黒い者のはなし 4
朝いつもの様に目を覚まして、ふと部屋が明るい事に気付いた。いつもなら無駄に厚いカーテンが日光を遮り部屋の中は真っ暗なはずだ。
昨夜閉め忘れたかとベッドから起き上がり窓の方へ寄っていくと、高い子供のような声がどこからか聞こえる。
「はあー良い天気ねえー、こんな日はお弁当もってハイキングとか行きたいわあー」
なんとものん気そうなその声は、窓の外からにしてはハッキリと聞こえ過ぎるし、第一ここは4階だ。聞こえる訳がない。
部屋の中に誰かいるという可能性に思い当たり警戒してすぐに魔術が発動できる態勢を取った。
「え、なにこれ、何この殺気!もしかしてあたしの事見えてる!?」
そうわめきながら私の前にずい、と現れたのは手のひら程の大きさのヒトだった。
「はじめまして!では無いけどね!やーっとあたしのこと見えるようになったのねー」
「…」
「なに?あたしのこと知らない訳じゃないでしょー?」
少女の姿をした《それ》は頬を膨らませて腰に手を当てている。
知らないわけじゃない。文献にもたくさんその姿は残っている。それらがヒトのように多種多用な姿をしているのも理解している、が。
「風の精霊、ですか?」
「そうでーす!風の精霊アリアちゃんでーす!言っとくけど、あんたが赤ん坊の頃から近くにいたんだからねー」
周りに小さな竜巻が数個侍っている精霊アリアは私の眉間に指を指して、ふんぞりかえっている。
精霊が見える見えないは生まれた時から決まっている、いわば才能だ。なぜこの歳になって、と考えたがもしや5歳の時の事件が原因かもしれない。
「あんたがあたしのこと見えなくなった時はどうしようかと思ったわよ!まあ力が暴走しちゃった時はあたし達止められなくて申し訳なかったけど…姿見えないんだから謝ろうにも謝れないし!」
「では、私は産まれながらにして精霊が見えていた、と」
「あ、そっか記憶も無いんだったわね!見えるだけじゃないわよ!あんためちゃくそあたし達に気に入られてたから5歳まで精霊の力バンバンに貸してたんだから!」
ふらり、と目眩のような錯覚を覚えた。
ひとまず、起き上がったベッドへ再度座り直し現状を整理することにした。
アリアは興奮しているのか、ひっきりなしに5歳までの私と何をやらかしていたのかを話してくる。
「あれは傑作だったわよ!確か隣の家の子だったけど、あんたに嫌がらせした仕返しに池に落としてやったんだから!」
「……」
「あとはあれよね!よくやったのは村の近くにあった石像を飛ばして遊んだわよねー」
「……あの、ちょっと静かにしてもらえますか…」
とんだ悪ガキだったらしい私は、この風の精霊と結託して実に危ない遊びをしていたようだ。
心なしか頭痛までしてきてこめかみを押さえる私を不思議そうに見ている精霊はさきほどよりも興奮が治まってきたのか、私の肩で休んでいる。
「なーによう、久しぶりに会えたんだからお喋りしたいじゃない!」
ぷんぷんと音が出てきそうなほど感情が分かりやすいのはアリアの特性なのだろうか。
まあ分かりやすいのは良いことだとは思うが。
ふんふんと今度はご機嫌に鼻歌を歌いだした彼女に、これからの事を考えて気が遠くなった。




