第351話 バナクコート深(5)
外から問題が起きたような波動を感じた。
これは間違いなく、私の遺伝子に連なる波動。
しかも負の波動。
テミスとか言う、私の孫と似た気配のする者が、何かしらの干渉を受けたようだ。
まるで私のように。
まるで私のように。
◆
「何があったの?!」
悲鳴の元に駆け付けると、そこにはシアラさんの姿はなかった。日本的な言い方を言うと「地縛霊」に近い、土地に縛られた存在であるというのに、しかも、それなりの力を持つ存在だというのに、その形が跡形もなくなった。
「もしかして自分が変に呪われたから……」
「それはしかたないとして、それもノリさんがきれいさっぱり欠片も残さずつながりを解いたんですよね?!」
「もちろん、きれいさっぱり。間違いなく」
「もしかして、呪いの余波で祓われたとか?!」
「何ですかその謎理論。うい、何もしてないですよ。あれですか?呪いと呪いをかけ合わせてプラスになって祓われた?いや、そんなまさか」
なにその考え、掛け算か。
『そうかそうか。そなたら、私が居なくなって寂しいとか?』
「道半ばで倒れたというのに、悲願も達成しないで……ってええ?!」
『嬉しいぞ。そもそも意識を取り戻したのも最近であるし?そなたらとの付き合いも短いというのに?』
「何ですかその姿は」
「……これ、土地から離れて自由になっていますね」
『フフフ……そなたらがいない間にな、ボディを造ったのだ。しかも気配も偽装できているようだな?』
部屋の片隅、ドールハウスに見慣れないドールが1体、増えている。ストロベリーブロンドの、眼がくりくりとした、60センチ大のドールが。
『そなたらが仕事にとりかかっている最中暇でな、こう、私の力という名の材料はあるので……』
「造ったと」
『そうよ、その通り。ただ、私一人の力で魂のありどころを変えることができなかったので、扉に細工をしたのだ。扉を開けた者、まあ、だれでも良かったのだが、魔力をちょっと拝借して起動スイッチに……そうしたら思いのほかビリっとして驚いただけよ』
「確かにこの屋敷自体が貴方に紐づいてはいますが?」
『この部屋だけを支配領域としてはいるのだがな、延ばすことは可能ではある』
「で、私の力を拝借したと。でもそんな負荷は……」
『起動する一時のブースト程度だからな』
私にドールのエンジンスターターを押させたと。
『それはそうと、なんとなくボディを手に入れたとお思いなさるな?予想するにこの屋敷、我々が滞在したままぼやっとしているとあと1時間程度で我が孫の手による何かが起こることが予測される。なので早速だが、私を連れてこの屋敷を引き払い安全な場所に避難することをお勧めする』
「は?!ノリさんそれって?!」
「ああ、可能性はあるね?ここはそもそも王宮から監視されている物件。何がどうなってもおかしくはないね」
「えええ……でも逃げたら追われたり指名手配とかになったりは?」
「そこは、シラタマ王の縁者と認識されているからさすがに問題ないことが予測されますね。オレだったら、商人の売り物を人ごとすべて我が物にしようとして失敗したから、指名手配ですとはできないでしょう。消すことはあっても」
「消……!!!」
まあ、この力こそパワーなパーティーに手をだしたところで誰一人として消えることはないだろうけれど、引き払う前に屋敷が潰れて損害賠償請求とかされたくない。
「よし。みんな、荷物は?」
「いつでも出れる」
「わかった、じゃあ、【無限フリースペース】のウララさんの居た部屋、そこにシアラさんとテミスは入って」
「ぼくも一緒に居ていい?」
「じゃあ天くんとういも一緒にいて」
ワンッと元気にういが返事をする。任せとけ、と言わんばかりの。
そこから私とアオくん、イオくん、ノリさんは物件を引き払うために鍵を返しに行ったら驚かれた。それはそうだろう、多分だけど、面倒くさくあと腐れがなさそうな冒険者をあの屋敷に案内し、正気を失っていたシアラさんにぶつけていたわけだから。
そして驚くついでにあれだけ荒れ放題だった屋敷を綺麗にしたことを褒められた。ギルド管理物件は基本現状維持、清掃は歓迎、破壊した場合原状回復の魔術がかけられている。加えて損害があれば修理費がギルド経由で請求されるといった話を後付けで聞かされ、「今回の精算はありませんね」と付け加えたように言われたことによりかなり微妙な気分となった。いや、宿泊約款に書いてあったんだろうけど。
「じゃあ……どうする?これから」
「とりあえず、次の目的地へ」
どこでどう聞かれているかわからないので、目的地は特に言わず、ハギとフジの待つ家へ転移した。
◆
3歳の頭脳、手足の長さ、力、魔力量は十分とはいえない。ただ、この世界の知識はどこからか、頭に流れ込んでくるから、年齢の割にはかなり大人びた思考を巡らせることができる。
頭の中に年齢なりの自分はいない、別のナニカが思考しているような状態。
この国の現状は、母上と叔父上が越権ともいえる力で支配している。おばあ様と父上は政治的な敗北をし、その二人の計略により命を落としたものと認識している。
自分が魔を統べる者かどうか、それは、よくわからない。
この世界に独りかと思っていたのに、言語が通じる同族を初めて認知して浮かれて失敗し、逃げられたたこともわかっている。呪いというなの支配も、支配が外された場合の保険のマーキングさえ外された。ついでに言うと呪いすら返された。
誰か勘が良い者がいたのか、屋敷も引き払われ、王族とはいえギルドシステムに介入することができる権限発動することもできない、要するに追う事もできなくなった。
霊となってしまったとはいえ、おばあ様もいることだし、あそこはそのままにしておくか。
「城に滞在していたあの商人、接触しておくべきだったなあ。そのうちまたチャンスはあるか。お母さまも叔父上も本当に残念すぎる」
幽閉に近い子ども部屋。鏡に向かい、伏目がちに一人ニッコリと笑う。
金色の髪、一見茶色、光のあたり方により紅い眼を持つ。
次期オイスター王となる少年。
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