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第六話「メルハ新聞いつでも号外」その1

アーチャーを助け出した後、ハリス達は無事に町に戻ってきた。

マナの状態も良く、もう少しで病院を退院できるとの事だった。

それから数週間が経った…。

「ハリス!いるか!?」

ブレードの声がエントランスに響く。

「はい?」ハリスは自室から眠い目をこすって出てきた。昨日はモンスターについて独学していて、少し寝た時間が遅い。

「いたか…ちょっと来てくれ。…あぁ、アニはいるか」

アニに内緒で連れ出すのはもう懲りたのか、ブレードは聞いてきた。

「アニですか…」自室のベッドを振り返る。ベッドにはアニ、ラミエ、ラフィーリア、アーチャー、そしてノルイが横になっていた。「…寝てます。」

「そうか…」ブレードも何かを察したらしい。「ハリス…若いやつは気苦労が多いんだな…悩み事があったら言えよ?」

「…えぇ。」

…机で勉強している間、やけに後ろが騒がしいとは思ったのだが…。

まさか背後で女子会をしていたとは…。

「…ならいい。置き手紙でも置いて準備が出来たら来てくれ」ブレードはそう言うと鞄の中身を確認し始めた。

ハリスは簡単に持ち物を整え、アーチャーに買って貰った銀の胸当てを着ける。

ブレードの所に行くと、ブレードは無言で一枚の新聞をハリスに見せた。見出しには、【ゲート破壊の英雄にインタビュー予定!】とでかでかと書かれている。

…すごい違和感があった。

縦書きの新聞の題名は【メルハ新聞!いつでも号外号…てんき:晴れのちくもり】

…いやまずその位置は天気じゃなく、普通誰が書いたかを書く場所だよね!?

…突っ込み所が多すぎる…。

「…」ブレードは無言で紙を鞄にしまうと、ため息をついた。「…あの馬鹿と話をするには、少しお前の協力が必要だ…頼む、少し付き合え」

「分かりました…」

新聞。定義的には、

社会の新しい事件や問題を出来るだけ早く知らせるための定期刊行物のことだ。

でもブレードが見せたこれはまず、定期じゃない。何だよ、【いつでも号外号】って。絶対講読者をナメてるとしか思えん。

しかも見出しにインタビュー予定?

いやそういうものを見出しにはしないだろう普通。なかったのか?ネタが無かったのか?…あまりにもあれは新聞とはかけ離れた物体だった。

「…ここだ」ブレードは古ぼけた看板のある建物を指差した。

【○カノユ○新聞会○】

所々字が外れている…直せよ…。

ブレードはノックもせずに中に入った。

カビ臭い臭いで満ちた建物内には、机が三つあり、一番奥にソファーがあった。

「おー…ブレード君だー…」

そのソファーで丸まって寝ている男にブレードは話しかけられる。

「おい馬鹿。何だこの記事は…こんなことしてたらまた講読者が減るだろうが」

ブレードは新聞を彼に突きつける。

「ふぁ?」男は新聞を手にとって読み始めた。「あー…これか?んと、たしか三週間前に鉛筆で書いたやつ」

「そういうことじゃない。はっきり言ってやろうか」ブレードは腰に手を当てて怒鳴った「人の家の扉にこういうゴミを貼り付けないで頂きたいのだが?」

「ゴミ!?」男は飛び起きた。「ゴミとは失敬な…」

…ゴミ以外の何なのだろう…

「あれはな…私のスタッフの一人、トラバース君が昨日徹夜で5枚手書きでコピーしたものの一枚なのだぞ!?世界に5枚しかない、とても貴重な新聞なのだ!」

…コピー機使えよ…

もしかして無いのかと思ったが、部屋の片隅には普通にコピー機が稼働している。

「…どうしてコピー機を使わなかったんですか…?」

気になってハリスは訊いてみた。

「おーハリス君、いい質問だね」…何故名前を知っているのだろう…「あのコピー機、私専用の奴で仕事用じゃないんだ」

「そうか」ドゴオン…!

ブレードがコピー機を叩き壊した。

「ノアあぁあぁあぁ!?」可笑しな悲鳴を上げて男は煙の上がるコピー機に駆け寄る。「だ、大丈夫か、ハナクソ」

…コピー機になんという名前を付けるのだろうか…

「…これに懲りたら、もう二度と俺の家の前にゴミを貼りつけるなよ」

ブレードはそう言うと男を睨んだ。

「知ったことか!我々の崇高な新聞魂を否定すると言うのかねー君は」

「なら訊くが、貴様この新聞は自分の中でも一番上手く書けた方なのか?」

「うっわ…これはクソだ」…自分で認めたぞ…「だが、ゴミではない」

「似たようなものだろ!」

「ああそうさ、今回の新聞は歴代の新聞の中でも10番目ぐらいハナクソなレベルさ!全く、こんなもの5枚トレースした馬鹿の顔が見たいね…あぁ君か」

「ナカノさん!最悪ですよ!」近くの書類の山からズボッと手が伸びる「新聞を写せって言ったの貴方でしょう!」

「…まぁ、何だ、おつ」ナカノと呼ばれた男は鼻をほじくりながら言った。

「辞めてやる〜!」

書類の山から悲痛な声が漏れた。

「…書けないのはネタが無いからか?」

ブレードは近くの椅子に腰かける。

「ネタかぁ…」ナカノは近くの台所で手を洗いながら唸る。「俺は赤身は嫌いで」

「寿司じゃない。殺すぞ…」ブレードは腰の剣に手を沿える。

「まぁまぁ、確かに書くネタが無い。必死に考え抜いた結果…次回予告を書くことにしたのだよ〜♪小説好きなら必ず次巻予告を見るだろう?ばっちりじゃないか」

「で…その英雄殿にインタビューは出来たのか?」ブレードは皮肉を言う。

「いや、まだだ。…よしハリス君、ちょっとこっちに来てもらおうか」

ナカノはハリスに椅子をすすめた。

「まぁ待て」ブレードはナカノを手で制した。「ハリスを取材する代わりに…」

「してハリス君。ズバリ童貞?」

「[絶将・暗黒剣]!」

ブレードはナカノに斬りかかった。

ナカノは手に持ったペンでブレードの必殺技を受け止める。衝撃波で散乱していた部屋が更に書類がばらまかれ足の踏み場の無い場所に変わった。

「…代わりに、なんだい?」

「聞いているならこっち見て聞け」

「それじゃあ非効率じゃないか」

ナカノは悪びれた様子が全くない。

「…存在自体非効率なお前が言うな。…ハリスを取材する代わりに、もう二度と俺の家の前に新聞を貼りつけないでくれ。はっきり言ってあれじゃあ馬鹿が住んでいる家みたいだろうが」

「…分かった。もう貼り付けない。」

「…配達もするなよ」

ブレードは冷ややかに言った。

「ようし、そう来たか…ってええ!?」ナカノが突然ペンを落とした。「…なんで!?毎日…じゃないけどたまにあんなに一生懸命配達してくれているじゃないか!主に…っていうか全部トラバース君が」

「やっぱり配達する気でいたか」ブレードは腕を組んだ。「最初のうちのあの楽しい記事はどこへ行ったんだ?最近のはもう読むと頭が悪くなる記事ばかりだろう」

「素晴らしい魔法効果だな…そりゃあ君も私の達文を読まなくなるわけだ」

「比喩だ比喩!…いいか、それだけ言うなら次の新聞は少しは新聞らしいものを書け!でなければ政府に言って、この建物を取り壊してもっと有意義な建物を建てるぞ分かったかこの野郎」

「よし分かった。ならこっちも条件…」

「よし分かった。政府に取り壊しの依頼文を提出してこよう」

「ふっふっふ…」ナカノは突然笑い出す「…実は冗談だろう?分かっているさ、君が優しいことは。何年付き合った仲だと言うのだね…5年だ!確か5年だ!」

「いや、3年だが」

ブレードが言い直す。

「間違いない!3年だ!」

…こいつ馬鹿だ…

「…ちなみに俺の権限なら本人の同意なしに出来るぞ?ほら、昨日一時間かけて作った書類だ。これを提出すれば…」

「このダークスプリンター(ライター)で可憐で綺麗なフラワーを咲かせてやんよっ!レッツ・フォイヤァ!」

ナカノは電光石火の動きでブレードの書類に火を点けた。ブレードは近くの書類の山にそれを放り投げる。

「ハリス、行くぞ」

「え?ええええ!?」

「ふははは!これでここを潰せなくなったなぁ!?残念ながらブレード君、キーミーの〜負ーけーだーよ?あれ゛っ…!?ワオッ、ノンフィクション…」

ナカノはようやく会社が火事になっていることに気づいたらしい。

…火はおよそ数十分で消し止められたが、社長のナカノは股関3針を縫う大怪我。

「よしっ書けたぞ!最強のスクープが」

「…阿呆か。」ブレードは焼け跡の作業を指示し終えると、何故か肩をわなわな震わせているナカノの肩に手を置いた。「まぁ、会社を燃やしたのはやり過ぎだったかもしれん…」

「嬉しくなんてない…嬉しくなんて…」…そりゃそうだ。「もう怒ったぞブレード!君は俺の脂肪に火を点けた!これで俺の体重は10キロは痩せてしまうだろう!いいか、最強のスクープを書くまで付き合ってもらうぞ!生きてるか助手たちよ!」

「うぃー」トラバースが瓦礫の山から飛び出てくる。「ちなみにナカノさん、アルバートは今日休みですよ」

「連れてこい…海を見せてやるってな」

ナカノは低い声で格好つけながら言う。

「血の海じゃないことを願いますよ」

トラバースはどこかへ連絡を始めた。

「すまんな…ハリス」

ブレードは申し訳なさそうに言った。

「いや…というか、ナカノさんって一体何者なんですか…?」

「…奴は確か昔は聖戦に参加するほどの実力のある賢者だった。三年前偶然にこの町で会ってな…一体、どこをどう間違えたのやら…」

「よぅしいいかい二人とも」ナカノはメモに何かを走り書きした「今から社会問題を解決しに行くぞー!」

「…具体的には?」

ブレードがナカノを睨みながら言う。

「君たちクロームって知ってるかい?」

クローム。ゲーム時代にハイレベルなプレイヤーが何体か連れていけるAIで動く自分専属の人造人間のことだ。

「…確か、研究自体がメルハの倫理規定に反しているから、メルハを出て南側に研究所があるんでしたよね?」

ハリスはナカノにそう尋ねた。

「その通り。彼らは生物的には人間とは大差ない肉体をしている個人であるのに人権を確保出来ていないからね…迫害対象にもなりやすいのさ」

「そんな…ひどい…」

「クロームは遺伝子情報を機械でいじり、人工的な体に脳を入れる言えば簡単な作業で完成する…だから少し前に製造を研究班のクロームに任せて普通の研究者たちは研究をするってやり方になったんだが…」

ブレードはハリスに説明を始めた。

「…それで出来た大量のクロームを使ってクローム達は反乱を起こしてね。メルハにもたまに攻め込んで来るんだけど…」

ナカノがウインクしてブレードの言葉を取り次ぐ。

「そうなんですか…」それは初耳だ。確かに設定上でも、クロームは人と大差ない知能を持っている。というか人造であれあれは人なのだ。ということになっている。

「国家は最近頻繁してきた獣人たちの侵攻のことでいっぱいいっぱいみたいだかさ…俺らで解決しよう…!」

「…まぁ、この案件はいずれは取りかからなければならんとは思っていたしな…よし、今動ける暇な奴と連絡を取るぞ」

「おっとブレード、助っ人さんは一人で頼むよ。戦闘部隊は少数の方がいい。」

「…分かった。」

ブレードがため息をつきながら連絡を入れようとした時だ…。

「おっ…ブレードさんにハリス!」

青いマントの旅人服に二丁のランチャーを背中にぶら下げた若い男がやって来た。

「レンさん!」

ハリスは思わず叫んだ。

そう。ラフィーリアとクレバスに落ちたとき、町まで護衛をしてくれた人だ。

「…丁度良い所に来たな。レン、これから時間空くか?」

「あ、ちと待って…」レンは無線機を取りだし話し出す「悪いミント、ブレードさんに会っちまってさ…ちょっくら遊んでくるわーあとよろっ!…さ、予定空きましたよ?どこ行くんですかい?」

「…いいのか?」

「何てこと無いって!珍しく多忙なブレードさんからのお誘いだからな!」

こうして、取材班はナカノと助手のアルバートとトラバース。戦闘部隊はハリスとブレードとレンの六人メンバーで研究所に向かうことになった。

【続く】


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