第七話「戦場の土」その1
クロームの数は依然増え続けていた。
「くっ…これじゃあ警備塔に近づけないじゃない…!」
ラフィーリアは襲ってくるクロームを薙ぎ倒しながら叫んだ。
「ちっ…雑魚どもが…」
シェイダーも近づいてくるクロームを倒すのに手一杯らしい。
「ハリス!このままじゃ警備塔に近づくどころか、沸いてくるクロームにやられちゃうわ!」アニは火炎瓶を投げながらハリスに言う。
「スラッシュ!まずゲートを閉じた方がいいんじゃないかな!?」
ハリスはかなり先まで突っ込んでいるスラッシュに声をかけた。
少し遅れてスラッシュが答える。
「いいや、ゲート付近はそれこそ沸いてくるクロームで足の踏み場すらねぇ!…目的は東西どちらの警備塔にも、上官クラスの騎士だけが起動できる市街地用の魔導兵器がある!そいつを起動さえすれば…!」
「繋がった!」アニが通信機をハリスに渡す。ブレードとの通信を試しながら戦闘して貰っていたのだ。
ハリスは通信機をすぐに耳に当てた。
喧騒と怒号、金属の弾け合う音が響くが、ブレードの声ははっきり聞こえた。
『ハリスか!?…分かっているとは思うが面倒な事になった…まさか基地に敵が来たのか?』
「いいえ、こんな状況でスラッシュさんを一人で行かせられないと思ったので、今、東の警備塔を目指してます…あ、途中でラフィーリアとシェイダーさんとも合流できました」
『そうか…こっちも今西の警備塔を目指している所だ。ファトマノを護衛しながらだから少し手こずっているがな。…通信は繋いだままにしておく。一戦闘おきに連絡を取ること、以上』
「了解です!」ブレードとの通信を終え、辺りを見回す。どうにか歩ける道ぐらいは確保出来たらしい。
「よしっ、東の警備塔を目指すぜ!お前ら続けえっ!」
スラッシュは鎌を振り回しながら走り出した。ハリス達もそれに続く。
★
「いやぁ、こんな事態は久しぶりだね」ナカノユウは自分の事務所の席に座ってメモに何かを書きながら言った。
「ナカノさん、もう持ちませんよ!っておい、アルバートも優雅にコーヒー飲んでるんじゃねえ!ああっ!」
「やっぱり仮設住宅の防御じゃこれが限界みたいですね…ナカノさん、お時間はこれ以上取れなさそうですよ?」アルバートは肩にいつもの巨大なビデオカメラを担ぎ、その側面に小銃を嵌め込んだ。
「いや、十分十分…さあて我々も行こうか!今度の新聞は皆のハートにスティングするような内容になりそうだぜ!?」
ナカノはそう言うと立ち上がる。
それと同時に扉とそれを押さえていたトラバースが吹き飛んだ。
「ぐおああああ!」
「トラバース君、ナムウ」
ナカノはそう呟くと持っていた大きな杖で入ってきたクロームを叩き飛ばす。
「まだ、生きてますよっ!」トラバースは瓦礫の山から這い出し、立ち上がるとナカノの前に立った。「で、これから我々はどうするんです?」
「そーだなー」ナカノは顎を撫でながら言う「とりあえずまぁ、略してとりま、今戦ってる人達の手伝いをしながら、バシバシ撮ってこうか!」
「了解!」
★
「護りが固そうだね…」
ハリス達はようやく東の警備塔前までやって来た。ただ、警備塔へ入る入り口の場所に、やたら大きな戦斧を構えた重装甲の敵が仁王立ちしている…。
まだ気づかれてはいないが…いずれ今いる場所がバレれば戦闘は避けられない。
「ちっ…あのタイプ、魔法しか効かねぇ厄介な奴だな…」スラッシュはそう言うと辺りを見回す。「増援が来ないなら突っ込んでも良いんだが…」
「僕が武器にエンチャントをかけても難しいかな?」ハリスは提案してみる。
「分かってるとは思うけど、スラッシュも私も魔剣を持っている訳じゃない。魔法伝導しにくい武器に属性をつけるぐらいじゃ、あいつは倒せないわ」
ラフィーリアはそう言って自分の鋸のような双剣を見つめた。
「そうか…アニ、何か無いかな?」
「鎧を溶かして防御を落とすにも、相手の鎧に使われている金属を特定するのに、一度仕掛けなきゃいけない…」
「ブレードさん、今の聞いてました?」
『あぁ。防御型ウォーリア、バトルアクスの話だな…』ブレードは通信しながら戦っているようだ。『上級魔法を唱えられる奴を送りたいが、距離が距離だ。多分間に合わない。近くでまだ生き残っている魔法使いを捜すんだ!』
「ちょおっと待ったぁ!」ハリスの背後で威勢のいい声が響く。「話は聞かせて貰ったぜ!…あ、撮れてる?」
振り向くと、ぼろぼろの格好のトラバースとアルバート、そしてあちこちに怪我をしたナカノユウが立っていた。
「ナカノさん!?」
「はっはっは!メルハ最強の新聞記者、この私にかかればあんな泥人形、ハナクソでもないわ」
…そう言えば、この人の職業が【大賢者】だったことを忘れていた。
「た、頼んでも…いいですか?」
「任せたまえ」
ナカノは巨体のクロームの前に躍り出た。相手はナカノに気付き、武器を構える。
「カメラ、OKっす」
アルバートがカメラを構え、そのままカメラから銃弾を発射する。
相手の注意がナカノから逸れた所で、ナカノは攻撃を仕掛ける。
「ほいっ」杖を地面に突き立て、ポケットから赤く光る宝石のような物を取り出すと、杖の窪んでいる場所に嵌め込んだ。
そこから拳大の炎が大量に吹き出す!
それはまるでミサイルのように巨体のクロームに向かっていき、着弾した。
「う゛わぁぁぁ!」
くぐもった声を上げてクロームは仰け反るが、まだ倒れはしない。
「ちっ…まぁここから見せ場だけどね」
ナカノは赤い宝石のはまった杖を地面から引き抜くと、体勢を崩したクロームに向けて杖を振り抜いた。
「渾身の[レッドジュエル・シューティンスタァァー]!!」
キィン!
「グ…アアアァァァ…!?」
野球。そう言うスポーツがあったな…。
赤く光る杖は相手の巨体を見事に捕らえ、ナカノが振り抜くと同時に空へ打ち出した。はるか彼方の空へ…
キラーン
「…」
そこにいる全員が絶句した。
真っ二つになった杖を無造作に地面に投げ捨て、ナカノは目を閉じた。
「つまらぬ物を…飛ばしてしまった…」
これがもしゲームの頃のノルターストーリーであるなら、ハリスは運営にナカノの事を通報したに違いない。
ナカノは一体…何者なのだろう?
★
「[絶将・暗黒剣]!」クローム達のリーダーらしき一回り大きなクロームを一刀両断にして、ブレードは辺りを見渡した。「ハリス!状況を報告しろ!」
「東塔は取り戻しました。今、ナカノさんが魔導兵器を操作してます」
ハリスの落ち着いた声が聞こえる。
「そうか、よくやった。こっちももう少しで占領出来る…」
「すみません、一度商業区の第三通りに向かって下さい!」
ハリスは確かにそう言った。
「…何か考えがあるのか?分かった。ここはメースと村雨丸とシオンに任せよう」
「お願いしますね!」
通信が切れた。繋げたままにしておくように言った筈なのだが…。
まぁ、この非常事態だ。きっと慌てて切ってしまったのだろう…
「ランサー!アーチャー!ラミエは俺に続いて商業区第三通りを目指す!他はファトマノを護衛しつつ魔導兵器を死守しろ」
「おう!」部下の声が響いた。
「了解だ」「分かりました」「りょ、了解…」三人もそれぞれ返事をする。
「第三通りって…奇襲には最適の場所ね」メースが欠伸をしながらブレードの脇に立って言う。「ゲート側から大量に敵がなだれ込める場所があるわ」
「一体何を考えている…ハリス…。まあ、ここはお前に任せておけば問題ないな。頼むぞ、メース」
「はいはい」メースはそう言うと、ひらりと真っ赤なローブを翻して魔導兵器の制御装置まで向かった。
「あの…ブレードさん…」ファトマノは心配そうな表情でブレードを見た。「その通信…もしかしたら…」
「安心しろ、ファトマノはここにいてくれ。用事が終わればすぐに戻ってくる」
「はい…」ファトマノは目を伏せると、背を向けて歩き出した。「ごめんなさい」
★
ブレードとの合流場所まで警備塔にあった自動車を使い、なんとか辿り着くことが出来た。
空から巨大な青い炎が降ってきて、クローム達を焼き付くしていく…。
あれが魔導兵器…【エアフレア】か。
相当威力の高い兵器だ。
「よっし…」スラッシュは自動車から飛び降りると、他の人を待たずにブレードの所まで走っていく。
「…ハリス!」ブレードはハリスに手を振った「ここで一体何をするつもりだ?」
「?」ハリスは不思議に思った。「第三通りで集合って確かブレードさんが言ったのでは?今後の作戦について話すと…」
「…なに」ブレードははっとして通信機を取り出す「おい!メース!」
ハリスにも状況が分かってきた。
アニによってハリスはブレードと通信が取れたと思っていた。
だが…
「おいおい…冗談だろ?」
スラッシュは鎌を構える。
辺りをクローム達に囲まれていたのだ。
ドォン!
ハリス達が乗ってきた自動車が破壊される。ブレードはハリスに叫んだ。
「…奴ら通信を傍受して、俺とハリスの声を真似て送っていたんだ…!クソッ!さっきまでの通信は筒抜けか…!」
「通信で喋ったことは…今警備塔にいる戦闘員について…!!」
ハリスは自分で呟いた言葉に戦慄した。
「ハリス!通信機を壊せ!ブレードさんも!」ブレードと一緒に来たランサーがハリスの通信機を取り上げ、踏み壊す。
「うぉぉぉぉ!」
それと同時にクローム達が一斉にハリス達目掛けて突撃してきた。
敵味方混じる混戦状態だ…。
しかも数では大幅に相手に負けている。
このまま続けていれば確実にレベルの低いハリスやアニがやられてしまうだろう。
そして更に次の瞬間…!
「ぐわあああっ!うわあぁぁ…」
ランサーが青い炎に包まれる。
「ランサー!!」
ブレードが慌てて駆け寄り、炎を消すがランサーは全身に火傷を負っていた。
これでは戦えそうにもない…
「援護します!」アーチャーはそう叫ぶとブレードに向けてやって来る敵を的確に射撃していく。
「全く…ついてないわ…」その背中をラミエが大砲を撃ちながら護っていた。
そんなことよりも…青い炎!!?
「あの魔導兵器、私達を狙ってるわよ!」ラフィーリアが間一髪で青い炎を避けながらそう叫んだ。
「あれって…西の警備塔…!?」ハリスはそう言い、手近な一体を斬り捨てる。とは言っても実は峰打ちで気絶させている。
ハリスの攻撃力では相手に致命傷を与えることは出来ないからだ。
アニはそんなハリスを薬品の瓶や持っているピストルで援護していた。
「おい!何があった!?メース!生きてるなら返事をしてくれ!」
ブレードはもう一つ小さな通信機を取り出して、懇願するように話しかける。
『ブレー…ド?』
「繋がったか!通信が傍受されていた!そっちはどうなってる!?」
『どうなってる…か。』メースは弱々しく話していた。『地獄絵図ね…ファトマノ率いるクロームの本隊が裏切った…あいつらいきなり魔導兵器のそばにゲートを展開して…ぐうっ!』
「メース…お前治療魔法があるだろう!何を…まさか…」
『あはは…固まってたからありったけの魔法をぶちこんでやったんだけど…私の魔法で死なない奴がいるのよね…それでよく見たら、戦闘値が10000を超えて…』
「一万…だと?いやそれよりもお前…回復する魔法力がないのか…?」
『分からない…自分でもこの程度で魔力が枯渇するとは思ってないのだけれど…何故か回復魔法が唱えられないの…』
「くっ…!」ブレードは持っていた巨大な機剣を地面に放り投げた。「メース、俺が来るまで持ちこたえていてくれよ…」
そしていつも両腰に差している長めの剣をすらりと抜く。
ブレードの双剣は漆黒に光り、禍々しいオーラを纏っていた。
これから一体…何が始まると言うのか。
ハリスは緊張した面持ちで、それをただ見ていることしか出来なかった。
【続く】
かなり間が空いてしまった…
新作小説の準備やら仕事やらに
なかなか手こずってしまいました。
もしかしたらまた間が空いてしまうかもしれませんが、また見に来て貰えれば
幸いです。それではまた!




