第360話 雲の一族(5)
「というわけで、これが昨日今日の報告だ。王としての判断を仰ぎたい」
「そんなこと言って、どうしたいか決めているんだろう?」
「ただそれをするには王の判断と理解が必要なんだ」
図書館併設の私の部屋で業務報告会が行われる。ほぼこれは、王と私の密談の場合が多いわけだが。
「雲の一族の生態としては基本不法占拠だな」
「それは良くないことなのでは?」
「まったくよくない。ただな、国が傾くようなことがあれば全部片づけて揃ってみんな海に還る潔さがある」
「なんだそれは」
シラタマ王その人は私の話を聞いて愕然としている。
「しかも魚群を呼んだりできる。この魚が食べたい!とかおもえば手配してくれる、ともいえる。あと希少性のある一族で存在自体がレア中のレアなんだよな。あと、一番問題なのが、肉」
「肉……あれか?不老不死」
「実際本当に不老不死となるかは誰も実験していないからわからないらしいぞ」
「それなのに肉として狙われるのはかわいそうだな。因みに流れ着いた原因は海流に巻き込まれたため、らしいんだが、基本雲の一族は魚の姿をとって海に住む。ところがだ、今回流れ着いた3人、青雲、瑞雲、雲霞は例の国を脱出したときからずっと人形態で海にいたそうなんだ」
「それはいったいなぜに」
王の興味の度合いが上がった。目が生き生きしだすから本当にわかりやすい。
「魚形態をとる回数と時間で知力が落ちるらしく、それがどうしても嫌だった現代を生きる雲の一族、ということらしい」
「そんなことまでコウコに話したのか?!」
「本当に、怯えてるのか浅はかなのかはわからないけれど、相当簡単に情報を離してくれたよ」
「まあ、一般的な村人、王とかそういう立場ではないわけだし、そういうことも……多分、ある」
「というわけで、本題だ」
◆
待機期間が終わり、我ら3人はコウコ様の庇護下に入った。冒険者ギルドに登録し、【ステータスボード】で連絡先を交換したうえで、転移魔法陣を踏む。
そして、転移した先、それは……絶海の孤島だった。
「お前たちにはこの程度の環境、問題はないだろう?」
「それはそうだが」
「というわけで、ここをお前たちの新たな拠点としないか?この島は記録を見ると人が住んでいたのは五十年ぐらい前まで、流れ着いたものとか、島の中のもので好きに生活してくれて構わない。欲しい物があれば可能な限り用意しよう」
「なぜこんなに良くしてくれるのか?」
「それはまあ、王命だから。お前たちはまあまあ安全と判断された、というわけだ」
「……危険と判断されるのはどんな場合なのだ?」
「それを聞いてどうする。そんな考えもあったか!と、実行されたら責任がこちらに来る」
「それもそうか」
目の前に小さな小屋、右手に山。海からの漂流物もある。
「あ、拠点を建てて、一斉に送られる通知も見てみたいが、干渉可能なレベルも魔力は持ち合わせ……あ」
「あ、とは」
「ちょっと待ってくれ……ああ、そうか、うん、そうしよう」
瑞雲と雲霞は二人でこちらが話を聞いているのに、聞くつもりもないのか砂浜を走り回っている。歳もそんなに変わらないというのに、全ての交渉はこちらに回ってくる。
自分たちに血のつながりはまったくない。ただ、なんとなく同じぐらいの世代だから固まって行動することが多く、一つのユニットみたいになっていたがために、今も共に居る、と言った感じだ。
「……でもなあ。ほかの雲の一族が先に拠点を作ってしまったらこの話もなくなり、君たちの身柄についても再考しなければならなくなるから……まあ、他に負ける前に拠点をつくってくれ」
「住人が増えたら……我が一族の老齢の者は、他の部族を嫌う。村に立ち入ったら狩りをするように追うだろう」
「はた迷惑な」
「それもあって、魚型に転じることはしたくない。そしてここが村となった場合、村に入って見つかった場合、追っていく可能性もある」
「狩りをしているのかな?」
「狩りというか捕食というか……」
「まあ、私は拠点が出来次第、退散するよ。その後君たちはこの島で拠点づくりに勤しんでくれ」
「モニタリングは」
「適任が居たのでな、頼んだ。お前たちの一族の者が気が付かない方法でそれはなされるし、プライバシーはちゃんと守られる。村のシステム面でのモニタリングだと思ってもらっていい」
コウコはそう言うと、島の建造物の真ん中、くすんだ黄色い岩に歩みを向ける。3メートルはありそうな巨岩。その前に立つと何かしらの本を手に持ち、何かを唱える。
そうすると、その巨岩をくすませていたものが剥がれ、光り輝く黄色い石がそこに現れた。
「これはな、ご神体。またの名を魔岩石。君たちの生活とエネルギーを護る黄色い石だよ。この石の力で防御結界を維持することもできるし、モニタリングの要石とすることもできる」
「コウコ様の魔力でこう、きれいになったのか?」
「いや、本の持つチカラさ。この国の先人は本に記録を残し、記憶を残す。ついでに限定使用できる魔力も残しているものがある。ありがたいよね?まあ、基本禁書なわけなので、口外しないでくれたまえ」
そこで思い立つ。お礼だ。自分が前の村から持ってきたのは最後の来訪客が気にしていた、調度品。収納袋に入れたまま、今もポケットの中にある。
「お礼と言っては何ですが、この袋、貰ってください。異国の調度品詰め合わせです」
「入手経路は」
「前に住んでいた村です。入手手段は漂着です」
「ほう」
コウコは袋の中身もわからいというのに、興味ありげに受け取ってくれた。
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