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第七話その2

それは戦いと呼ぶにはあまりにも一方的なものだった。

ブレードはまるで黒い風のように素早い身のこなしで辺りのクロームを根絶やしにした。相手が鎧を着ていようが関係ない。

速く、それでいて大剣のように一撃で相手を倒す攻撃力を持っている。

「消えろ…邪魔だぁ!」ブレードは野獣のように叫び、クロームを薙ぎ倒しながら西の警備塔へ駆け抜けていった。

「私達も追わないと…うぅわぁっ!」

ラミエがブレードを追いかけようと足を踏み出した途端、何かの爆発に巻き込まれてハリス達の方へ吹き飛んだ。

「そうはさせませんよ…」

聞き覚えのある声が響いた。

「ファトマノ…」よろよろと立ち上がりながらラミエはかつての友人を睨んだ。

ファトマノは金糸で装飾された水色の法衣を身に纏い、巨大な盾とソードメイスで武装していた。

戦闘値は…6800。

「ちっ…メースさんぐらいあるじゃねぇか…」スラッシュは舌打ちをした。

「まぁ当然ね」ファトマノは髪をかき上げる「だって…その人を倒したんだから」

「ファトマノ!貴方は…!」

ラミエが砲身をファトマノに向ける。

「貴方が悪いのよ?お姉様」ファトマノは冷ややかに言った「貴方は間違った方向に歩を進め、そのせいで死ぬことになる」

「間違った方向に進んでいるのは…貴方よファトマノ!」

「あはははは!」ファトマノは狂ったように笑いだした「人間というのはとても弱いんですね…こんな下等生物に我々クロームは従ってきたんですか…迫害されてきたんですか!お姉様、今なら間に合いますよ?私と一緒にそこにいる全員を殺してください。…出来ますよね?」

「なっ…!」

ラミエはハリス達の顔を見つめる。

「人間という生き物は確かに我々を作り出した恩人かもしれません。でも、【作ってやった】から、何でもしていいんですか?我々はどうして人間と同じ…いえ、それ以上の心を持っているのに人間から蔑むような目で見られなければならないのですか?ねぇ、お姉様!?」

「そんな事ない…メルハは全てを受け入れてくれる…私だって最初は変な目で見られたわ…でも、本当は皆良い人なのよ!私はラッキーだったんじゃない…今ならメルハのどこにいても変な目で見られたりはしないわ!今回の同盟の話だって、こんなことがなければ…!」

「一瞬…実は私も同盟で済むならそれでもいいか…と思っていました」ファトマノは目を閉じた「でも、先ほどこの国の王たる陛下に謁見した時に…同盟の条件を提示されました…何だったと思いますか?」

ハリス達は呆然とファトマノの話を聞いていた。だが、ハリスが目を動かすと、視線の先にナカノがいた。

確かナカノは東の魔導兵器を操縦していたはず…。

「クロームのデータが攻め込んできた時には…その防衛戦に参加しろ、しかも最前線で功績を上げよ、と言ったんです」ファトマノは続ける「そもそもあのデータのクローム達は実は欠陥品の自我を持った、我々の同胞なのです…言うことを聞かないとはいえ、どうして同胞殺しをさせるんでしょうか?しかも最前線で?彼らは何を聞いていたんでしょうね。我々【C・F】は人間と【対等】な交流を望んだのに、どうしてその対価として人間たちの駒に成り下がらなければならないのです?」

「それは…」ラミエは口ごもる。

「我々はある人に【力】を授かりました。ここ数年に渡るデータのクローム達の侵攻は今この時の為の布石…復活魔法が封印されてから衰弱化したこの国を滅ぼし、選ばれし者が治める豊かな国を作るのです」

「よく分かんなかったが、どうやら何を言っても無駄みてぇだな…」スラッシュは鎌を握り直す「ラミエ…どうするんだ?」

「ファトマノ…私は今、ブレードの親衛隊として皆と対等な扱いを受けているからこそここにいるのよ…貴方には従えない…たとえ本当は間違っていたとしても、今のクロームのあり方と仲間を…裏切るなんてこと出来はしないわ!」

「可哀想なお姉様…完全に人間に洗脳されてしまったんですね…」ファトマノはソードメイスを振り上げた。「お話はここまでにしましょう…行きますよ!」

「散開・D配置!」

スラッシュがそう叫ぶと、ランサーをアニの元に運び終えたアーチャーとラミエ、そしてラフィーリアは走り出した。

基本的な戦術については前にスラッシュから聞いた事があるハリスも素早く左側に回り込みながらナカノを探す。

…いない…。

さっきのは身間違いだったのだろうか?

「[ロックグレイヴ]!」

ファトマノはそう叫んでメイスを地面に叩き付ける。

すると突然辺りの地面が隆起した!近くに建てられた何かの屋台が上空に放り投げられる。つまりこの魔法は…当たれば上空からメルハを一望してから、落ちて死んでしまうことを狙った対人魔法。

ハリスは足を取られ、大きく前転して直撃を避ける。それにしても恐ろしい威力だ。あの虫も殺さない優しい少女とは思えない火力の魔法を撃ってくる。

「うらぁぁぁ!」

スラッシュが叫びながらファトマノに斬りかかった。ファトマノは冷静に盾で受け流すと、素早くメイスを振り抜く。

「遅い…ですよ?[ガルムバスター]」

「うわあぁぁっ!」

スラッシュは重い一撃をまともに食らい吹き飛んだ。地面に彼の鎌が突き刺さる。

「スラッシュ…!?よくも…っ![鳳羽・四天弓]!」

アーチャーは横飛びに矢を放つ。

その矢は巨大な鳥のオーラを纏い、ファトマノに向かって飛んでいく…ちなみにあまりの早さにハリスの目にはただオーラを纏った矢が飛んでいったように見えた。

だがファトマノは器用に盾を斜めの角度にして矢を受け流すと、アーチャーに向けて駆け出す。

本来後衛であるアーチャーは普通なら後ろに下がるところだが、彼女の後ろには負傷したスラッシュがいた。

「させません!」アーチャーは短剣を抜き放つと、ファトマノのソードメイスの一撃を受け止める。「ぐうっ…!!」

「そう言えば闇の民って…たかが魔剣と契約しただけで、元は何も出来ない人間なのですよね?ほら?どうですか?だんだん押されてるでしょう…あなた方とは違って我々は優秀なのです。この世界は常に優秀で強いものが生き残ることが許される…」

「アーチャーから離れろっ!」ハリスは横からファトマノに斬りかかろうとする。ファトマノはメイスをくるりと回すと、アーチャーをハリスの方へ突き飛ばした。

「きゃあっ」

ハリスはアーチャーを受け止め、ファトマノに剣を向ける。

「あら…てっきり間違って仲間を斬って面白い顔を晒すかと思ったんですが」

「ファトマノ…君は…!」

「ハリス君、でしたっけ?残念ながらもう我々は後戻りすることが出来ません。あと少しで警備搭とあらかじめ調べておいた13ヶ所の武器庫…それに商店のほとんどの制圧が完了します。そうしたら、ここの王たるハウスビッツ三世テラー殿下に降伏勧告を呼び掛けます…そして彼らが降伏を受け入れたならあなた方だけは生かしておいてあげますよ?」

「そんな話を信じろと?」アニはピストルでファトマノを狙いながら言った「残念だけど、そういう話をする人って約束を守った試しがないのがお約束よ?」

「うふふっ…欲に駆られた人間とは違い、我々は誠実なのですよ?」

「[デビル・リボルバー]!」

シェイダーが背後から射撃を仕掛ける。

彼は双銃使いだ。先ほどからファトマノの背後を常に狙っているようだった。

「くっ…」ファトマノは盾をそちらに向ける。そして足元にあるものに気づいた。

「はい、こんにちは…[ユーノウアンラッキー]!!」

ラフィーリアは気配を消してファトマノの足元に潜んでいたのだ。

立ち上がる勢いを利用してファトマノの盾を弾く。そのまま体躯を捻って強力な一撃を叩き込む。

「[クロストリック]!」絶妙のタイミングでアニはスキルを挟み込んだ。

「うわあっ!…ぐうぅ…」

二倍効果は凄まじい威力だったらしい。

ファトマノから余裕の表情が消えた。

メイスを地面に突き刺し、般若のような顔でラフィーリアを睨む。

「スラッシュさん、スラッシュさん!何でだんだん目を閉じていくんですかっ…開けて…しっかり気を持って下さい…」

アーチャーがスラッシュの手当てをしている所を背にハリスは剣を構える。

「たかが敵は七人…無力化したのが一人…あと六人…」ファトマノは盾を持ち直す「もう…容赦しませんよ!」

「[ブレイドバースト・アクア]!」ハリスは水を剣に纏わせ、ファトマノの前に躍り出た「[アクアンシールド]!」

「[ガルムバスター]!」

ファトマノは水の盾を粉砕する。

「…[ブレイドバースト・ライトニング]…どうだっ!」

盾を破壊したことにより水浸しになったファトマノにハリスは電流を流す。

「ううっ…」

ファトマノは一瞬動きを止めた。

「[クロストリック]」

アニが魔力弾を放つ。

「[デッドマンズ・ララバイ]」

地面を抉るようにラフィーリアが斬り上げの一撃をファトマノに叩き込んだ。

「くそっ…[ファイア・ウォール]!」

「わあああっ!」

ラフィーリアが炎に包まれた。

「まず一人っ…[ガルムバスター]!」

「させるか…[ブレイドバースト・アクア]![アクアンシールド]!」

ハリスはラフィーリアの前に水の盾を再び設置した。ファトマノは容赦なく盾を叩き壊すが、それによりラフィーリアの燃えていた服が鎮火する。

「お前…お前がリーダーかああっ!」ファトマノはハリスに突っ込んできた。「認めない…認めないぞ…人間風情にこの私がああぁぁっ!!!」

「[デス・ナイトパレード]」シェイダーが突っ込むファトマノを蜂の巣にするが、ファトマノの勢いは止まらない。

ハリスは剣を構え、ファトマノを迎え撃とうとした。

次の瞬間だった。

『よし完成』町にナカノの声が響いた。『親愛なるメルハ騎士団の諸君!ここまで時間を稼いでくれたことに感謝するよ…術式発動![電波掌握]!』

ファトマノは突然地面に突っ伏した。

「なっ…何です…こ、これはっ…」

『えー、今この町の電波を発する物全ては只今私ナカノユウが掌握しましたー。まぁクロームの皆さんはマザーコンピューターを介して伝達をしている訳だから、その中に入るよねー?』

「なっ…バカなっ…この町は端から端まで歩いて1日はかかるのですよっ…?町全体に結界を張るなんて芸当…」

「ナカノと俺でやった」西の警備塔の方向からブレードが歩いてくる。「街の要所に魔法石を配置していくという、錬金術と結界術、そして賢者の石を使ってな」

「嘘だっ…こんな…こんな場所でっ…」

ブレードはつかつかとファトマノの元へ歩いて来た。そして…赤い巨大な機械剣を掲げ…降り下ろした。

耳をつんざくチェーンソーの駆動音と、ファトマノの悲鳴が共鳴した。

「…っ!」

ハリスはあまりにも強烈なその瞬間を見てしまい、持っている剣を落とした。

「あ゛あ゛ァァァ!ああっがああっ!やめ…ギャアアア!!!」

「クロームは俺達より頑丈だからな…まだ右腕を肉を引きちぎりながらぶった斬ったぐらいじゃ死なないんだな…あぁ?」

「うあああ…あああ…」

血と涙に濡れたファトマノをブレードは冷酷な表情で見下ろす。

「お前はメースを傷つけた。…何が人間より優秀だ?こんなザマで、まだ人間サマに喧嘩売ろうってかぁ!?」

「ブレード!」

ブレードが歩いてきた方向から、真っ赤な人形が歩いてくる…いや、よく見れば全身に酷い怪我を負っている。

「メース…」

「馬鹿っ!」メースはブレードの胸ぐらを掴み、痛みに顔をひきつらせながらブレードに訴える。「もう私欲に囚われないんじゃなかったの?今の貴方はあの時みたいな一兵士じゃない。貴方には何十万という命と責任がかかっているの、分かる!?」

「…」ブレードは血走った目でメースを睨んだ「…自室に戻る。お前も手当てが終わったらすぐに来い」


「…まったく」メースはブレードが建物の影に見えなくなるまで彼を見つめ…「しょうがない弟…ね」

そう言って力尽きたように倒れた。

【続く】


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