黒い者のはなし 6
あまりにも多いパートナーの立候補者に不思議に思ったが、自分が思っている以上にロイ・ナーチルという名前は貴族にとってみれば使える物らしい。
強烈な家名ばかりが名を連ねているリストを手に取りため息をついた。パートナーとなったら最後、おそらく婚約までは強引に進められそうなところばかり。
私は神殿を降りるまでは結婚はしないと決めているし、何より貴族との婚姻など絶対にありえない。
そんな面倒なことをするくらいなら魔力を全く使わなくても、田舎で農作業をして暮らす方がよっぽど良いと思えてしまう。
そこで浮かんだのが異界人の彼女だった。彼女なら自ら庶民にと望んだ方だし、特殊な立ち位置は私と並んでもおかしくないだろう。
そう考えてさっそく彼女の元へ向かう事にした。ドレス姿のノザキ様と隣あえる事を想像するだけで口が緩みそうになるのだから私情を挟みまくっていることは重々承知だ。
「わ、わっ、わかりました!!お受けいたします!なので頭を上げてくださいいい」
ノザキ様がすぐ側にしゃがみこみ、私の頭をあげさせようと必死になって手を振っている。
ふわりと彼女の甘い香りがして、バクバクと胸が痛いくらいに鳴っている。これほど近づいたことなんてほとんどない。
しかし、あわあわと慌てている彼女も大変愛らしいなと、こんな状況にも関わらず思ってしまう自分は意外と余裕があるなと感心した。
「ねえ、ロイはノザキが好きなの?」
それは、ノザキ様の部屋から退出してすぐにアリアから放たれた言葉だった。
「好き、ですか…考えた事がありませんね、愛らしい方だとは日頃から思っていますが」
周りに人がいない事を確認して口を開けば、アリアはよく分からない、という風に首をかしげた。
おそらく彼女に対するこの感情を一般的な言葉に直すのならアリアが言うような事になるのだろうと理解はしているが、そう一言で片付けて良いものなのか分からない。この数年で積み上がった気持ちはとてつもなく重量があるように思えるから。
「それが好きなんじゃないの?」
「私はそう言う方面にはとても疎いので、よく分かりません」
「じゃあ、ノザキに誰か好い人がいたらどうするの?」
アリアが言った言葉にズクンと胸が痛む。確かにその可能性は大いにある。もう彼女も25歳だ、既にそう言った話があってもおかしくはない。現に先ほども小隊長と何やら2人きりで話をしていたようだし、以前から仲が良いとは思っていたがもっと濃い間柄であるかもしれない。
自分が彼女に接する事に精一杯であまり深く考えたことは無かったが、あの愛らしい笑顔をもっと蕩けさせる男がいるのではないかと考えるだけで、カッと頭に血がのぼる。しかし同時に、私がそんなことに口を出す資格など無いのだと理解し一気に血の気が引いていった。
「そういった話は聞いたことがありませんので…」
「ああ、安心して!ノザキには今そんな人いないから!ああ、なんて酷い顔になっちゃったの?!私が悪かったわ!ごめんなさい!」
おそらく血の色が抜け落ちた顔色をしているのだろう。アリアは私の顔をペタペタと触り倒し最終的には温めるように擦り出した。
ノザキ様のプライベートを何故この精霊が把握しているのかはさておき、彼女に好い人がいないことにほっと息をつく。
「いえ、いいのです。彼女を他に渡したく無いという気持ちを自覚できたので」
「動揺の仕方が重い…」
「なにか?」
「なんでもないわよ」
ブツブツと呟くアリアを肩に乗せて、夜会の準備に取り掛かるため騎士団へと急いだ。




