第352話 バナクコート深(6)
「お帰り!」
「お前たちが暴れたおかげでこのオイスター、安全な場所がなくなりそうだ」
「というわけで、この家を引き払う。痕跡も残さず撤収する」
「この家の防護壁も、王権探索された場合絶対に安全とは言えない」
「立場的には何やってくれたんだ!本心としてはよくやった!」
転移で到着すると同時に、ハギとフジがまくしたてるように話しかけてくる。刺激がない世界で生きてきたのかと思うくらい、ものすごく興奮していて鼻息が荒い。
「もうすぐ王が目覚めるぞ」
「王が目覚めた時、残念な知略で残念な政治を行っていたあの二人がどうなるかはわからないけどね」
「はは、実効支配していたがすべてが無になるぞ」
2人は手をつなぎながらぶんぶん腕を振っている。なんかほんと、いっそ面白い。
「はいはい、じゃあさっさと移動しようか。家の圧縮技術は持ってるかな?」
「出来るとは思うが、やったことがない」
「ないな。安全が保障できなかったり痕跡が残る可能性があったら消滅させた方が早い」
「復元するまでに相当な年月がいるだろうけれど、寿命なんてあってないようなものだしな」
「そのとおり」
「お前は出来るのか?主を想い人」
その言葉を聞いた途端、イオくんが噴き出した。
「アルジヲオモイビト……!!いや!そうだけど!!!!……!!!!!!」
「さすがに笑ったら失礼だぞイオ」
「だって……!!」
アオくんは先にイオくんが噴き出したせいか、冷静な顔をしながら見守ってはいるけれど、イオくんは顔を真っ赤にしてヒーヒー言っているのでもうこれは、いろいろとまずい。
「……まあいいや。いったんに引き上げるとして、じゃあアオ。この家をどこに移転させたら良いか、あーちゃんにあとできいてもらえる?」
「わかりました」
その言葉と同時に、視界が突然ハギとフジの家の外の風景に変わった。あたりまえのように家があった痕跡はなく、家の基礎があった部分さえ痕跡はなく、周りに馴染んだ風景となっている。
「今回は緊急事態だし、君たちの研究成果をそのまま保存したほうが良いだろうからね、私が代わりに圧縮を承ったよ。この先はチーズ、君の転移魔法で移動してもらっていいかな?魔力の痕跡が残らない転移なんだよね、君のソレ」
「そうなんですか?!」
「突然気配が途絶えるからね?だから今も追手がいない。全域を探査をされれば転移どうこうではなく本人の気配で見つかってはしまうからね、急いだほうがいい」
「わかりました…!じゃあ、いきますよ~!!!」
そう言い、私たちはさくっとオイスターを後にした。
◆
沙汰は戴冠式を境に起こるものかと誰もが予想していた。
この国が良い方向に向かうものだと。
何度も厄災がおきているというのに、何も対策をしない、偶々救われていた、という自覚がこの国にはない。
ギリギリ政治を維持していたのは前王とその側近ではあったものの、腐敗に浸食されきっていたため、やりたいこと、したいことを全くすることができずに、途半ばで王族の悪意とそれに従う協力者の前で倒れた。
そのヒトの悪意が伝染したのか、前王妃に宿った子は、両親の顔の特徴は受け継いでいたものの、髪の色、眼の色を全く受け継いでいなかった。
前王は子に対し、仕事の忙しさに加え体調が悪かったことからそれほど接することができなかった。前王妃は不義の子であると責められることを恐れ、すべて乳母に任せ会おうともしなかった。
齢3歳、その王子は自分のありようを自覚した。ほぼ同時に父上が身罷った。
声をかけてくるものは乳母と家庭教師以外、だれもいなかった。
毎年起こっている厄災は、何者かわからないが始末されていたが、今年はいつもと気配が違った。その気配は厄災を退けたあと、この首都「マガキ」に入ってきた。
そのうち一部の人間がこの城に訪れ、母上と叔父上と接触していた。その来訪者の同行者に、気になる気配を見つけた。
王子は自分と同じモノをその者に感じた。
部屋から出ることが許されていない、いや、この王子の力があればいつでも出ることはできるのだけれども、それをすることを今まで考えたことがなかった。
しないはずだった。
それなのに。
『見つけた、僕の花嫁』
我慢できなかった。
幼さからからかもしれない。
その気配を逃したくなくて、つい、声をかけてしまった。そして彼女を逃さないように、戻ってくるように、自分の隣で笑っていてくれることを祈るように、一方的な力を送ってしまった。
その力は王子の性質からだろうか、呪いの力に他ならなかった。
そんなことは当の本人は知る由もない。
花嫁とした彼女がいつ戻ってきてくれるか、胸を躍らせて自室のベッドに飛び込み、その時を待っていた。
結論、残念なことにその時は、来なかった。送った力がそのままどころか増幅されて王子の元に戻ってきた。祓うために使ったテミスの力が上乗せされていたのだから、そうなるだろう。
油断からか、もろにそれを受けた王子は一週間生死の境を彷徨った。
目覚めたときはさすがに前王妃と前王弟も安堵した。接することなく傀儡とすることを目的としていたからだ。
その目的は永遠にかなうことはないのだけれども。
「ああ、清々しい朝だ。私が3歳であったから断られたのだろうな。恥ずかしがり屋さんなのかな?手始めにこの国を素晴らしい国にして、彼女に認めてもらおう」
そこに居るのは次期オイスター王。
ちょっとませた、親の愛を受けたことのない3歳児ではない、別のナニカだった。
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