないって言っていなかったか?」
さすがに兄から突っ込みが入る。私もそれはさすがに知っている。
「だって……天様のお役にたつには……」
「我らのことを気にかけ愛してくれる天様に報いるには……」
突然現れて、もじもじしながらの会話の堂々巡りで時間がいたずらに過ぎていく。どうしたもんやら……私が今のレベル程度では、親密度が低い相手の場合、圧倒的な力の差により会話がまったく成り立たない。正直閃々と閃電は天くん経由でないとホント「何の用だ人の子よ、何もないのであれば帰れ」とか言うような存在である、と思っている。
そんなこんなで、突然ワイナリーを建てたことで内装をしなかったことについて、天くんへの支援が「足りなかったのではないか」と思い出したのかこの虹竜たちは。
そこで兄は突然手を叩き、仕切りなおす。
「よし!じゃあここは後にして葡萄畑に行こうか!」
「そうだね兄さん!みんなサコッシュ持ったよね?収穫についてはボランティアに行ったことがある程度だけど、やったことがないよりはマシ……だと思う」
「それは本当に心強い」
「……いや、本当にちょっと見せてもらった程度だよ」
「それなら俺もそうかな。収穫はしていないけど見学はあるなあ」
口が滑った、と思ったけど時すでに遅し。変な冷汗がでる。ボランティア行ったことあるって言わないでおこう、って思っていたのに。失敗した。なぜかって期待されるほどの働きは出来ないと思うから。
ワイナリーのボランティアっていうのは結構あって、ホームページで募集していたり、ワイン販売店で募集していたりする。ボランティアなので報酬はないけれど、醸造について説明をしてくれたり、試飲をさせてくれたり、お弁当が出たり出なかったりとワイナリーごとにその内容はバラバラで面白い。北海道のワイナリーにしか行ったことがないけれど、きっとほかの地域でもあるんじゃないかな、と思っている。
というわけで、醸造は行ったことがないし、詳しく書いた本しか持っていないけれど、ワイナリーには実は行ったことがある。ただ、ほぼ収穫ボランティアしかやっていなくて、施設は見学しただけ。要するに実践には程遠いので、今からやることが初めて、ということになる。
今年は当たり前のように手摘み。大量消費ワインとかであれば魔法で詰むこともこれからの視野にはいってくるかもしれないけれど、今は小規模な葡萄畑。そこそこの量はあるけれど、とりあえず人海戦術で乗り切る。もし今日やってみて無理感が出るのであれば、ミアカ村で手が空いてるみんなを兄のランチという袖の下を使うことで動員してしまおう。経営者としてのワイナリーは本当に未経験すぎて、どのぐらいに何をしたらよいか、とか、匙加減がまったくわからない。また新しいものを学ぶ機会がきたと思って、失敗は最低限を目指し、作業に勤しもう。
葡萄を収穫する剪定ばさみについては、魔法使いさんが提供してくれた。どこぞのドロップで出たけれど、特に使用することがなかったために、収納のストックになっていた、らしい。
それは[木菓子鋏★★★★★★]というハサミ。数量としては30本ほどあるらしく、しかも、百年以上前のドロップだというものだから、骨董品に足を突っ込んでいるような。
それにしても私の【無限フリースペース】であれば収納量無限大ではあるけれど、魔法使いさんも相当大きな収納を持っていそうだなあ、って思うに至った。
さすがに30本は多いよね。
お読みいただきありがとうございます。
現在不定期更新となっていますので、更新予告はX(@ezodate)をご覧ください。




