黒い者のはなし 5
とにかく精霊が見えるようになったことについて、陛下へ報告に行かなければいけない。神官長や神殿の者にはそれからだ。
簡単に身支度を済ませて、緊急ということで王城へ本日中の謁見を申請した。
王城へと向かう間、アリアは私の頭や肩に飛び移っては何が楽しいのかケラケラと笑っている。
「これから、精霊が見えるようになった旨を陛下にお伝えしようと思います」
「陛下ってあれよね?ロイにしつこく夜会に行けって言ってるおっさんよね?」
「そうです」
「ロイ鬱陶しそうだし嫌がらせしよっか?」
「駄目です、大人しくしていてください」
ずっと私の近くにいたというのはどうも事実らしい。
国の長に嫌がらせなど、私の首がはねるのでやめていただきたい。
軽くため息をついているとアリアは首を傾げてこちらの様子をうかがっていた。
「おい、ナーチルよ、わしはとてつもなく忙しいんじゃが」
「申し訳ありません陛下、しかしノザキ様の所へ行く程にはお仕事が詰まっていないように見えます」
玉座に偉そうに座っている陛下が、先ほどまでノザキ様の事務室にいた事は知っている。
様子を見にいっているという口実で彼女に話を聞いて欲しいだけなのも知っている。
アリアは私の肩に止まって退屈そうに話を聞いていたが、陛下の眉間に皺が寄った時はケラケラと笑いながらはしゃいでいた。
「ぐ…ほら、用事とは何じゃ!」
「実は…」
今朝から今までの出来事をかいつまんで説明すると、陛下はみるみるうちに目を見開き驚きの表情へと変わっていった。
「おぬし…ただでさえバケモノ並の魔力であるのに、さらに人間離れしてしまったな…」
「いや、本当にそうだと思います」
陛下がここまで驚く程、精霊の力が使える者はいない。陛下の言い方は失礼極まりないが、事実なのだから怒る気にもなれないでいた。
アリアは、バケモノ?と呟きながら私の周りを飛んでいる。
やめなさい。
陛下は少し考えるそぶりを見せて、軽いため息をついて言った。
「やはりおぬしに隣国へ行ってもらうしか無さそうだな」
「そうなりますか…」
「なんじゃ、事情は把握済みか?」
ニヤニヤと悪どい顔に変わった陛下はそれなら話が早い、とパンと切り替えるように手を叩いた。
「まあ、でもまずは夜会からだ。スナイデルの者を何人か招待しておくからの、交流を持つといい」
「はあ…」
「そうと決まればパートナーを選んでおけ?おぬしに見合うパートナーをな」
私に見合う者などいるのだろうか…と知り合いの貴族の娘や神殿の者達を思い浮かべる。
私の立ち位置は非常に微妙である。副神官長という肩書きのおかげで貴族出身でもないのに、神殿の中では偉そうに指示を出してはいるが一歩外へ出ると私の地位なんてものは一瞬にして消え去るほど儚いものであることも認識している。
特に夜会においては、参加者ほとんどが社交を肝にする貴族ばかりなのだから神殿に篭っている私がどう見られるかは分かりきっている。
パートナーには肩身の狭い思いをさせてしまうな。
そんな思いが顔に出ていたのか、陛下は眉をピクリと上下させた。
「なんだおぬし、自分の立ち位置が分かっておらんようじゃな?」
「はい?」
「今のところ独身の中ではトップクラスの売り物件なんじゃぞ?妃が言うておったから間違いない。なんせ国一番、いやおそらく世界で一番の魔術使いじゃからな。それにおぬしは悔しいが見目も良いからの」
声を掛ければ誰でも喜んでパートナーになってくれるじゃろ、そう何故か得意げに言い放った陛下を鼻で笑って退出したが、その数日後、頼んでもいないのに貴族から私のパートナーになりたいとの申請が山のように舞い込んできたのを見ると、どうやら陛下のいうとおりだったようだと少しうんざりとした。




