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第六話その4

しばらくすると、ファトマノは簡単な服装…つまり丸腰で親書を持ってきた。

…戦意がないことの証明である。

「ご迷惑をおかけします」

彼女はオレンジ色の髪をツインテールにしたよく見れば若い少女だった。

さっきは髪を下ろしていたからパッと見、30かそこらかと思ったのだが…

アニと同じぐらいか、それよりも若いかもしれない。

おどおどしていて落ち着かなく、研究所の外に出るのは初めてなのだとか。

「また奴らを倒していくのかよー」

地下一階に戻った時、レンがうんざりとしたようにそう声を漏らしていた。

奴らとは勿論…データのクローム達だ。

非常に手強い為、出来ることなら戦闘は避けていきたい所ではある。

「彼らは戦闘にのみ特化したクロームの残影…残念ながら通信も通じません」

ファトマノは顔を伏せた。「彼らが稀に街に攻め込んで行くのも、我々ではどうすることも出来ないのです…」

「マザーコンピューターでラミエを呼んだように、彼らを操作することは?」

ハリスは気になって訊いてみる。

「彼らはマザーコンピューターとの接続を絶っていまして…」ファトマノは道端に転がっている人骨に手を合わせた。

「…確かにこちらに攻め込んでくるのは皆、データのクローム達だな…」

ブレードはひらりと身を翻すと、ファトマノのすぐ近くに潜伏していた盗賊のようなクロームを叩き斬った。

「…あ、ありがとう…」

「少なくとも俺が味方の間は、いつでも護ってやるからな」

ブレードは微笑を浮かべながら言った。

「助かります…あ、この先が大工房区域です。皆さん、お気をつけて!」

「さて!…狩りの時間だぜ?」

レンは両肩に大砲を構えた。

「…戦闘…します?」

ハリスはブレードに訊いた。

剣は今、【闇属性】にしている。

「…そうか!ハリス、お前はオーラセイバーだったな!…例の魔法を頼む」ブレードはハリスの頭をポンと叩くと、武器を背中にしまった。「皆、武器を下ろせ。ハリスが敵に見つからない魔法をかける」

「そんなのあったのかよー!?意外と何でもありじゃないか、その職業」

レンは大砲を下ろすと興奮ぎみに言う。

「それでは失礼…ってあれ?ナカノさん達はどこに…?」

前方の方がやけに騒がしい。

「いい…早く…かけろっ!!」

ブレードはハリスを睨んだ。

「あ、はいっ![クローキング・マスター]!…どうでしょう?」

「(すげえ!足音がしないぞ?)」

レンの声が聞こえた。

音を抑えているため、この魔法がかかった者のみに会話が聞こえる仕組みだ。

「(これは便利だな…レジストは?)」

ブレードがプロらしい質問をする。つまり、レベルが高かったり、見破りのスキルを使う者には効果があるのか?という事を訊いているのだろう。

「(少なくとも4000のオークには効果があるみたいですね…見破りは…多分魔術師…ソーサラー系統をかわしていけば問題ないかと思いますが…)」

「(そうか。また頼るかもしれん、その時はよろしく頼む)」

「(はい!)」

ブレードに頼られるのが嬉しくてハリスは元気よく返事をした。

交戦中のナカノを放っておいて進む。

「皆…!?ワオッ…ノンフィクション」

一瞬こちらに気づいたような気もするが、ナカノは何事もなかったかのように戦闘を続行した。

一行はその後は何事もなく研究所の外に出ることに成功した。

「ここからメルハまでは危険なく行けるはずだ」

ブレードは扉につまづき転びかけたファトマノの手を引きながら言った。

「んーっ…!」レンが伸びをする「なんつーか随分狭苦しい所だったよな…」

「我々の交渉が成功すれば、我々も好きに外に出てきても良いのですがね…」

ファトマノは寂しそうな表情を見せた。

「ふう…ハリス君…」

ラミエは疲れたようにハリスを見た。

「大丈夫かい?」ハリスはラミエの手を引きながら言った。

「さすがに疲れたわ…マザーコンピューターが壊れているから破壊しようと来てみれば…やっぱり私はこれからも縛られ続けることになるのね…不幸だわ…」

「本当に申し訳ないです。ラミエ姉さん」会話を聞いていたファトマノがラミエに声をかける「しかしその…また会えて嬉しいです。確か前会ったのが…」

「20年前ね」ラミエは遠い目をした「あなたが制作されてすぐに私はあそこを出ていった訳だから…」

…ちょっと待て。ラミエって今いくつ?

「うん…推察すると327年と…ぶべっ」

何故かナカノがラミエの隣にいた。

瞬時にラミエがキャノン砲の砲身でナカノを殴り倒す。

「人生で最大の不幸な目に遭いたい?」

ラミエがナカノを冷たく見下ろした。

…ラミエも怒るんだなぁ…

「その反応はビンゴだなっ!?こいつは良いネタになりそうだぜぃ…ぎゃあああ」

ラミエはガスガスと砲身でナカノをメッタ打ちにし始めた。

「ハリス君!」ラミエがこちらを向く。

「はいぃっ!」

「…聞 い た ?」

「聞いてませんっ!」

「も…もし聞いたなら内緒にして欲しいわ…知ってるのはブレードだけだから…」

「え?ブレードさん【も】…?」

次の瞬間、巨大なキャノン砲がハリスめがけて空から降ってきた。

「ハリス君の嘘つきー!!」

「うう…」

「あ、起きた」アニがハリスを見下ろしていた。「あなたはいつも酷い目に逢うのね。私を連れていかないからじゃない?」

「そうかもね…」ハリスは頭を抱えながら起き上がった。「あ、そう言えばブレードさんは?あの後どうなったの?」

「えっと…ここで他の親衛隊メンバーと待機、っていう事を言ってたけれど…」

「わかった」ハリスはそう言うと、起き上がって自分の剣をすらりと抜いた。

今の剣は自分のかつて使っていた魔法剣と同等の威力の物を自分で見繕った物なのだが…やはり手に馴染まない。

「ハリス、そういえばあなたにこれを渡すの忘れてたわ」

アニはそう言うと部屋の引き出しから、長めの片手剣を取り出す。それをハリスにニコニコしながら渡した。

「これ…魔法剣じゃないか!一体どこで手に入れたんだい!?」

魔法剣士オーラセイバーをメイン職業にする人はかなり珍しい理由の一つに、魔法伝導力の高い武器探しがある。

オーラセイバーは剣士として前に出て戦うこともあるが、それではただの剣士の方が良い働きをするだろう。同じ武器を装備したとしても、恐らくオーラセイバーは剣を扱う職としては近接攻撃力が弱い。

オーラセイバーが本領を発揮できる武器…それは【魔法剣】と呼ばれる、魔法伝導力の高い武器のことである。

どうすれば魔法伝導力が高いか分かるのか?数値的な物では分からない。ただ、経験から言うと刀身に文字が刻まれていたり、剣単体に魔力が宿っていたりする武器が高い傾向にある気がする。

「この剣はブレードに頼んでここから北の鍛冶で有名な【パウォール村】の人に作って貰った物を、私が錬金術で空気中のマナを取り込めるように改良した剣よ。…私も結構やれば出来るでしょ?」

「ぼ、僕が貰っていいのかい?」色は赤銅色の錆びた剣のように見えるだろう。

だがこれはかなりの量の魔力を感じる。まさにオーラセイバーの為の武器だった。

「その代わり次からちゃんと私も連れていってよね。もう見てるだけとか、ストレスで頭おかしくなっちゃうから」アニはそう言うと腕を組んでハリスを睨んだ。

「ごめん…次からは一緒に行こう…」

「確かにケミカルバレットはどちらかと言うと生産系の職業だけど…でも成り行きとはいえ、結婚した相手を一人危険な目にあわせるような事はしたくないわ」アニはそう言うと白衣の懐から白いハンドガンを取り出してウインクした。「ノルイに頼んで、装備だって一新したんだから」

「敵襲だーっ!」突然部屋の中にスラッシュが駆け込んできた。

スラッシュはポタポタと地面に赤い染みを作っている。

「スラッシュ!?」

ハリスは慌てて立ち上がる。

「待って、回復するわ…」

「心配いらねぇ、返り血さ」スラッシュはそう言ってアニを止める「そんな事より…他の皆知らねぇか!?この部屋以外には誰も居なかったんだが…」

「私はここでハリスの看病をしてたけど…街の非常サイレン、鳴らなかったわよね?敵襲ってどういうこと!?」

アニはスラッシュに駆け寄った。

「俺も詳しくは知らねぇ。けど、街の奴らの話によると【街の中に】ゲートが現れたらしい!中から結構なレベルのクロームが出てきて…東西の警備塔があっという間に占領されちまったんだ!って言ってた」

「警備塔が…サイレンが鳴らせなかったのはそれが原因か…でも何でクロームがそんなことを…?」

「スラッシュ、他の皆はもう現地にいるのかも…私達もついていっていい?」

アニがスラッシュに声をかける。

「あぁ!こっからなら東の塔が近い!街の人は中央区に避難させてっけど、敵は塔を抑えたら中央区に来るはずだぜ…」

「じゃあ急ごう!スラッシュ、道案内を頼んでいいかい」

ハリスは剣を構えて言う。

「任せろ!…頼りにしてる。じゃ、行くぜ!」スラッシュは階段を駆け降りた。

ハリスもそれに続く。

外では沢山の兵士とクロームが交戦していた。あちこちの建物から火の手が上がっている。…最悪の状態だ。

「私がもう少し早く気づいていれば…」

アニが頭を押さえた。

「アニ、気にすんな。皆は恐らくあの建物の中は安全だからお前らを置いてったんだろうさ」

「私だって戦えるわ!一言言ってくれれば…」アニは荒い口調で叫んだ。

「…今回は敵の数が多い。レベルもそこそこ高い奴らだ。そして原因は街の中に発生したゲート…現段階でゲートを消せるのは異世界から来たっていうお前らしかいねぇ。ブレードさんや他の奴らも、お前らの安全を確保したかったんだろうな」

そう会話しているうちに、スラッシュに一人のクロームが襲いかかった。

「【デルタエッジ】!」

両手剣を振り上げ、クロームが叫ぶ。

「うおあっ…!」

不意の出来事だった為、スラッシュはまともに敵の攻撃を受けてしまった。

スラッシュの体から潜血が飛び散るが、スラッシュは仰け反りもせず、巨大な禍々しい鎌を振り上げた。

「スラッシュ!」アニが叫ぶ。

「…ブレード親衛隊長が一人、スラッシュ!俺を殺すなら、一撃でケリつけやがれ!行くぜ!【血染めのスラッシュ】!」

黒い軌跡を描き、鎌はクロームの体を左肩から一刀両断した。それと同時にクロームから出た血が、スラッシュの黒い鎧にバシャッとかかった。

…血を浴びている…?

「最高だ…たまんねぇよ…」スラッシュは鎌を振り上げて歓喜している。「さぁ、次だ次ィ!ハリスとアニも遅れんなよ!ヒャハハハハハッ!」

「ハリス君!」後ろから声がしたので振り返ると、ラフィーリアとシェイダーがこちらに向かって走ってきた所だった。

「ラフィーリア!シェイダーも!」

「基地に戻っても居なかったから少し心配したよ…私はシェイダーを見つけてから、東の塔に行く所だったの!」

「…お前には色々と言っておきたいが…まぁ、これが終わってからにしてやる」

シェイダーはそう言うと見下すようにハリスを睨んだ。

「スラッシュと一緒だったんだ…」ラフィーリアは東の塔の前で暴れているスラッシュを見て呆れたような顔をした。

「さっき怪我したんだよ…一度傷を治した方が良いんじゃないかな…?」

だが、ハリスがそう言ってもラフィーリアは首を横に振った。

「あの状態のスラッシュは回復魔法を受け付けないの…敵へのダメージ、敵からの攻撃、敵撃破時、鎌のリジェネレイト機能…あらゆる物でHPをドレイン…【吸収】してるの」

「…敵がいる限り、あいつは死なん」

シェイダーはそう言うと迫ってきた一体のクロームの頭を撃ち抜いた。

「お前ら!さっさとついてこないと、次の敵が湧くぞ!この調子で進もうぜ!」

「さ、ハリス君…行きましょ!」

ラフィーリアはハリスにウィンクして見せると、スラッシュの後を追った。

…背後でかなり大きい音でシェイダーが舌打ちする音が聞こえた…。

【続く】


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