第361話 雲の一族(6)
「というわけで、北の離島に雲の一族という魚人が住み着き始めた。私とコウコ、そして限られた者しか今知らないが、お前にも知っていて欲しい」
シラタマ王はミルクスタンドホッカイドウの営業が終わった時間を見計らい、護衛をつけて来訪した。護衛はカフェブースで待機、応接室とはおおよそ言えないリビングで、王からのありがたいお言葉。よくあるんだよな、こういう秘密の共有。
「知っておくだけでいいんですか?」
「察しておるくせに、またそういう。こちらの手が回らないとき、人知れず視察しに行って欲しい」
「ちなみにその一族に姿を知られているのは」
「コウコと当初取り調べにあたったものたちのみであるから、人数が限られるな」
「見知らぬ者が立ち入ったら警戒されるではないですか」
そう言うと王は一息おいてニヤニヤしている。
「そこで取り出したるは王のお墨付き。行商として行ってまいれ」
「行商、ですか……?」
先日戻ったノリと天は営業終了後、天のメイン食材の木の実を収穫しに行っている。自分たちの食べる食材は普通に買いそろえたり妹が収穫して【無限フリースペース】に入れておいてくれているものを使っているけれど、鳥竜種の主食の木のみは森にいかないことには入手が難しい。
ナット国でも収穫しにいってはいるもののあちらは4人かつ親世代もいる。こっちはこっちで賄った方が問題ないだろう、という判断に至っている。
しかし行商とは。こればかりはさすがにノリの意見も聞いた方がいいか……と思っていた矢先、二人が帰ってきた。
「只今戻りました~」
「あれ?お兄ちゃんは……いた!」
2人を妨げる者はいないため、扉を開けてリビングに入ってくる。
「いつ見てもお前たちは兄弟には見えんな、親子に見える」
「よく言われます……複雑ですが」
「フフ……ところでだ。この二人にも先ほどの話、共有したい」
こちらの意見を聞くつもりはないとばかりに、王は先ほど俺が受けた説明を2人に行った。
◇
「別にいいんじゃないですか?雲の一族は海か大河に戻らない限り、最大限の力は発揮できない一族です。地上に降りて文化を学び生活を学ぶこと以外、割と無害なおさかなさんですよ」
「ノリ、知ってるのか?」
「昔ですが、話し相手としていた時期があるんですよ。その者も最終的には海に戻っていってしまい、そのままですが」
「何だ。お主は、かの一族の生態について詳しいのか?」
「詳しく知ってはいますが、王命とはいえ、お答えすることはできません」
「はは!それはそうだな。自分を信用して話してくれた一族を売ったことになるもんな!」
「五百年以上前の話なので、今と多少は違うかもしれないですが、まあ誤差でしょう」
シラタマ王は大きく頷き、立ち上がる。
「という訳で、これからだが、月に1度程度の訪問を頼むことになる。よろしくな」
ツキイチ。ミアカ村と同じでツキイチ?
「陛下」
「何だいつも王呼びするというのに、かしこまって」
「月に一度、外せない予定があるのですが、その日程は外していただけますか?」
「ああ、ここの牛乳生産者を慰労しに行っているアレか」
「……はい」
ナット王国そしてミアカ村はこの国の人間には認知することができない。ただ、どこか秘匿された生産地があるということは王も認知している。詳しく詮索はしてこないものの、気になっているものではあるのだろう。
「雲の一族の作り始めた今の村はかなり拙い。もともといた3人しか村人はいないが、拠点としての呼びかけと反応は現状あるとの報告を受けている。前の村も30人程度はいたと聞く。そのうちある程度整うだろうよ。というわけでだ、別に急いでもいないうえに近所でもあるので、日程は候補をいくつか出すからそのうちいける日程で行ってもらえると嬉しい」
「……仕方がないですね。わかりました」
王の考えていることはおそらくは、大儀としてはシラタマ国にある美味しい食べ物のお裾分け販売。本意を考えると魅了効果のある自分の作るご飯で丸ごと丸め込んでその無人島に居住させ、欲する利益を享受したい、という可能性もある。現状不法入国を大目に見てもらって拠点を手配してもらったという、恩義しかない状態ではあるだろうけれど、搾取を目的としているとすればあまり気持ちの良いものではない。
これはきちんと状況を確認しつつ、王命を受けるしかないか……などと考えていたら、目の前に【収納袋】を差し出された。
「これは雲の一族がよこした賄賂のような謝礼よ。若いがために自分の行動がどうとられるか、ということが理解できていない子たちなのだよ」
「はあ」
「というわけでな、この袋ごとお前たちに与える。雲の子たちにはお前たちを派遣する費用にした、と伝える。あまり賄賂ととられそうなものを国庫に収納・記録するリスクは高いからしたくはない。お前たちは、世界を旅できるお前たちは好きに売りさばく等収入とすることができる。基本漂流物で生活する者たちだからな、政治は大局をを見て大胆に、を心がけてるからな」
「ガラクタだったらどうするんですか?」
「もとでが漂流物だからな!ガラクタであったほうがちょうどいい。わかるな?」
「はあ……」
「ではな、また連絡する」
そう言い、王は席を立ち護衛を連れて帰城していった。
これはほんとうに、面倒ごとを押し付けられた可能性が高いぞ?そう思いながら、3人で視線をあわせる。
「とりあえず、中身の確認をしましょうか」
ノリがそう促すので、晩御飯の準備をする前に、庭に収納袋の中身を出してみることにした。
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