第359話 雲の一族(4)
目が覚めておでこに氷嚢が乗せられていることに気が付く。氷嚢釣りなんて、久しぶりに見た。
明るい和室。木の天井。
「あ!目が覚めた!」
「コウコに連絡しよう、心配かけたよね」
「風雲、この流されて着いた国、白魂って言うんだって。島国だけどその島国を丸ごと海流が囲んでいて、唯一流されないポイントがここのサンショウという街なんだって。って起きてばっかりで話すことじゃなかったかな」
「そうね、さすがにね」
「……瑞雲、雲霞。無事だったか?」
「それより青雲が突然倒れてびっくりしたよ。本当に強いプレッシャーだったから、酸欠になっちゃったのかなあ?」
「ちゃんと深呼吸してね。私たちは無事だから。危ないことは何もされていないし、逗留する宿に連れてきてもらっただけだよ」
「青雲が担架で運ばれたのはさすがにびっくりしたけど」
「コウコさんが、あちゃーやっちゃったーとか言っていたよ?」
状況がいまいち読み取れない。ただ、瑞雲と雲霞が出す固有名詞「コウコ」とは誰だろうか。とか言いつつ、大体のめぼしはつく。あの身なりが個性的な尋問官だ。
そして瑞雲は部屋にある通信機で宿のフロントに連絡をとる。青雲が起きた、と。
◇
「いやいやはやはや。君はかなりストレスに弱いね。胃に穴があいてからじゃあ遅い。詳しい話はぼちぼち聞くことにするよ。倒れられたら私のせいになってしまうからね」
そう、例の尋問官が再度訪ねて来て、ニコニコ笑いながら語りかけてきた。相変わらずの自分の身なりにはあまりかまっていなさが満ち溢れている風貌。
「自己紹介が遅れたね。私は幸子。この国の名前は……そこの子たちから聞いているね。今はまあ、尋問官の真似事をしているが、普段の仕事は図書館の司書をやっている」
「ししょ……」
「白魂国の国立図書館で図書や資料の収集、整理、保存をしたり、情報提供を行っている。私の知識が国の知識。てなわけで、尋問の仕事も気が向けば引き受けるのさ。あとは雲の一族に純粋に興味がある」
今をもってしてもこのコウコと言う女性、深い話は全くしない。本心が全く見えない。きっと何を聞いたところであたりさわりのない事だけ答えてくれるだろう。
「ところで君たちに問いたいのだが、現状正規ルート外での入国ではあるものの、特例として現在逗留を許している状態だ。これから君たちの処遇を考えなければならないわけだが」
「我々が何かを希望した場合、受け入れられる可能性はあるのか?」
「まあ、条件にもよるね」
「首都に行きたい、などそういう希望はない。ただ、もし可能であれば……暫く住むことは可能だろうか?」
「なになに~?それは何だい。自らが難民だとでもいいたいのかい?」
「そういうわけでは……」
「この国は島国でね、しかも入国する入り口はここ、サンショウのみと言う訳さ。ここに住みたいといっても防疫の街、働き手は中央からよこしているからな、働き口はない。さて、君たちの売りはなんだい?」
「売り……」
自分たち3人は雲の一族という名の魚人。いうなれば、ヒトと魚類のハイブリッド。共食いといえばそうかもしれないが、プランクトンも食べれば魚も食べる。数は増えすぎてもいけない、減りすぎてもいけない。
そこについては海の住人たちも重々理解をして生活をしている。
そこでといっても何だが、自分たちの出来ること、そう考えてみると一つの答えがでた。
「我らは魚群のありようをコントロールできます」
「ほう?」
「この魚がいつ欲しい、とあれば、近海のものであれば漁場に導くこともできる」
「それはすごいな。常日頃からそれをすると技術面の発達を妨げる事になるが、特別な場合のときは有用に使えるな」
「あとは自分たちを売ることになるかもしれないが、雲の一族の差しさわりのない部分でのありようをコウコ様にお伝えすることも、吝かではない、です」
「ほう。プライドが高そうに見えたが、自分たち一族を売るのか?」
「……研究とかをされると悲しい気持ちにはなりますが、我らの特徴だけではなく、生体について理解をしてもらえると、我ら一族としてもこの先生活しやすいかと……」
そこまで言ったところで、コウコは一回黙する。何かまずいことを言っただろうか。
「君は若いね。悪くはない、悪くはないのだが、考えが浅いな」
「な……」
「考えてもみろ。私のような謎おばさんに自分のことベラベラ喋って悪用されたらどうしよう、とは考えないのかい?そもそもだ。君の意思であるが、一族の意思ではないな、そうだろう?」
「……そのとおりです」
「よしわかった、悪いようにはしない。逗留期間が終わった後君たちの身柄は私が預かろう」
「良いのですか?」
「良いも何も人型で暮らしたいが、住む場所が解散したのだろう?拠点もなく生活できるのは冒険者ぐらいさ」
「冒険者……」
そこで先日我が村を訪れ温泉を目指し去っていった者たちを思い出す。あれが、多分、冒険者。
「会ったことがあったかい?それはそれは。ところでだ、一つ答えられるのであれば答えて欲しいのだがな、お前たちが新たな拠点を造る場合のルール、それが知りたい」
拠点を造るルール、それは雲の一族のいずれか、正直誰でもいいわけだが、ここを地上の本拠地とする、と座標を一族のステータスボードにメンションオールで通達する、早い者勝ち、それだけの雑なものと認識している。
しかも大体において不法滞在であり不法占拠、バレそうになったら海に還る、そんな程度の生き方をしている。
このことはそこまで秘匿されるものなのであろうか?
これをそのままコウコに伝えたところ、頭痛が痛いポーズをして、こう言ってきた。
「悪いことを聞いたね。しかしだ、君たちの肉は甘露だということを忘れたわけではあるまい……?拠点を強要されてひとどころに集まったところを捕縛されたらどうする。習性ともどもおおざっぱで浅はかな……今聞いたことは私の中で留めておく。いいな?」
完全に憐みの眼差しを浴びるに至ってしまった。もう、頷くことしかできなかった。
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