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第八話その2

「発動者か…でもどこに…」

ハリスは辺りを見回した。どの方向を向いても同じように見える…。

「それを探すのが貴方の仕事よ、勿論私も護りながらね。さぁ、歩いた歩いた」

姫様に押されるようにして、ハリスは歩き始めた。道に迷わないように、何となく嫌だったが樹に剣で目印をつけながら進んでいく…

歩いている間、姫様は色々な話をしてくれた。メイドがこんな話をしていただとか、こう見えても国政にはきちんと参加して、この国の行く末を決めているとか、今後の施設建設の話、貧民街の解決案など…

そうしているうちに何分経ったのか。

「そう言えば、他のみんなにも訊いているんだけどね?…危険をおかしてまで、どうして冒険者は冒険をするのかしら?」

不意に姫様はそんな事を言った。

「冒険をする理由…か」ハリスは歩きながら考えた「人によってお金が欲しいとか、仲間と何かがやりたいとか、考える事は違うと思うけど…僕は【まだ見た事の無い】物を探してる感じかな」

「まだ見た事の無い物?それなら中央区の国立図書館で済むんじゃないの?」

「それはどうかな」ハリスは首を振る「確かに読書は好きだけど、現地に行かなきゃ味わえない気分というのも有るよ」

「ふぅん…」姫様は軽く呟いた「私が退屈で城を抜け出すのと似てるのかしら?」

「それは…どうなんだろ」

ハリスは苦笑した。

それから更に何時間経ったのだろうか。

二人は黙々とまだ歩き続けていた。

話題も無くなり、額に浮く汗を拭いながら、後ろについてくる姫様を確認する。

「…大丈夫?」

「平気よ…体力には自信あるもの」姫様はそう言ったが、必死に息を落ち着かせようとしている姿は見てすぐに分かった。

「休憩しようか…?」

「そうね」姫様は道をそれ、近くに転がっているちょうどいい大木に腰かける。

ハリスは姫様から軽くクッキーなどを貰ってから姫様の隣に腰かけた。

「ふぅ…」ハリスはため息をつくと、隣の姫様に話しかけた「やっぱりねじ曲がった空間の中に僕達はいるみたいだね。目印に刀傷を付けた木々がたまにあって、それを避けるようにして進んではいるんだけど…大丈夫、この方法なら必ず出口が見つかるはず…だから…」

「頼りにしてるわよ、ナイトさん」

肩で息をしながら姫様は言う。

「うん」ハリスはクッキーをかじりながら言う「でも、姫さ…ティラーはよくその若さでメルハの姫様なんて責任のある立場にいるよね。もし僕なら慌てて緊張して、毎日胃の痛い思いをしそうだよ…」

「んー…」姫様は考え込む「そういうものなのかしら?私は気にしてないわよ。そりゃあ確かに窮屈な生活に嫌気が差して、こんな風に抜け出しはするけれど…。」

「あはは…確かに窮屈そうだね」

「うん」姫様はうつむいた「…でもね、私…平和な人々の生活を見るのが好きなの。皆決まった時間に各々が仕事をしたり、冒険に行ったり…露店がある商業区や冒険者の集まる冒険者の酒場…四方を敵地に囲まれ、一週間としないうちに敵が攻めてくる。メルハはそんな危険な街なのに…普段はそんな事を気にもしてないみたいにね…皆、笑うんだ」

「ティラー…」

「この平和な国を作ってくれたのは他でもない、私のおじいさま。おじいさまの意志を受け継いだからには、他の人々に任せないで私がしっかりやらなくちゃ。そう思って今まで頑張って来たんだ…私だって、やるときはやるのよ?」

「…そうだね。そんな強い意志を持ったティラーが、こんな場所で立ち止まる訳にはいかないよね!」

「えぇ…絶対に抜け出して見せるわ」

しかし…

それから歩けど歩けど…

全く風景に変化は無かった。

ハリスはだんだん、刀傷をつけていない木に傷をつける作業になってしまっただけのこの状態に疲弊してきていた。

「うっ…」

ハリスはふらつき、剣を地面に刺してなんとか踏みとどまる。

「ハリスさん…」姫様も限界のようだった「もういいわ…歩いても駄目みたい。何か別の事を考えましょ?」

「そうだね…」

ハリスは近くの木にもたれ掛かると、ずるずると崩れるように座った。

もう足がパンパンで、棒のような状態を通り越して…感覚が無かった。

「ハリスさん…ごめんなさい」姫様が顔を俯かせてハリスの側に座る「私の…私のわがままのせいで…こんなに…」

「大丈夫」ハリスは息を荒くしながら言った「でも…そうだね、発動者はどうやら歩いて見つかるものじゃ無いみたいだ…。ティラーの言った通り、何か他に抜け道がないか探そう…」


「…いいの」

「え?」ハリスは聞き返した。

「もういいの」ティラーは顔を上げた。幼いながらも大人で、国の未来を託されているという責任を背負った姫様の姿は…そこには無かった「私たち…もうここから出られないんだわ…こんな事もうやめよう?そうよ、出れないんだもの。意味のない努力をしたって意味ないわ」

「そんな…諦めるにはまだ」

「早くない…早くないよ!」ティラーは泣きながら叫んだ「これ以上私の為に傷つかないで!お願いだから…」

「ティラー…」

「もう食糧もないの…私達の意識の抜けた体がどうなっているのか分からない。きっと誰かがあの場所から体を連れていったんだわ…そうに違いない。だからもうこの場所から出ることは出来ないの!」

「…確認する手段がないよ」ハリスは立ち上がった「僕は諦めない。ティラーの為に傷はつかないよ…これは僕自身の責任でもあるんだ…だからそういう風に考えるのはよそう。ティラーは休んでいていいよ…突破口は僕が見つけるから」

「いや!置いていかないで!」ティラーはハリスの服を掴んだ「ハリスさん…お願いだから…ここにいてよ…。」

「…」ハリスは座り直した。

「ありがとう…」涙を拭きながらティラーは呟くように言う「ハリスさん」

「うん。どうしたんだい?」

「私ね…ひとつだけ、死ぬ前にやっておきたいなって思ってた事があるの」

「ティラー、それは……ッ!?」

ティラーはハリスの唇を塞いだ。

いきなりの事で、ハリスは動きを止めてしまう。しばらく長い時間が過ぎ、ようやくティラーはハリスから顔を離した。

「…あーあ、やっちゃった」

涙でぐしゃぐしゃになりながらも、必死にいつものいたずらっぽい笑みを浮かべようとするティラー。

「ティラー!君は…なんてことを…」

「そういえばハリスさんは結婚してたんだもんね…嫌だった…?」

「そう言う問題じゃ…」ハリスは立ち上がろうとするが、ティラーに乱暴に押し倒される「うわっ…いたたたたっ!?」

「ハリスさん…私の物になってよ」

もの凄い力だった…。

あんな鉄球を操るほどの力を持っているのだ…当然と言えば当然だったが。

ハリスは指一本すら動かせず、鎧を脱がせられるのを見ているしか出来なかった。

「ダメだっ!ティラー!落ち着いてっ…自暴自棄になったら、君の国民達はどうなるんだよ!?ここから脱出するんだろ…一緒に…脱出するって言ってたじゃないか」

「うるさいっ!」ティラーは叫んだ「もう嫌よ…人が傷つくのを見るのは沢山なの!私にはあの国は重すぎるのよっ!…どうせ今から何かを閃いた所で、私達はもう何日も持つわけがない…ここで二人共死んじゃうのよ!だから…」

ティラーはハリスを見ていた。その目には少しの戸惑いと、この状況に耐えきれなくなった暴走した彼女の狂気の色が混ざりあって見えるようだった。

「ティラー、ここは夢の檻…夢の中じゃないかっ!空腹の苦しみはあれど、誰か助けが来ていればあと何日かは持つ筈なんだ!だから…諦めちゃダメなんだ!」

「あと何日もこんな状態が続いたら…」ティラーは顔を覆った「ダメよ…こんなに私は捻じ曲がってしまった…こんな姿、皆の前で見せるぐらいなら、いっそここで二人で死んだ方がマシなのよ!」

「君は…」ハリスは精一杯に叫ぶ「この程度の事ですぐに信念を曲げてしまう…そんな奴だったのかっ!見損なったよ!君のおじいさんは何のために…君にメルハを任せたんだよっ!」

「ハリスさん…」ティラーは虚ろな目でハリスを見下ろした「それはっ…」

「どんな状況だって国民みんなの事を考えてくれた…膨大な数の意見箱に入った手紙も、事務官に任せないで全て目を通して…可能な限り全てを叶えてくれていた…。あの優しい王女殿下が何てこった…王族のトラップにまんまと引っ掛かって、道連れにしたただの冒険者と駆け落ちとか?おじいさまが見たら嘆かれるだろうね」

「ハリスさん…あなた…」ティラーはハリスの胸ぐらを掴んだ「わ…私の事が嫌いなのね…?嫌いだからそんなに酷いこと言うのね…でぇいっ!」

スパアアン!

…頭が吹き飛んだかと思った。

ハリスは平手打ちを食らった事にしばらく気づかず、呆然としている。

「私はっ…」ティラーは泣きじゃくりながら叫ぶ「私は今まで頑張って来たじゃない!皆が笑って暮らせる場所を作ろうと…必死にやって来たじゃない!なのに…」

…聞く耳は持たないか…まぁ、僕も喋るのはあまり得意じゃないし…。

ハリスはこの一瞬の隙に腰から剣を抜くと、自らの首に剣を置いた。

「ティラー、これ以上やるなら僕は先に死ぬ事にするよ」

「…!!」ティラーは恐る恐る剣に手を伸ばした「やっ…何のつもり…?」

「触るな!」ハリスは叫んだ。

ティラーはビクッと手を引っ込める。

首筋がビリビリと痛む。

少し喉を切ってしまったようだ。

「私はっ…」ティラーはハリスの体からようやく自分の体をどける「最期の最期まで…自分のわがままを我慢しなくちゃいけないのね…ずるいよ、こんなの」

「ティラー…」ハリスは立ち上がると、ティラーを見下ろした。

「…分かったわ。王女なんて立場はただの飾りで、私自身は何もできない」ティラーは立ち上がる「悔しいよ…くやしい…うう…。ならいっそ…もう怪我しても知らないから!こうするしか…ないのッ!」

目の前に鉄球が落ちてくる。

「うわぁっ!」ハリスは何とか回避すると、ティラーを睨んだ「それで一体、どうする気なんだい?」

「どうせ夢だもの…どうせ…」

ティラーはぶつぶつと呟きながらハリスの方へ歩いてくる。

…駄目か。分かってたけど…

「…たとえ夢の中だとしても、僕は冒険者だ。冒険者は自由だ…誰かに縛られるのは沢山なんだよ」ハリスはそう言うと、精神を集中した「君には言葉が通じない…だから、これで目を覚ましてくれ…いくよっ![スピリットリンク]!」

「…っ!?」とすっ、と軽い音と共に、突き出した腕がティラーの胸の中に光を放ちながら入っていく「ぁぁぁ……?」

前に深刻な状態のラミエやラフィーリアに対して[バイタルリンク]という術をかけて生命力を共有したことがある。

[スピリットリンク]はその精神力バージョンであると考えていい。ただし、精神力の共有というのは、お互いの心を共有するということと同義で、失敗すれば人格の崩壊もあり得る危険な魔法だ。

ハリスはあえてそれに賭けた。

やがて…ハリスの心に、何かの情景が浮かんできた…。

ここは…メルハの城の中だろうか?

【続く】


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