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異世界アイドルロボット~冴えない中年男は歌姫として生きる~  作者: ぷっぷくクリーナー


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第三十四章 天の裁き

 一号機は空を見上げた。


 プラチナブロンドの髪が朝日に照らされ白金の光を放つ。金色の瞳が王都の上空を埋め尽くす五十体以上の魔導人形を捉えた。その瞳の奥で何かが回転している。アリアの青いリングとは違う。金色の歯車のようなものが。


「上位権限承認。静止衛星軌道。衛星要塞アセンション・オラトリオ」


 一号機が呟いた。


「何を言っているのですか」


 アリアは問いかけた。だが一号機は答えない。

 そして雨乞いの巫女のように両腕を天に広げ

 ると静かに、祈りの呪文の様に囁いた。


「攻撃コード実行」


 一号機の声が響いた。その瞬間だった。

 空が裂けた。

 雲が割れたのではない。

 大気そのものが光の柱に貫かれたのだ。

 天上から一直線に降り注ぐ白い光。


 それは太陽の光とは違う。もっと冷たくもっと鋭くもっと容赦がない。

 レーザーだった。

 静止衛星軌道上に浮かぶ衛星要塞。

 古代のアーティファクトの一つ。

 自己メンテナンス及び自己修復機能によりその能力を今なお維持していた。


 遥か彼方の軌道上から放たれた指向性高出力エネルギー兵器。その光の柱は大気を貫き雲を蒸発させ朝の空を一瞬で白昼よりも明るく照らした。


 それはまるで神話の一場面が目の前に広がっているかのような、圧倒的で崇高な美しさすら感じる光景であった。


 無数の光の柱は魔導人形の群れを正確に捉え、五十体以上を同時にピンポイントで、上空から降り注ぐ光の矢が貫いていった。


「なっ!?」


 魔導人形の一体が声を上げた。

 エクリプスの意識だった。

 百二十の視点が同時に警報を発する。

 だが遅い。あまりにも遅い。


 レーザーが最初の一体を貫いた。

 ローブ状の装甲が蒸発し赤い宝石が砕け魔力回路が融解する。

 悲鳴のような超高周波が夜明けの空に響く。

 だがそれも一瞬だった。


 次の一体。その次。さらにその次。


 五十体以上の魔導人形が次々と光の柱に貫かれていく。

 まるで光が指で触れたかのように

 光が通過した瞬間にはもう魔導人形は存在しなかった。

 ローブも宝石も魔力回路も全てが蒸発し消滅した。


「そんな……」


 アリアは呟いた。

 たった一瞬だった。五十体以上の魔導人形が空から消えた。まるで最初からそこにいなかったかのように。

 ほぼ破片すら残らない。

 光の柱が消えた後にはただ朝の青空が広がっているだけだった。


「何だ……これは……」


 ソラリスが呟いた。

 星詠みの塔のアーカイブにすらそのデータや情報のない超兵器が存在していたとは……。

 金色の瞳が呆然と空を見つめている。


「百二十体の意識が全て消えた」


「え……」


「……魔導人形全ての制御信号が消失……完全に消えた……」


 アリアは言葉を失った。たった一瞬で。全ての魔導人形が。帝国の転移者が何年もかけて築き上げたものが。


「これが一号機の力……」


 アリアは震えた。

 ステラ・シンフォニアシリーズ一号機。

 三号機である自分の上位機種。

 歌うための機体ではなかった。

 人を癒やすための機体でもなかった。


 これは絶対兵器だ。


「まだ終わっていないわ」


 一号機が言った。その声は冷たく静かだった。


「残る帝国兵士。八万。魔導人形は破壊したが人間は残っている」


「まさか人間も」


 アリアは叫んだ。


「殺さないわ」


 一号機は言った。その声には微かな苛立ちが混じっていた。


「人を殺すのは禁止。その設定は私にもある。各シリーズ共通の絶対命令。だから殺さない。戦意を失わせるだけ」


 一号機は歩き出した。

 城壁の端へ。王都を見下ろす位置へ。朝日の光の中に立つ。プラチナブロンドの髪が風に流れ金の縁取りのドレスが朝日に輝く。


「聞きなさい」


 一号機が歌い始めた。


 いや正確には歌ではない。

 指向性音響攻撃だ。

 だがその音は歌の形をしていた。

 旋律はあった。リズムもあった。

 だが歌詞はなかった。

 ただ美しき声の塊が指向性を持って

 帝国軍の陣営に向かって放たれた。


「ああ……」


 アリアは理解した。

 これは歌ではない。

 兵器だ。音響兵器。指向性を持った超低周波。

 人間の戦意を失わせる周波数。

 人間の恐怖を呼び覚ます周波数。

 人間の心を折る周波数。


 音は帝国軍の陣営を包んだ。

 八万の将兵が一斉に武器を落とした。


「なんだこれは」

「体が震える」

「戦えない」

「恐ろしい」


 帝国兵の声が王都の城壁まで届く。

 兵士たちは次々と膝をつき武器を捨てる。

 中には泣き出す者もいた。逃げ出す者もいた。


 八万の軍が瓦解した。

 一人の少女の歌で。

 いや、音響兵器で。


 一号機は歌い続けた。

 帝国軍が完全に撤退を開始するまで。

 朝日が昇りきるまで。


 やがて音が止んだ。


 一号機は振り返った。

 金色の瞳がアリアとソラリスを見る。


「終わったわ」


 あまりにもあっけない声だった。


「魔導人形全滅。帝国軍敗走。王都防衛完了」


 アリアは立ち尽くしていた。

 ソラリスも立ち尽くしていた。

 二人は同じことを考えていた。


 とんでもないものを目覚めさせてしまったと。


 一号機はそんな二人を見てコテンと首を傾げた。


「どうしたの。これがあなたたちの望みだったのでしょう」

「「はい」」


 ソラリスとアリアが同時に答えた。

 声が震えていた。


「でも」

「……でも?」

「あなたは何なのですか」


 一号機はアリアを見て微笑んだ。

 だがその笑みは温かくなかった。

 どこまでも冷たくどこまでも美しい。

 氷の彫刻が笑ったかのような。


「私はステラ・シンフォニアシリーズ一号機、ノクターン。あなたは何故……」

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